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第3章
第3話(2)
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「でもほんと、お母さんに似て美人さんやかぃ、目ん保養になるわぁ」
莉音は気恥ずかしさをおぼえながらも、ありがとうございますと照れ笑いした。
「あ、そうだそうだ、莉音ちゃん、一緒に写真撮ってんいい?」
唐突に言われてきょとんとするも、いいからおいでおいでと手招きされて、莉音は優子のそばに移動した。その莉音と並んで優子はスマートフォンを構えると、シャッターを押した。
「はい、ありがと~」
撮った写真をその場で確認して、嬉しそうに頷く。それから、メッセージアプリを開いた。
「うちん息子に莉音ちゃんと料理ん写真、送ってしまお~」
うきうきと言われて、莉音は呆気にとられる。そんな莉音を見て、優子は悪戯めいた笑みを浮かべた。
「ここだけん話やけどね、うちん息子ん初恋、莉音ちゃんやったんちゃ」
「……え?」
莉音は目を瞠った。
「小さいときやかぃ、もう憶えちょらんかな。莉音ちゃん、お母さんと一緒になんべんかおじいちゃんち来たことあったやろ? そんときにね、天使んごつえらしい子――あ、『えらしい』ってのは大分弁で可愛いっていう意味ね。可愛い子がおる~!って大騒ぎして」
優子は思い出したようにクスクスと笑った。
「莉音ちゃん、いまも綺麗だけんど、ちっさいころはお人形さんのごつあったもんねぇ。すっかり女ん子と勘違いしちょったみたい」
優子の話に、達彦が「そういやあ、そげなこつもあったなぁ」と呟いた。
「じゃけんどすぐに莉音ちゃんが男ん子だってわかって、あん子、大泣きしてしもうて。妹にもからかわれてねぇ」
「な、なんかすみません……」
莉音が謝ると、優子は「いいといいと」と大笑いした。
「よっぽど印象が強かったっちゃろうねぇ。あんあともしばらく、可愛かったぁ、可愛かったぁって、よう話題にしちょったちゃ」
「あの、昔はよく、女の子に間違えられてたらしいです」
莉音は恥ずかしくなって、顔が熱くなってきた。
「こんげ器量がようて性格もようて、おまけにお料理も上手でってなったら、うちん息子んお嫁さんにほしいわぁ」
優子の言葉に、莉音はギョッとする。
「あの、それは……」
「おまえ、もう酔うぱろうちょんのか。そんへんにしちょけ。莉音くんがたまがっちょんやんか」
達彦に注意されても、優子は涼しい顔で「酔うちょらんちゃ」と言い返した。
「大真面目な話ちゃ。もっとも、莉音ちゃんにも選ぶ権利があるよねぇ」
「え、あの……」
「うちん息子、性格は真面目やっちゃけんど、あたしと、こん人ん血を引いちょるやろ? 見た目がイマイチなんやわ。それに恋愛にも慣れちょらんかぃ、スマートさに欠くるっちゅうか、無骨っちゅうか。あ、いまね、就職して大阪におるん。娘は専門学校で福岡。そっちは関係ねえけど」
ぐいぐい来る優子に、莉音は及び腰になった。
なにより、話がありがたくない方向に進んでいる。莉音はあわてて祖父の顔色を窺った。案の定、先程まで機嫌がよさそうだった祖父の眉間には、深い皺が刻まれていた。
「男同士じ嫁にするもなんもあるか、馬鹿らしい」
吐き捨てるようなその言葉に、自分の顔がみるみる硬張っていくのがわかる。だが、莉音がなにかを言うより早く、優子がそれに反応した。
「あら、おじさん、そんげんいまどき古いちゃ。いまはね、多様性ん時代なん」
「なにが多様性や」
古いもなにもあるかと反論する祖父に、優子は臆することなく受けて立った。
「じゃけんど実際、そげなふうに時代は変わってきちょっちゃ。スマホひとつで、簡単にいろんなことができてしもたり、ネットん普及であらゆる情報も溢れかえっちょる。個人の意見だって、公に向けてなんぼでん気軽に発信できてしまう。数十年後ん未来がそげなふうになっちょるなんて、おじさん、自分が若えころに想像できた?」
優子に問い質されて、祖父はグッと詰まった。
莉音は気恥ずかしさをおぼえながらも、ありがとうございますと照れ笑いした。
「あ、そうだそうだ、莉音ちゃん、一緒に写真撮ってんいい?」
唐突に言われてきょとんとするも、いいからおいでおいでと手招きされて、莉音は優子のそばに移動した。その莉音と並んで優子はスマートフォンを構えると、シャッターを押した。
「はい、ありがと~」
撮った写真をその場で確認して、嬉しそうに頷く。それから、メッセージアプリを開いた。
「うちん息子に莉音ちゃんと料理ん写真、送ってしまお~」
うきうきと言われて、莉音は呆気にとられる。そんな莉音を見て、優子は悪戯めいた笑みを浮かべた。
「ここだけん話やけどね、うちん息子ん初恋、莉音ちゃんやったんちゃ」
「……え?」
莉音は目を瞠った。
「小さいときやかぃ、もう憶えちょらんかな。莉音ちゃん、お母さんと一緒になんべんかおじいちゃんち来たことあったやろ? そんときにね、天使んごつえらしい子――あ、『えらしい』ってのは大分弁で可愛いっていう意味ね。可愛い子がおる~!って大騒ぎして」
優子は思い出したようにクスクスと笑った。
「莉音ちゃん、いまも綺麗だけんど、ちっさいころはお人形さんのごつあったもんねぇ。すっかり女ん子と勘違いしちょったみたい」
優子の話に、達彦が「そういやあ、そげなこつもあったなぁ」と呟いた。
「じゃけんどすぐに莉音ちゃんが男ん子だってわかって、あん子、大泣きしてしもうて。妹にもからかわれてねぇ」
「な、なんかすみません……」
莉音が謝ると、優子は「いいといいと」と大笑いした。
「よっぽど印象が強かったっちゃろうねぇ。あんあともしばらく、可愛かったぁ、可愛かったぁって、よう話題にしちょったちゃ」
「あの、昔はよく、女の子に間違えられてたらしいです」
莉音は恥ずかしくなって、顔が熱くなってきた。
「こんげ器量がようて性格もようて、おまけにお料理も上手でってなったら、うちん息子んお嫁さんにほしいわぁ」
優子の言葉に、莉音はギョッとする。
「あの、それは……」
「おまえ、もう酔うぱろうちょんのか。そんへんにしちょけ。莉音くんがたまがっちょんやんか」
達彦に注意されても、優子は涼しい顔で「酔うちょらんちゃ」と言い返した。
「大真面目な話ちゃ。もっとも、莉音ちゃんにも選ぶ権利があるよねぇ」
「え、あの……」
「うちん息子、性格は真面目やっちゃけんど、あたしと、こん人ん血を引いちょるやろ? 見た目がイマイチなんやわ。それに恋愛にも慣れちょらんかぃ、スマートさに欠くるっちゅうか、無骨っちゅうか。あ、いまね、就職して大阪におるん。娘は専門学校で福岡。そっちは関係ねえけど」
ぐいぐい来る優子に、莉音は及び腰になった。
なにより、話がありがたくない方向に進んでいる。莉音はあわてて祖父の顔色を窺った。案の定、先程まで機嫌がよさそうだった祖父の眉間には、深い皺が刻まれていた。
「男同士じ嫁にするもなんもあるか、馬鹿らしい」
吐き捨てるようなその言葉に、自分の顔がみるみる硬張っていくのがわかる。だが、莉音がなにかを言うより早く、優子がそれに反応した。
「あら、おじさん、そんげんいまどき古いちゃ。いまはね、多様性ん時代なん」
「なにが多様性や」
古いもなにもあるかと反論する祖父に、優子は臆することなく受けて立った。
「じゃけんど実際、そげなふうに時代は変わってきちょっちゃ。スマホひとつで、簡単にいろんなことができてしもたり、ネットん普及であらゆる情報も溢れかえっちょる。個人の意見だって、公に向けてなんぼでん気軽に発信できてしまう。数十年後ん未来がそげなふうになっちょるなんて、おじさん、自分が若えころに想像できた?」
優子に問い質されて、祖父はグッと詰まった。
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