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第8章
第1話(2)
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「あ、えっと、かえって荷物になっちゃいますかね……。邪魔だったらごめんなさ――」
「こういうの」
なにを言えばいいのかわからないまま、弁解めいたことを言っている途中で達哉の声がかぶる。莉音は口を閉ざして次の言葉を待った。
「あ、いや、その……、莉音くんはこういうの、よう作るんやろうかって」
莉音はきょとんとした。
「え? いいえ。今日はじめて作りました」
「はじめて?」
「はい。あの、うち母もあんまりお酒は飲まなかったので、こういう経験はしたことがなくて。だから効果があるかどうかは保証はできないんですけど」
「え? ほんとに? ほんとにいままでだれにも、作ったことないん?」
「はい。あ、もちろん味見はちゃんとしましたけど」
「あ~、そうなんや。そっか、はじめて……」
なにかマズかっただろうかと気になったが、達哉は途端に笑顔になった。
「いや、ごめん。なんでもない。すごく嬉しい。ありがたくいただきます」
「あ、はい」
応えつつ、イマイチ状況が呑みこめない。だがとりあえず、受け取ってもらえたのでよかったと思うことにした。
「あの、それじゃあ僕、そろそろ失礼しますね。あんまり長居してもお邪魔でしょうから。お身体、大事にしてください。一週間、本当にありがとうございました。子供のころに遊んでもらったお兄さんに、十年ぶりに会えて嬉しかったです」
「あ、うん、こちらこそ」
言ってから達哉はふと背後を確認し、そのまま上がり框を下りて玄関先のサンダルを履いた。
「一緒にそこまで」
玄関のドアを開けてうながされたので、おとなしくしたがった。
おもてに出ると、まだ午前中だというのに噎せ返るような熱気が全身を包みこむ。達哉は、あち~っ!と声をあげて風を送りこむようにTシャツの襟もとをパタパタと煽いだ。
「わざわざ来てくれてありがとう。疲れてんのに、スープまで作って持ってきてくれて」
「いいえ、全然。最後に顔も見たかったので」
莉音が言うと、達哉も「俺も会えてよかった」と同意してくれた。
「あ~っ、これから大阪戻って明日から仕事とか無理~! ずっと実家でゴロゴロしてて~!」
心底嫌そうに言うので、莉音も笑ってしまった。
「お休みって、あっという間に終わっちゃいますよね」
「ほんと、それな。なんならずっと莉音くんに料理教室の講師やってもろうて、専属運転手してたいわ」
「僕、お給料払えないですよ?」
「いやいや、莉音くんならすぐ人気講師になって、ガポガポ稼ぐようになるって」
なんならパトロンも何人もつくはずやしと断言するので、その自信はどこからくるんですかとますます笑い転げた。
先程までの微妙な空気はすっかりなくなって、いつもの打ち解けた雰囲気に戻っていた。
「あ~、ほんと、ずっとこうしてたかったな」
「また会えますよ。僕もこれからは、できるだけおじいちゃんたちに会いにこようと思ってるので」
「莉音くんは、いつごろ東京に帰るん?」
「そうですね、もうそろそろかなって」
「そっか……」
田中家の畑がひろがる私道を抜け、農道に差しかかったところでふたりは足を止めた。
「こういうの」
なにを言えばいいのかわからないまま、弁解めいたことを言っている途中で達哉の声がかぶる。莉音は口を閉ざして次の言葉を待った。
「あ、いや、その……、莉音くんはこういうの、よう作るんやろうかって」
莉音はきょとんとした。
「え? いいえ。今日はじめて作りました」
「はじめて?」
「はい。あの、うち母もあんまりお酒は飲まなかったので、こういう経験はしたことがなくて。だから効果があるかどうかは保証はできないんですけど」
「え? ほんとに? ほんとにいままでだれにも、作ったことないん?」
「はい。あ、もちろん味見はちゃんとしましたけど」
「あ~、そうなんや。そっか、はじめて……」
なにかマズかっただろうかと気になったが、達哉は途端に笑顔になった。
「いや、ごめん。なんでもない。すごく嬉しい。ありがたくいただきます」
「あ、はい」
応えつつ、イマイチ状況が呑みこめない。だがとりあえず、受け取ってもらえたのでよかったと思うことにした。
「あの、それじゃあ僕、そろそろ失礼しますね。あんまり長居してもお邪魔でしょうから。お身体、大事にしてください。一週間、本当にありがとうございました。子供のころに遊んでもらったお兄さんに、十年ぶりに会えて嬉しかったです」
「あ、うん、こちらこそ」
言ってから達哉はふと背後を確認し、そのまま上がり框を下りて玄関先のサンダルを履いた。
「一緒にそこまで」
玄関のドアを開けてうながされたので、おとなしくしたがった。
おもてに出ると、まだ午前中だというのに噎せ返るような熱気が全身を包みこむ。達哉は、あち~っ!と声をあげて風を送りこむようにTシャツの襟もとをパタパタと煽いだ。
「わざわざ来てくれてありがとう。疲れてんのに、スープまで作って持ってきてくれて」
「いいえ、全然。最後に顔も見たかったので」
莉音が言うと、達哉も「俺も会えてよかった」と同意してくれた。
「あ~っ、これから大阪戻って明日から仕事とか無理~! ずっと実家でゴロゴロしてて~!」
心底嫌そうに言うので、莉音も笑ってしまった。
「お休みって、あっという間に終わっちゃいますよね」
「ほんと、それな。なんならずっと莉音くんに料理教室の講師やってもろうて、専属運転手してたいわ」
「僕、お給料払えないですよ?」
「いやいや、莉音くんならすぐ人気講師になって、ガポガポ稼ぐようになるって」
なんならパトロンも何人もつくはずやしと断言するので、その自信はどこからくるんですかとますます笑い転げた。
先程までの微妙な空気はすっかりなくなって、いつもの打ち解けた雰囲気に戻っていた。
「あ~、ほんと、ずっとこうしてたかったな」
「また会えますよ。僕もこれからは、できるだけおじいちゃんたちに会いにこようと思ってるので」
「莉音くんは、いつごろ東京に帰るん?」
「そうですね、もうそろそろかなって」
「そっか……」
田中家の畑がひろがる私道を抜け、農道に差しかかったところでふたりは足を止めた。
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