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おわり

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 皇帝の画策を隠しきった俺たちは、鋼の心を持っていた。
 夢見る乙女が非情な事実と向き合うのは、一年後のことである。

「私のロマンスグレぇぇぇぇぇぇぇ!」

 女の悲痛な声が砦の内部に響きわたる。
 皇帝陛下から贈られてきた釣り書きを握り締めてメソメソと泣きぬれる姿に、気付くの今かよ、と俺たちは笑いをかみ殺すのに苦労した。
「旦那様を紹介する」という甘言に一切の嘘はなかったが、すでに紹介され親交を深めていたなんて想像していなかったらしい。

 婚姻の儀はすでに決定していて、狡猾な皇帝から一年後という通達もあった。
 逃げ道は完全にふさがれ、御成婚おめでとう! の道しか残されていない。
 ウエディングドレスもすでに発注されている。
 王都には帰らないという俺の意向は通ったので、軍属の神官は「死人以外に祈りをささげるのは初めてですよ!」と、その日がくるのを待ちわびている。

 肝心の俺の気持ちは、言わずもがな。
 愛だの恋だのは今もってわからないが、女からの毛並みブラッシングはすでに習慣と化している。
 けしからんたわわな乳を押し付けられながらの卑猥でいかがわしい行為に、一年間も本番抜きで耐えきった現実は、勲章モノの忍耐力だ。
 俺自身は好き放題されたのに、自分からは何もできないというジレンマは、強烈な独占欲に育ってしまった。

 獣人の執着は、人のそれより強いとちゃんと言葉で教えてやったのに。
 変人でも有能で、乳も尻も見事な気性のさっぱりした美人を、俺が逃がすわけがない。
 モフモフに悶えて聞き流した自分を恨め、としか言えないのだ。

 大体、ロマンスグレーじゃないと泣きぬれていても、いかがわしい手つきでモフモフを堪能すれば、それまでのことを忘れて顔を蕩けさせるから問題ない。
 むしろ、俺の毛皮抜きで本当におまえはストレスなく生きていけるのか? と問いかけても良い。

 なにはともあれ。
 仲人代わりの皇帝は、なにひとつ嘘をつかなかった。
 王都に帰らず、この砦で暮らしていくことだけは事後承諾になるが、他は少し頭を働かせれば想定できた事柄ばかりだ。

 婚姻に関するもろもろの手続きも済んでいる。
 囲い込みはすでに終了しているので、逃げようとしてももう遅いのだ。
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