ひろいひろわれ こいこわれ ~華燭~

九條 連

文字の大きさ
上 下
41 / 63
第5章

第2話(4)

しおりを挟む
「おじいちゃんに受け容れてほしいなんて、虫のいいことは言わない。心配ばっかりかけちゃってるから、いますぐは無理でも、いつか必ず、おじいちゃんたちに莉音はもう大丈夫だって安心してもらえるように頑張るね」

 言いながら、はなすする莉音に祖母がボックスティッシュを差し出した。自分もそれで、目もとをぬぐっている。礼を言って受け取った莉音は、祖母と視線を見交わして照れ笑いした。

「……おまえ」

 ずっと黙っていた祖父が、重い口を開いた。

「おまえ、こん記事んこたあ本当に気にしちょらんのか。蒼い顔しち、食事も喉ぅ通らん様子やったやろうが」
「あ、うん、心配かけちゃってごめんなさい」
 莉音はあわてて謝った。

「全然気にしなかったって言えば嘘になるけど、でも、アルフさんのことは疑ったりしてないよ? あんなふうに成功してて容姿にも恵まれて、地位も名誉もある素敵な人だもん。それこそスクープされたような綺麗なモデルさんとか女優さんとか、取引先の会社のご令嬢とか、いくらでも選び放題だったと思う。そんな人が、社会的地位もなくて同性でっていう僕みたいな人間を弄んでも、なんのメリットもないでしょ? むしろ男と付き合ってるって世間に知れたら、失うもののほうが多いはず。それなのにそれでも僕を選んで、揺るぎない気持ちを示してくれてる。だからそこはね、疑う余地はないって思ってる。あんまり食欲がなかったのは、この記事に関することをいろいろ調べて内容を確認しながら、いま話したようなことを、ずっと頭の中で整理してたから」

 東京の家飛び出してきちゃってから、ずっと悶々としたままだったしと莉音は笑った。

「あのまま喧嘩別れにならないで、大分こっちに来てよかったなって、いまは思ってる。時間かかっちゃったけど、こうやってちゃんと自分の思ってること整理して、おじいちゃんたちにも話せたし。それから優子さんに頼まれて引き受けた料理教室も、やってみてよかったなって。自分がなにをすべきか、ちゃんと見極められたから」

 自分の言葉に納得したように、大きく頷く。

「僕、やっぱりちゃんと学校行って、基礎から学びなおします。自分なりにいろいろ調べて決めた進学先だから、そこに行きたいです。だからそのためにも、東京に戻ります」
 あとやっぱり、アルフさんとも仲直りしたいし、と照れたように付け加えた。

「僕が一方的に怒って癇癪起こしちゃっただけなんだけど、そんなふうに安心して感情をぶつけられるくらい、アルフさんには甘えさせてもらってたんだなって、すごく実感しちゃった。おじいちゃんたちにもいっぱい心配かけたけど、アルフさんもずっと心配してくれてると思うから、東京に帰って、僕の気持ちとか、いまおじいちゃんたちに話したこととかも含めてふたりで話し合って、これからどうするか決めていきたいと思ってます」

 莉音の出した結論に、祖父はじっと耳を傾けていた。

「それでね、ちゃんと自分の生活の基盤も固めて、それでまた、おじいちゃんたちにも会いにくるから」

 言った途端、祖父の仏頂面が崩れて面食らったような顔をした。目が合うなり、莉音はにっこりとする。

「さっき、僕たちのこと受け容れてほしいなんて言わないって言ったけど、それはいまこの場でっていう意味だから」
 すぐに理解してもらうのは難しいっていうのは僕もわかってるから、と莉音が言うと、祖父はふたたび仏頂面になった。

「……そりゃあ、いつかは認めろっちゅうことか?」
「うん。でも強制とかじゃなくて、いつか自然に受け容れてもらえたらいいなって思うから、たまに顔見せにきて、知ってもらえる機会を増やせたらなって。疎遠になったままだと、理解も深め合えないでしょ? だから東京には帰るけど、飛行機代貯めて、また年末とか時間に余裕ができたときに様子を知らせにくるね?」

 いいかな、と意向を窺うように莉音は祖父を顔を見た。祖母もまた、傍らで祖父の反応を見る。

 長い沈黙。

 やがて深い息をつくと、祖父は目の前にあった湯飲みのお茶を飲み、静かに目を閉じた後にゆっくり開いて低く応じた。

「わかった」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

処理中です...