上 下
52 / 52
第5章

誘惑と友情、魂の交信(11)

しおりを挟む
 まあね、世界を統べる立場だし、この先数百年の未来を背負っていくわけだし、ひょっとしたらここにあるのも全体の中のほんの一部って可能性もある。それでもこうして身近に置いてあるからには、重要であったり必要性の高いものであることは間違いない。そういう判断のもとで作業を進めているところなのだが、これがまあ、骨が折れること。

 机にある書類はすでにひととおり確認済みなので、いまは書棚の文献を片っ端から調べている真っ最中だった。
 書かれている内容に手がかりに繋がりそうな目印はないか。あるいはなんらかのメモが残されていないか。
 量が量だから、とにかく膨大な労力を要することになるのである。


「懐かしい。エルディラントも読んでいたのだな」

 机に積んである山の一角、いちばん上の薄い一冊を手にとって、リュシエルはパラパラとページを捲った。

「それはまだ、これから中身を確認するところだが内容を知ってるのか?」
「知っている。おそらくこの世界の住人ならば、ほとんどの者が幼いころから親しんでいる童話だ」
「童話?」

 その説明に、強い違和感をおぼえた。

 俺がいままで確認してきた書物は、いずれも学術書や史実、研究論文といった小難しげな内容のものばかりだった。素人が斜め読みした程度では到底理解できない、難解な専門書の中に交じる別のジャンルの平易な読み物。


「リュシエル、ここにある書物は、最初から次代盟主のためにこの屋敷に用意されていたものなのか?」
「いや、共有の書庫は別にある。この部屋にあるものは、すべてエルディラント個人の所有だ。エル? なにか……?」
「その本は、この世界の人間には子供のころから馴染みがある物語だと言っていたな。ならば、エルディラントの思い出の品かなにかなのか?」
「え?」

 不思議そうな顔をしたリュシエルは、あらためて手にしたものに視線を落とした。

「いや、見るかぎり、まだ新しいもののようだが」
「それなら、わざわざ用意したということになるな」
「そうかもしれないが、ここでの生活がはじまるときに、ふと子供のころが懐かしくなって、たまたま買い求めたのかも……エル? なんだか、顔が怖いぞ? さっきからいったいどういう……。これがなにか――」
「リュシエル、その童話、どんな話なんだ? よかったら教えてくれ」

 きこんで尋ねる俺に気圧けおされたように、リュシエルは胸のまえで本を抱えたまま、わずかに後退あとずさりした。
しおりを挟む
感想 5

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

夜曲
2023.12.12 夜曲

ギャーすみません!すみません!
めちゃくちゃ書き間違えてますね。

攻めだってちゃんと解ってますよ!大丈夫です!ちゃんと伝わってます!
むしろそれ以外に解釈のしようが無いです!

すみません…あと30分でBL大賞期間が終わってしまう!とめっちゃ焦って感想書いてたから、単純に書き間違えました🙇‍♀️申し訳ないです!

『攻め』の普通の現代人感が堪らない作品です🥰

九條 連
2023.12.12 九條 連

ああっ、夜曲さん!
わざわざありがとうございます!
そしてそんなギリギリの時間帯に感想を書いてくださっていたのかと、あらためて感謝の思いでいっぱいになりました。

大丈夫です。
きっとわかってくださってるんだろうなと思いつつ、返信で一応触れておかないと他の読者さんが混乱するかもと思い、主人公の立ち位置に言及させていただいただけなので。

BLの場合、視点は受けちゃんであることが好ましいというのはわかってはいるのですが、自分の場合、攻め視点のほうが書きやすくてどうしても比率として攻め側に立ってしまうほうが多いんですよね(笑)
という余計な書き手の志向はさておき、あたたかな応援にただただ感謝でございます!

ようやく少しずつ身辺が落ち着いてきましたので、また徐々に活動を再開していきたいと思います。
この度は本当にありがとうございました!

解除
夜曲
2023.11.30 夜曲

普段の九條さんの作風とは全く違う、受けの口調が軽い作品で、ネット小説の需要に合わせて九條さんが作風を変えてまで努力されたんだなという熱意が凄く伝わってくる作品でした!

受けの独白が楽しくて、毎回笑わせて頂いています🤭

今これからが良いところですね!
続きを楽しみにしています😊

九條 連
2023.12.06 九條 連

夜曲さん

お忙しい中、お越しいただいて本当にありがとうございました!
そして私事でバタバタしていた関係で、お返事が大変遅くなりまして誠に申し訳ありませんでしたっ💦
まだちょっとごたついておりますが、ようやく少しずつ日常に戻ってくることができそうです。

さてさて、今作にて自分なりに挑戦した点に触れていただき、とても嬉しかったです😊
せっかくだから、いろんなタイプの作品を書いてみようということでチャレンジしてみました。
コンテストでは個人的な事情により、最後の最後で更新が滞ってしまいましたが、ふたたび執筆を再開して、きちんと物語を着地させていきたいと思います。
あたたかな応援のお言葉、本当にありがとうございました💝

あ、ちなみに主人公、じつは攻めなんです(笑)
すみません、タグつけてないので不親切でしたね。
まあ、とぼけた性格なので、どちらでもいいかもしれません😂

解除
墨尽(ぼくじん)

世界観はしっかり練られてて、すごく面白いです!
神様系のお話が好きな方にはぴったりの作品だと思います
エルが砕けた口調なので文体も軽めに感じますが、時折がっちり固めてくる所にぐっと来ます

そして受けちゃんも攻めくんも可愛すぎ!
2人の尊いやり取りに、天を仰ぐなどしてしまいました…

エルディラントに恋焦がれて暴走している感じが可愛すぎるし、エルも理性を総動員させているのが滅茶苦茶良いです✨

素敵な作品をありがとうございます!
今後の展開が楽しみです!

九條 連
2023.11.21 九條 連

墨尽様

ご来訪、そして嬉しいご感想ありがとうございます!
はじめて書くタイプのお話に四苦八苦している真っ最中ですが、楽しんでいただけているとのことでとても嬉しかったです😊
受けちゃん、初心なのにガンガン攻めていってますが(笑)、まだエルディラントがどこへ行ってしまったのか、主人公の記憶はどうなるのか、核心にたどり着いていない状況です。
これから少しずつ謎が解き明かされていきますので、またお時間のあるときにお立ち寄りいただけましたら嬉しいです。

あたたかな応援のお言葉、本当にありがとうございました!

解除

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

職場の秘密

あみち
BL
ある上司と部下の愛のお話。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。