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第3章
第3話(1)
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田中家の人々は、祖父から聞いていたとおり六時をまわるころに訪ねてきた。
莉音に野菜を分けてくれた達夫老人と、その妻である美和子夫人。夫妻の息子である達彦氏と嫁である優子夫人。莉音と祖父の関係がぎくしゃくしていたこともあって、ずっと静かだった佐倉家が、一気に賑やかになった。
「いや~、ほんと美人さんやわ~。男ん子にこんげこつ言うん、失礼かんしれんけんど、でもお母さんも、女優さんのごつあったもんね。目ん保養になるわ~」
挨拶をした途端、義父である達夫を押しのけて、嫁の優子が意気揚々と身を乗り出してきた。その勢いにたじろぎつつも、莉音は愛想笑いを浮かべる。夫である達彦が、途端に妻を窘めた。
「こら、ユウ。莉音くんがせっかく礼儀正しゅう挨拶しちくれちょんのに、おまえみてえな山猿が、いきなりでけえ声じキーキー喚いたら、びっくりするやろうが」
「だれが山猿ちゃ。そん山猿と結婚したんな、あんたやろうが」
夫婦の掛け合いを、莉音は笑いを引き攣らせつつ見守った。
喧嘩をしているわけではないのだろうが、大きな声でお互いにまくし立てているのを見ると、ちょっと緊張してしまう。あとから聞いた話によると、優子夫人は隣の宮崎県から嫁いできたのだそうだ。莉音には言葉の違いはいまいちわからないが、祖父母たちが話している言葉とはちょっと違う感じもする。
「まあ、いいけん早う上がれ」
痺れを切らし、居間から顔を覗かせた祖父のひと声で、一同はゾロゾロと祖父のいる居間へ移動した。
「あの、いただいた野菜で適当に作ってみたので、お口に合うといいんですけど」
普段使っている座卓に予備のテーブルを繋げ、その上に用意した料理が所狭しと並べられている。
茄子、オクラ、長芋、ズッキーニ、鶏肉を和えた南蛮漬け。ピーマンの肉詰めのトマトソース煮。ジャガイモと茄子のグラタン。ラタトゥイユ。茄子の煮浸し。キュウリと蕪のハチミツ梅和え。コーンと枝豆の炊き込みごはん。コーンポタージュ。
「ええ~っ、嘘でしょ? これみんな、莉音ちゃんが作ったと!?」
「こりゃあ、たまがった。たいしたもんやな」
女性陣を筆頭に感心の声があがり、それぞれに席に着いたところでグラスを行き渡らせた。男性陣と優子夫人はビール。お酒を飲まない祖母と美和子夫人、莉音は麦茶。だれからともなく乾杯をして、食事がスタートした。
「あの、食後のデザートにメロンのシャーベットもありますから。あとたりなければ、お酒のおつまみも、すぐご用意するので言ってください」
「いいけんいいけん。これだけありゃあ、充分ご馳走や」
「料理が得意たあ聞いちょったけんど、若えにぃたいしたもんだ。お店に来たんごつ豪華やな」
野菜を分けてくれた達夫老人と息子の達彦が、こぞって莉音を褒めそやした。
「ほんとにどれも美味しいわぁ。すごかね、莉音ちゃん。ひとりでこんげぎょうさん作るん、大変じゃったやろ」
斜向かいに座る優子からも感心されて、莉音はいえいえそんなと照れ笑いを浮かべた。
「ひさしぶりにいろいろ作れて楽しかったです。僕だけじゃなくて、祖母にも手伝ってもらったので」
「わたしゃなんもしちょらん。ただ言われたとおりに野菜切ったり、お皿ぅ出したりしただけやけん」
祖母はニコニコと言った。
「まだ若えけんど偉えねぇ。素直でむぞらしゅうて、お料理上手でって、おばさん、もうすっかり莉音ちゃんの大ファンちゃ」
「む、むぞら……?」
「あ、ごめんごめん。わからんよね。おばさん、隣ん宮崎県出身やっちゃけんど、むぞらしって『可愛い』って意味なんよ。大分弁と宮崎弁、交ざっちょっと」
あ、でも男ん子に可愛いはないか、と優子はおおらかに笑った。
莉音に野菜を分けてくれた達夫老人と、その妻である美和子夫人。夫妻の息子である達彦氏と嫁である優子夫人。莉音と祖父の関係がぎくしゃくしていたこともあって、ずっと静かだった佐倉家が、一気に賑やかになった。
「いや~、ほんと美人さんやわ~。男ん子にこんげこつ言うん、失礼かんしれんけんど、でもお母さんも、女優さんのごつあったもんね。目ん保養になるわ~」
挨拶をした途端、義父である達夫を押しのけて、嫁の優子が意気揚々と身を乗り出してきた。その勢いにたじろぎつつも、莉音は愛想笑いを浮かべる。夫である達彦が、途端に妻を窘めた。
「こら、ユウ。莉音くんがせっかく礼儀正しゅう挨拶しちくれちょんのに、おまえみてえな山猿が、いきなりでけえ声じキーキー喚いたら、びっくりするやろうが」
「だれが山猿ちゃ。そん山猿と結婚したんな、あんたやろうが」
夫婦の掛け合いを、莉音は笑いを引き攣らせつつ見守った。
喧嘩をしているわけではないのだろうが、大きな声でお互いにまくし立てているのを見ると、ちょっと緊張してしまう。あとから聞いた話によると、優子夫人は隣の宮崎県から嫁いできたのだそうだ。莉音には言葉の違いはいまいちわからないが、祖父母たちが話している言葉とはちょっと違う感じもする。
「まあ、いいけん早う上がれ」
痺れを切らし、居間から顔を覗かせた祖父のひと声で、一同はゾロゾロと祖父のいる居間へ移動した。
「あの、いただいた野菜で適当に作ってみたので、お口に合うといいんですけど」
普段使っている座卓に予備のテーブルを繋げ、その上に用意した料理が所狭しと並べられている。
茄子、オクラ、長芋、ズッキーニ、鶏肉を和えた南蛮漬け。ピーマンの肉詰めのトマトソース煮。ジャガイモと茄子のグラタン。ラタトゥイユ。茄子の煮浸し。キュウリと蕪のハチミツ梅和え。コーンと枝豆の炊き込みごはん。コーンポタージュ。
「ええ~っ、嘘でしょ? これみんな、莉音ちゃんが作ったと!?」
「こりゃあ、たまがった。たいしたもんやな」
女性陣を筆頭に感心の声があがり、それぞれに席に着いたところでグラスを行き渡らせた。男性陣と優子夫人はビール。お酒を飲まない祖母と美和子夫人、莉音は麦茶。だれからともなく乾杯をして、食事がスタートした。
「あの、食後のデザートにメロンのシャーベットもありますから。あとたりなければ、お酒のおつまみも、すぐご用意するので言ってください」
「いいけんいいけん。これだけありゃあ、充分ご馳走や」
「料理が得意たあ聞いちょったけんど、若えにぃたいしたもんだ。お店に来たんごつ豪華やな」
野菜を分けてくれた達夫老人と息子の達彦が、こぞって莉音を褒めそやした。
「ほんとにどれも美味しいわぁ。すごかね、莉音ちゃん。ひとりでこんげぎょうさん作るん、大変じゃったやろ」
斜向かいに座る優子からも感心されて、莉音はいえいえそんなと照れ笑いを浮かべた。
「ひさしぶりにいろいろ作れて楽しかったです。僕だけじゃなくて、祖母にも手伝ってもらったので」
「わたしゃなんもしちょらん。ただ言われたとおりに野菜切ったり、お皿ぅ出したりしただけやけん」
祖母はニコニコと言った。
「まだ若えけんど偉えねぇ。素直でむぞらしゅうて、お料理上手でって、おばさん、もうすっかり莉音ちゃんの大ファンちゃ」
「む、むぞら……?」
「あ、ごめんごめん。わからんよね。おばさん、隣ん宮崎県出身やっちゃけんど、むぞらしって『可愛い』って意味なんよ。大分弁と宮崎弁、交ざっちょっと」
あ、でも男ん子に可愛いはないか、と優子はおおらかに笑った。
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