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第5章

誘惑と友情、魂の交信(5)

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「ひょっとして、それで必死になって俺に誘いをかけてたのか? ほんのちょっとでも、恋人に求められてる疑似体験がしたくて?」
「そっ、そういうわけではないのだが……」

 そういうわけでも、あったわけなのね?

 やれやれと今日何度目か、もはやわからない嘆息が漏れた。


「あのな、リュシエル、俺からひとつ言わせてもらっていいか?」

 あらたまった口調で言うと、リュシエルは怯えたように顔を硬張らせた。べつに口調を荒らげたわけでも、批難を滲ませたわけでもないのだが、自分なりに負い目を感じていたのだろう。顔色を窺うような上目遣いを向けられて、苦笑せずにはいられなかった。


「温室育ちのあんたにはあまりピンとこないかもしれないが、男ってのは即物的な生き物なんだよ。欲求満たすことを優先しようと思ったら、気持ちなんか二の次で簡単に発散できちまう。そういうものなんだ」
「簡単に発散、とは?」
「つまり、相手が魅力的であろうがなかろうが、好意なんて微塵もない、それこそただの行きずりの人間であったとしても、自分の性欲を処理するだけなら躊躇なく身体の関係を持てるってこと」
「我も男だが、そんなふうに思ったことは一度もないぞ?」

 思いっきり疑惑の目を向けられて、思わず笑ってしまった。

「いや、あんたの場合はちょっと特殊だからな。属性が違うっていうか」
「我のなにが、ほかの者たちと違うというのだ! そなたとおなじ生物的特徴を備えているではないかっ。それともそなたの目には、我が女性として映っているとでもいうのか?」
「あ~、いや、そんなことはない。ちゃんと男だと認識してる」
「でも、いま、属性が異なると。天界人も、人界の者らと変わらぬ男女の性を有しているのだぞ? なんなら確認してみるか?」

 このままでは服を脱ぎ出しかねないので、まあまあとなだめた。

 ったく、この箱入り神様は。

「あんたが同性であることは俺もわかってる。神様の肉体や性別が人間と変わらないってこともな。あんたの恋人の躰を借り受けてるんだから、それは普通にわかるだろ。けどさ、あんたの場合は生まれたときから神族の中でも特別な存在だったわけだし、パートナーも必然的にさだめられてた。そしてその相手を、ずっと一途に想いつづけてきた。それこそ、ほかの奴に目移りする余地もないくらいひたむきに」
「当然だ! 我は生まれながらにエルディラントの半身であるのだからな」
「うん、その主張はわかったけど、話の趣旨がズレるからもとに戻すな?」

 臨戦態勢でフンフンと鼻息を荒くしているものの、一応話を聞いてくれる気はあるのか、おとなしく口をつぐんでくれた。

「で、男のさがってところに話を戻すと、そういう特殊な境遇に生まれついていない、ごく一般的な男というのは、自分の子孫を残すっていう生物的本能が理性にまさることが往々にしてある。性的欲求と肉体的快楽が満たされれば充分で、そこに愛情が伴う必要はない。なんなら俺だって、あんたを抱こうと思えばいくらでも抱ける」

 言った途端、リュシエルはビクッとして身を引いた。
 そうそう、そのぐらい警戒心は持ってくれないとねぇと、内心でその反応に満足した。
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