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第5章
誘惑と友情、魂の交信(11)
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まあね、世界を統べる立場だし、この先数百年の未来を背負っていくわけだし、ひょっとしたらここにあるのも全体の中のほんの一部って可能性もある。それでもこうして身近に置いてあるからには、重要であったり必要性の高いものであることは間違いない。そういう判断のもとで作業を進めているところなのだが、これがまあ、骨が折れること。
机にある書類はすでにひととおり確認済みなので、いまは書棚の文献を片っ端から調べている真っ最中だった。
書かれている内容に手がかりに繋がりそうな目印はないか。あるいはなんらかのメモが残されていないか。
量が量だから、とにかく膨大な労力を要することになるのである。
「懐かしい。エルディラントも読んでいたのだな」
机に積んである山の一角、いちばん上の薄い一冊を手にとって、リュシエルはパラパラとページを捲った。
「それはまだ、これから中身を確認するところだが内容を知ってるのか?」
「知っている。おそらくこの世界の住人ならば、ほとんどの者が幼いころから親しんでいる童話だ」
「童話?」
その説明に、強い違和感をおぼえた。
俺がいままで確認してきた書物は、いずれも学術書や史実、研究論文といった小難しげな内容のものばかりだった。素人が斜め読みした程度では到底理解できない、難解な専門書の中に交じる別のジャンルの平易な読み物。
「リュシエル、ここにある書物は、最初から次代盟主のためにこの屋敷に用意されていたものなのか?」
「いや、共有の書庫は別にある。この部屋にあるものは、すべてエルディラント個人の所有だ。エル? なにか……?」
「その本は、この世界の人間には子供のころから馴染みがある物語だと言っていたな。ならば、エルディラントの思い出の品かなにかなのか?」
「え?」
不思議そうな顔をしたリュシエルは、あらためて手にしたものに視線を落とした。
「いや、見るかぎり、まだ新しいもののようだが」
「それなら、わざわざ用意したということになるな」
「そうかもしれないが、ここでの生活がはじまるときに、ふと子供のころが懐かしくなって、たまたま買い求めたのかも……エル? なんだか、顔が怖いぞ? さっきからいったいどういう……。これがなにか――」
「リュシエル、その童話、どんな話なんだ? よかったら教えてくれ」
急きこんで尋ねる俺に気圧されたように、リュシエルは胸のまえで本を抱えたまま、わずかに後退りした。
机にある書類はすでにひととおり確認済みなので、いまは書棚の文献を片っ端から調べている真っ最中だった。
書かれている内容に手がかりに繋がりそうな目印はないか。あるいはなんらかのメモが残されていないか。
量が量だから、とにかく膨大な労力を要することになるのである。
「懐かしい。エルディラントも読んでいたのだな」
机に積んである山の一角、いちばん上の薄い一冊を手にとって、リュシエルはパラパラとページを捲った。
「それはまだ、これから中身を確認するところだが内容を知ってるのか?」
「知っている。おそらくこの世界の住人ならば、ほとんどの者が幼いころから親しんでいる童話だ」
「童話?」
その説明に、強い違和感をおぼえた。
俺がいままで確認してきた書物は、いずれも学術書や史実、研究論文といった小難しげな内容のものばかりだった。素人が斜め読みした程度では到底理解できない、難解な専門書の中に交じる別のジャンルの平易な読み物。
「リュシエル、ここにある書物は、最初から次代盟主のためにこの屋敷に用意されていたものなのか?」
「いや、共有の書庫は別にある。この部屋にあるものは、すべてエルディラント個人の所有だ。エル? なにか……?」
「その本は、この世界の人間には子供のころから馴染みがある物語だと言っていたな。ならば、エルディラントの思い出の品かなにかなのか?」
「え?」
不思議そうな顔をしたリュシエルは、あらためて手にしたものに視線を落とした。
「いや、見るかぎり、まだ新しいもののようだが」
「それなら、わざわざ用意したということになるな」
「そうかもしれないが、ここでの生活がはじまるときに、ふと子供のころが懐かしくなって、たまたま買い求めたのかも……エル? なんだか、顔が怖いぞ? さっきからいったいどういう……。これがなにか――」
「リュシエル、その童話、どんな話なんだ? よかったら教えてくれ」
急きこんで尋ねる俺に気圧されたように、リュシエルは胸のまえで本を抱えたまま、わずかに後退りした。
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ギャーすみません!すみません!
めちゃくちゃ書き間違えてますね。
攻めだってちゃんと解ってますよ!大丈夫です!ちゃんと伝わってます!
むしろそれ以外に解釈のしようが無いです!
すみません…あと30分でBL大賞期間が終わってしまう!とめっちゃ焦って感想書いてたから、単純に書き間違えました🙇♀️申し訳ないです!
『攻め』の普通の現代人感が堪らない作品です🥰
ああっ、夜曲さん!
わざわざありがとうございます!
そしてそんなギリギリの時間帯に感想を書いてくださっていたのかと、あらためて感謝の思いでいっぱいになりました。
大丈夫です。
きっとわかってくださってるんだろうなと思いつつ、返信で一応触れておかないと他の読者さんが混乱するかもと思い、主人公の立ち位置に言及させていただいただけなので。
BLの場合、視点は受けちゃんであることが好ましいというのはわかってはいるのですが、自分の場合、攻め視点のほうが書きやすくてどうしても比率として攻め側に立ってしまうほうが多いんですよね(笑)
という余計な書き手の志向はさておき、あたたかな応援にただただ感謝でございます!
ようやく少しずつ身辺が落ち着いてきましたので、また徐々に活動を再開していきたいと思います。
この度は本当にありがとうございました!
普段の九條さんの作風とは全く違う、受けの口調が軽い作品で、ネット小説の需要に合わせて九條さんが作風を変えてまで努力されたんだなという熱意が凄く伝わってくる作品でした!
受けの独白が楽しくて、毎回笑わせて頂いています🤭
今これからが良いところですね!
続きを楽しみにしています😊
夜曲さん
お忙しい中、お越しいただいて本当にありがとうございました!
そして私事でバタバタしていた関係で、お返事が大変遅くなりまして誠に申し訳ありませんでしたっ💦
まだちょっとごたついておりますが、ようやく少しずつ日常に戻ってくることができそうです。
さてさて、今作にて自分なりに挑戦した点に触れていただき、とても嬉しかったです😊
せっかくだから、いろんなタイプの作品を書いてみようということでチャレンジしてみました。
コンテストでは個人的な事情により、最後の最後で更新が滞ってしまいましたが、ふたたび執筆を再開して、きちんと物語を着地させていきたいと思います。
あたたかな応援のお言葉、本当にありがとうございました💝
あ、ちなみに主人公、じつは攻めなんです(笑)
すみません、タグつけてないので不親切でしたね。
まあ、とぼけた性格なので、どちらでもいいかもしれません😂
世界観はしっかり練られてて、すごく面白いです!
神様系のお話が好きな方にはぴったりの作品だと思います
エルが砕けた口調なので文体も軽めに感じますが、時折がっちり固めてくる所にぐっと来ます
そして受けちゃんも攻めくんも可愛すぎ!
2人の尊いやり取りに、天を仰ぐなどしてしまいました…
エルディラントに恋焦がれて暴走している感じが可愛すぎるし、エルも理性を総動員させているのが滅茶苦茶良いです✨
素敵な作品をありがとうございます!
今後の展開が楽しみです!
墨尽様
ご来訪、そして嬉しいご感想ありがとうございます!
はじめて書くタイプのお話に四苦八苦している真っ最中ですが、楽しんでいただけているとのことでとても嬉しかったです😊
受けちゃん、初心なのにガンガン攻めていってますが(笑)、まだエルディラントがどこへ行ってしまったのか、主人公の記憶はどうなるのか、核心にたどり着いていない状況です。
これから少しずつ謎が解き明かされていきますので、またお時間のあるときにお立ち寄りいただけましたら嬉しいです。
あたたかな応援のお言葉、本当にありがとうございました!