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第5章
誘惑と友情、魂の交信(4)
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事実を知ったときに真っ先に思ったのが、『あ、俺、間違いなくエルディラントに殺される……』だった。だって、これ以上ないほど大事にしてきた最愛の恋人に、思いっきりベロチュウしちゃったじゃん、俺。俺を眠らせてるあいだに口移しでエネルギーの中和処置をしてた、なんて聞かされたら、普通にもとの躰の持ち主とも、日頃からそういう手段で対処してたって思うじゃんね?
いやもう、真っ青になったよね。ヤバいじゃん、俺。当て馬確定じゃん! しかも神様相手。罰当たり必至じゃん!
そんなわけで、心の底から己の所行を悔いあらためた俺は、犯した罪をなかったことにはできないものの、これ以上の罪を重ねることだけは決してすまいと固く心に誓ったよね。固く誓って、いまさらながら誠実であろうと己を戒めたわけ。できるかぎり距離を取るようにして自制しましたよ、もちろん。そりゃそうだよね? いくら体調維持のために必要な処置とはいえ、他人様の恋人に、これ以上手ェ出すわけにはいかないんだから。なのに、ですよ?
「我らは他人ではない。生涯をともにすると誓い合ったのだから」
これだよ、これ。
なんとしてももう一度エルディラントと繋がりたいリュシエルは、そう主張して、あの手この手で誘いをかけてくる。
「それは俺じゃないし、恋人としてないことを俺としちゃダメだろ」
「でも肉体はエルディラントなのだから、不義にはならないと思う」
「いや、完全にアウトだろ」
即答した俺に、リュシエルはムッとした顔をした。
「そんな顔してもダメです。中身俺よ? 完全別人じゃん。中身もあんたの恋人じゃないと、そういうことはすべきじゃないんじゃないのっつってんの。それともなにか? 俺の考えかたは人間独自のもので、あんたら神様の倫理基準では問題ないのか?」
「そんなわけないっ」
リュシエルはムキになって言い返してきた。
「でも、そうしないとエルディラントを取り戻せないっ」
駄々っ子のように言い張るその様子に、やれやれと嘆息が漏れた。
「そなたっ、我を子ども扱いするなと何度も言うているであろうっ」
「おっと失礼」
無意識のうちによしよしと頭を撫でていたらしい。子ども扱いするなって言われてもねぇ。言動が危なっかしくて、親戚のおじさんにでもなった気分だよ、俺は。
内心でもう一度やれやれと溜息をつきつつ、気を取りなおしてリュシエルに向き合った。
「あんたが焦る気持ちもよくわかる。けどさ、俺とそういうことをしてエルディラントを取り戻せたとして、そのあと気まずい思いをするのはあんたじゃないのか?」
「それはっ」
「あんたがそれだけ必死だったってことを、あんたの恋人はちゃんと理解してくれるだろうし、きっと責めたりもしない。だけどあんたは、そのことをずっと負い目に感じて後悔することになるんじゃないのか? まだほんのひと月にも満たない付き合いだが、あんたのそういう性格は理解してるつもりだ。だから俺は、いっときの感情に流されて、勢いで不適切な接触を何度もすべきじゃないと思う」
まあ、先に手を出しちゃった俺が言っても説得力ないんだけどと笑うと、リュシエルは口唇を噛んで俯いた。
「……でもエルディラントは、我になにもしてくれなかった。エルディラントにとって我は、パートナーとしての魅力に欠けるのかもしれぬ」
しょんぼりとした様子に、あ~、なるほど、そういうことだったか、と苦笑が漏れた。
いやもう、真っ青になったよね。ヤバいじゃん、俺。当て馬確定じゃん! しかも神様相手。罰当たり必至じゃん!
そんなわけで、心の底から己の所行を悔いあらためた俺は、犯した罪をなかったことにはできないものの、これ以上の罪を重ねることだけは決してすまいと固く心に誓ったよね。固く誓って、いまさらながら誠実であろうと己を戒めたわけ。できるかぎり距離を取るようにして自制しましたよ、もちろん。そりゃそうだよね? いくら体調維持のために必要な処置とはいえ、他人様の恋人に、これ以上手ェ出すわけにはいかないんだから。なのに、ですよ?
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「でも肉体はエルディラントなのだから、不義にはならないと思う」
「いや、完全にアウトだろ」
即答した俺に、リュシエルはムッとした顔をした。
「そんな顔してもダメです。中身俺よ? 完全別人じゃん。中身もあんたの恋人じゃないと、そういうことはすべきじゃないんじゃないのっつってんの。それともなにか? 俺の考えかたは人間独自のもので、あんたら神様の倫理基準では問題ないのか?」
「そんなわけないっ」
リュシエルはムキになって言い返してきた。
「でも、そうしないとエルディラントを取り戻せないっ」
駄々っ子のように言い張るその様子に、やれやれと嘆息が漏れた。
「そなたっ、我を子ども扱いするなと何度も言うているであろうっ」
「おっと失礼」
無意識のうちによしよしと頭を撫でていたらしい。子ども扱いするなって言われてもねぇ。言動が危なっかしくて、親戚のおじさんにでもなった気分だよ、俺は。
内心でもう一度やれやれと溜息をつきつつ、気を取りなおしてリュシエルに向き合った。
「あんたが焦る気持ちもよくわかる。けどさ、俺とそういうことをしてエルディラントを取り戻せたとして、そのあと気まずい思いをするのはあんたじゃないのか?」
「それはっ」
「あんたがそれだけ必死だったってことを、あんたの恋人はちゃんと理解してくれるだろうし、きっと責めたりもしない。だけどあんたは、そのことをずっと負い目に感じて後悔することになるんじゃないのか? まだほんのひと月にも満たない付き合いだが、あんたのそういう性格は理解してるつもりだ。だから俺は、いっときの感情に流されて、勢いで不適切な接触を何度もすべきじゃないと思う」
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「……でもエルディラントは、我になにもしてくれなかった。エルディラントにとって我は、パートナーとしての魅力に欠けるのかもしれぬ」
しょんぼりとした様子に、あ~、なるほど、そういうことだったか、と苦笑が漏れた。
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