8 / 47
第1章
第2話(1)
しおりを挟む
到着ロビーでゲートから出てくる人々をひとりずつ確認していた莉音は、ほどなく祖父母の姿を認めて大きく手を振った。
「おじいちゃん、おばあちゃん!」
祖父母も、すぐに莉音に気づいて笑顔で近づいてくる。
「いらっしゃい。来てくれてありがとう」
「まあまあ、莉音ちゃん。元気そうでよかった。わざわざ迎えに来ちくれち、ありがとうね」
「うううん、大丈夫。今日ね、アルフさんが電車だと荷物もあって大変だろうからって、経営してる会社の運転手さんに頼んで車出してくれたから」
莉音の説明に、祖母は目を細めた。
「あれまあ、そげえしてもろうて、気のどきぃねぇ」
莉音の手を取って、さするように何度も撫でる祖母に、莉音は大丈夫だよとにっこりとした。東京で生まれ育った莉音にとって、祖父母の話す言葉はときどき意味がわからないことがあるが、いまのは、思いがけない待遇に恐縮しているのだとわかった。
「アルフさんも、おじいちゃんたちに会えるの楽しみにしてくれてたよ。今日も仕事が終わったら早めに帰りますって。たいしたことはなにもできないけど、ゆっくりしていってくださいって言ってた」
そうかそうかと祖母は笑みを深くした。その隣で、祖父も頷いている。
「顔色もようなっち、元気そうで安心した」
「うん、すごく元気。母さんのお葬式のときはいろいろありがとう。心配かけてごめんね」
「そげなこつぁ気にせんじいい」
照れ屋な祖父は、ぶっきらぼうに言った。
不器用な祖父の優しさに触れて、莉音はふふっと小さく笑う。ふたりをうながして荷物を受け取ると、駐車場へと向かった。
はじめて訪れたヴィンセント邸の豪華さに、祖父母はただただ圧倒されたようにポカンと口を開けていた。
マンションの入り口でもかなり気後れしていたが、エレベーターを降りて家に入ってからは、しばらくのあいだ言葉も出ないようだった。
「こげな城みてえなところに住んじょん人が、本当におるんやなあ」
案内したゲストルームに荷物を置き、あらためてリビングに移動したところで、祖父がしみじみと言った。祖母もひたすら溜息をついている。
「すごいよね。僕もはじめて来たとき、緊張しちゃってなかなか部屋に入れなかった」
莉音は、当時を思い出して苦笑した。
「すごいねぇ。莉音ちゃん、あんた、こげなところに住んじょんのやなぁ」
祖母もまた、感心したように言う。そんな祖父母にソファーを勧めて、莉音はお茶の用意をすることにした。昼食は、空港からマンションへ戻る途中、ヴィンセントが予約してくれていた馴染みの料亭で、懐石料理を堪能してきた。
「アルフさんも普段は贅沢をする人じゃないんだけど、やっぱり取り引き先の会社との付き合いとか義理もあって、その一環でこのマンションも契約することになったんだって」
「まだ若えにぃ、たいしたもんだ」
祖父は窓辺に立って外の景色を眺めながら呟いた。
「おじいちゃん、おばあちゃん!」
祖父母も、すぐに莉音に気づいて笑顔で近づいてくる。
「いらっしゃい。来てくれてありがとう」
「まあまあ、莉音ちゃん。元気そうでよかった。わざわざ迎えに来ちくれち、ありがとうね」
「うううん、大丈夫。今日ね、アルフさんが電車だと荷物もあって大変だろうからって、経営してる会社の運転手さんに頼んで車出してくれたから」
莉音の説明に、祖母は目を細めた。
「あれまあ、そげえしてもろうて、気のどきぃねぇ」
莉音の手を取って、さするように何度も撫でる祖母に、莉音は大丈夫だよとにっこりとした。東京で生まれ育った莉音にとって、祖父母の話す言葉はときどき意味がわからないことがあるが、いまのは、思いがけない待遇に恐縮しているのだとわかった。
「アルフさんも、おじいちゃんたちに会えるの楽しみにしてくれてたよ。今日も仕事が終わったら早めに帰りますって。たいしたことはなにもできないけど、ゆっくりしていってくださいって言ってた」
そうかそうかと祖母は笑みを深くした。その隣で、祖父も頷いている。
「顔色もようなっち、元気そうで安心した」
「うん、すごく元気。母さんのお葬式のときはいろいろありがとう。心配かけてごめんね」
「そげなこつぁ気にせんじいい」
照れ屋な祖父は、ぶっきらぼうに言った。
不器用な祖父の優しさに触れて、莉音はふふっと小さく笑う。ふたりをうながして荷物を受け取ると、駐車場へと向かった。
はじめて訪れたヴィンセント邸の豪華さに、祖父母はただただ圧倒されたようにポカンと口を開けていた。
マンションの入り口でもかなり気後れしていたが、エレベーターを降りて家に入ってからは、しばらくのあいだ言葉も出ないようだった。
「こげな城みてえなところに住んじょん人が、本当におるんやなあ」
案内したゲストルームに荷物を置き、あらためてリビングに移動したところで、祖父がしみじみと言った。祖母もひたすら溜息をついている。
「すごいよね。僕もはじめて来たとき、緊張しちゃってなかなか部屋に入れなかった」
莉音は、当時を思い出して苦笑した。
「すごいねぇ。莉音ちゃん、あんた、こげなところに住んじょんのやなぁ」
祖母もまた、感心したように言う。そんな祖父母にソファーを勧めて、莉音はお茶の用意をすることにした。昼食は、空港からマンションへ戻る途中、ヴィンセントが予約してくれていた馴染みの料亭で、懐石料理を堪能してきた。
「アルフさんも普段は贅沢をする人じゃないんだけど、やっぱり取り引き先の会社との付き合いとか義理もあって、その一環でこのマンションも契約することになったんだって」
「まだ若えにぃ、たいしたもんだ」
祖父は窓辺に立って外の景色を眺めながら呟いた。
40
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
アダルトショップでオナホになった俺
ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。
覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。
バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ひろいひろわれ こいこわれ【完結済み】
九條 連
BL
母を突然の事故で喪い、天涯孤独となった莉音は、ある夜、道端で暴漢に襲われかけたところをひとりの男に助けられる。
莉音を庇って頭を殴られ、救急搬送された男は青い瞳が印象的な外国人で、一時的な記憶喪失に陥っていた。
身元が判明するまでのあいだ、莉音がその身柄を引き受けることになったが、男の記憶はほどなく回復する。男は、不動産関連の事業を世界的に展開させる、やり手の実業家だった。
この出逢いをきっかけに、身のまわりで起こりはじめる不穏な出来事……。
道端で拾ったのは、超ハイスペックなイケメン社長でした――
※2024.10 投稿時の内容に加筆・修正を加えたものと差し替え済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる