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第2章

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「明日から、またふたりになっちゃいますね」

 隣のスツールに腰を下ろし、グラスの水を半分ほど飲み干してホッと息をつくと、ヴィンセントはクスリと笑った。

「莉音は私とふたりでは、不服かな?」
「ちっ、違います!」
 莉音はあわてて否定した。

「ただ、毎日すごく賑やかだったから、急に静かになっちゃったら寂しいだろうなって思って」
「そうだな、きっとしばらくは、ふたりの生活を物足りなく思うだろう」
 だが、とヴィンセントは思わせぶりに莉音の顔を見た。
「これで独り寝の寂しさからは解放される」

 言われた途端、莉音は頬が熱くなるのを感じた。

「私はどうやら、莉音を抱いていないと眠れない体質になってしまったようだ」
「もうっ、からかわないでください」
「からかってなどいない。夜中にふと目が覚めると、無意識のうちに横にいるはずの体温を探してしまう。莉音のおかげで私は安眠できているのだと、つくづく思い知らされた」

 おいで、と両手を差し伸べられて、莉音は「もうっ」と頬を染めながらもグラスを置いてスツールから立ち上がり、ヴィンセントの抱擁に身を任せた。
 一週間ぶりの体温が心地いい。彼の腕の中におさまる体勢が、しっくり馴染むことにあらためて気づく。ひろい胸に身を預けていると、心から安心できた。

「アルフさん、本当にありがとうございました」

 彼がこの一週間、自分と祖父母のためにどれほど心を砕いてくれたかがわかるから、深い感謝の気持ちと同時に愛しい想いが溢れてくる。彼がいなかったら、自分はこんなふうに明るい笑顔で大分から来てくれた祖父母を迎え、もてなすことはできなかっただろう。
 思うと同時に莉音は顔を上げ、自分から愛する恋人に口づけた。

 ただたんに感謝の気持ちを伝えるだけのつもりだったのだが、一週間触れ合っていなかったうえに感情がたかぶっているせいで、途中で止められなくなってしまった。
 優しいぬくもりにもっと触れていたくて、何度も、何度も口唇を重ねる。気づけばスツールに座るヴィンセントの膝に横座りして、むさぼるように舌を絡めていた。

「……っふ……、ん…っ……ん……」

 夢中でヴィンセントの舌を追いかけ、ジュッと吸われて身体がビクンと反応する。だんだん息が上がってきて力が抜けそうになり、膝から落ちないように必死に縋りついた。

「莉音、莉音、さすがにこれ以上は私も自制できる自信がない」

 さらにもっとと求めようとする莉音を、ヴィンセントが制止した。
 言われて莉音も正気に返る。たしかに、このままだとなし崩し的に最後までしてしまいそうだった。

 甘い雰囲気に呑まれて身体が反応してしまっているが、祖父母がいるのだから流れに身を任せるわけにはいかない。その場の勢いでうっかり昂ぶってしまったぶん、しずめるのに苦労しそうだったが、それはヴィンセントもおなじだろう。
 お互いに切なさを持てあましながらも、理性の力でねじ伏せる。

「ごめ…なさ……。僕、つい我慢できなくなっちゃって……」

 乱れる息をなんとか整えながら、莉音はヴィンセントの膝から降りようとした。その瞬間、部屋の電気がパッとついた。
 突然のことに驚いて、体勢を崩しかけたところをヴィンセントの腕が素速く抱きとめる。安堵して息をついた莉音は、礼を言おうとして愕然とした。部屋の向こうに、祖父が立っていた。
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