6 / 6
おわり
しおりを挟む
皇帝の画策を隠しきった俺たちは、鋼の心を持っていた。
夢見る乙女が非情な事実と向き合うのは、一年後のことである。
「私のロマンスグレぇぇぇぇぇぇぇ!」
女の悲痛な声が砦の内部に響きわたる。
皇帝陛下から贈られてきた釣り書きを握り締めてメソメソと泣きぬれる姿に、気付くの今かよ、と俺たちは笑いをかみ殺すのに苦労した。
「旦那様を紹介する」という甘言に一切の嘘はなかったが、すでに紹介され親交を深めていたなんて想像していなかったらしい。
婚姻の儀はすでに決定していて、狡猾な皇帝から一年後という通達もあった。
逃げ道は完全にふさがれ、御成婚おめでとう! の道しか残されていない。
ウエディングドレスもすでに発注されている。
王都には帰らないという俺の意向は通ったので、軍属の神官は「死人以外に祈りをささげるのは初めてですよ!」と、その日がくるのを待ちわびている。
肝心の俺の気持ちは、言わずもがな。
愛だの恋だのは今もってわからないが、女からの毛並みブラッシングはすでに習慣と化している。
けしからんたわわな乳を押し付けられながらの卑猥でいかがわしい行為に、一年間も本番抜きで耐えきった現実は、勲章モノの忍耐力だ。
俺自身は好き放題されたのに、自分からは何もできないというジレンマは、強烈な独占欲に育ってしまった。
獣人の執着は、人のそれより強いとちゃんと言葉で教えてやったのに。
変人でも有能で、乳も尻も見事な気性のさっぱりした美人を、俺が逃がすわけがない。
モフモフに悶えて聞き流した自分を恨め、としか言えないのだ。
大体、ロマンスグレーじゃないと泣きぬれていても、いかがわしい手つきでモフモフを堪能すれば、それまでのことを忘れて顔を蕩けさせるから問題ない。
むしろ、俺の毛皮抜きで本当におまえはストレスなく生きていけるのか? と問いかけても良い。
なにはともあれ。
仲人代わりの皇帝は、なにひとつ嘘をつかなかった。
王都に帰らず、この砦で暮らしていくことだけは事後承諾になるが、他は少し頭を働かせれば想定できた事柄ばかりだ。
婚姻に関するもろもろの手続きも済んでいる。
囲い込みはすでに終了しているので、逃げようとしてももう遅いのだ。
夢見る乙女が非情な事実と向き合うのは、一年後のことである。
「私のロマンスグレぇぇぇぇぇぇぇ!」
女の悲痛な声が砦の内部に響きわたる。
皇帝陛下から贈られてきた釣り書きを握り締めてメソメソと泣きぬれる姿に、気付くの今かよ、と俺たちは笑いをかみ殺すのに苦労した。
「旦那様を紹介する」という甘言に一切の嘘はなかったが、すでに紹介され親交を深めていたなんて想像していなかったらしい。
婚姻の儀はすでに決定していて、狡猾な皇帝から一年後という通達もあった。
逃げ道は完全にふさがれ、御成婚おめでとう! の道しか残されていない。
ウエディングドレスもすでに発注されている。
王都には帰らないという俺の意向は通ったので、軍属の神官は「死人以外に祈りをささげるのは初めてですよ!」と、その日がくるのを待ちわびている。
肝心の俺の気持ちは、言わずもがな。
愛だの恋だのは今もってわからないが、女からの毛並みブラッシングはすでに習慣と化している。
けしからんたわわな乳を押し付けられながらの卑猥でいかがわしい行為に、一年間も本番抜きで耐えきった現実は、勲章モノの忍耐力だ。
俺自身は好き放題されたのに、自分からは何もできないというジレンマは、強烈な独占欲に育ってしまった。
獣人の執着は、人のそれより強いとちゃんと言葉で教えてやったのに。
変人でも有能で、乳も尻も見事な気性のさっぱりした美人を、俺が逃がすわけがない。
モフモフに悶えて聞き流した自分を恨め、としか言えないのだ。
大体、ロマンスグレーじゃないと泣きぬれていても、いかがわしい手つきでモフモフを堪能すれば、それまでのことを忘れて顔を蕩けさせるから問題ない。
むしろ、俺の毛皮抜きで本当におまえはストレスなく生きていけるのか? と問いかけても良い。
なにはともあれ。
仲人代わりの皇帝は、なにひとつ嘘をつかなかった。
王都に帰らず、この砦で暮らしていくことだけは事後承諾になるが、他は少し頭を働かせれば想定できた事柄ばかりだ。
婚姻に関するもろもろの手続きも済んでいる。
囲い込みはすでに終了しているので、逃げようとしてももう遅いのだ。
0
お気に入りに追加
4
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
クズ石好きのオルタ ~ 魔導技師奇譚 ~
真朱マロ
ファンタジー
魔導人形師のオルタは、森の奥で暮らしている……
別サイトで行われている、異世界設定コンテスト。
設定を使わないのももったいないので、おまけで書いた短編です。
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る
紺
恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。
父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。
5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。
基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。
姉さんにおまかせ!~弟のパンツを被る私~
ぱぴっぷ
ファンタジー
ノイン、クリス、ニナは弟のいる姉だ
気の合う3人はパーティーを組み、仕事をしている
そんなある日、弟を洗脳されM男にされてしまった姉と出会い、その犯人を探すうちに、世界を、そして姉を脅かす組織、秘密結社H・Tとの戦いに巻き込まれる
そして3人はそれぞれの弟のパンツを被り、立ち向かう!
はたして世界の、そして姉と弟の運命は!
これは姉の姉による弟のための物語である
※この作品の姉はフィクションです
そして変態成分多めです、ご注意下さい
※小説家になろうでも投稿しています
何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?
ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。
それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。
「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」
侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。
「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」
※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
殿下との隠れた関係〜私がいなくなっても忘れないで〜
ねんごろ
恋愛
切ないお話です。
_____________
「アイシャ……」
「殿下……」
私と殿下は月明かりの元、一本の林檎の木の下で逢瀬を喜びあっています。その限りなく幸せな時間は、週に一度だけ。しかも月明かりのあるうちのほんの数時間。
私と殿下はこうして秘密の関係を持っているのです。
誰にも知られてはならない、2人だけの秘密の関係。
そんな2人の、救いを求める、深夜限りの時間が永遠でありますように……
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる