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第4章

世界の調和と盟主の役割(7)

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「っていうかさ、あんたこそ本当は嫌だよな。恋人以外と、こういうことはしたくないだろ? ごめんな」
「そなたが気に病む必要はない。そなたも言ったとおり、これはお互いにとって必要な処置なのだ。むしろ、理解を示してくれたことに感謝している。もしこれでまた、我が倒れるようなことにでもなれば、エルディラントの名誉に関わることになってしまう」
「まあ、それはそうか。それなら、俺にできる範囲で協力させてもらうよ」
 言って、両手をひろげると、リュシエルはおずおずと身を寄せてきた。

「抱きしめるだけじゃなくて、やっぱキスもしたほうがいいんだよな?」
「キッ、キスではないっ」
「あ、はい、すみません。過飽和になっているエネルギーの処置です。わかってます」
 プリプリと怒られて、あわてて訂正した。

「それで? その、やりかたのコツは?」
「口移しに、力を注ぎこむようにする感じで」
「その力っていうのが、いまいちわからないんだよな」
「大丈夫だ。先程触れ合ったときも、そなたから我の中に微量ではあるが力が流れこんできた」
「そうか。まあ、俺の力じゃなくて、エルディラントの力ってことになるんだろうけどな」

 納得しかけたところで、ふと気がついた。

「なあ、あんたらのあいだで力のやりとりがうまくいかないって話だったよな? 互いのエネルギーを中和させることができてたなら、なんの問題もなかったんじゃないのか?」
 素朴な疑問だったのだが、リュシエルはすぐさま、そう簡単な話ではないのだとかぶりを振った。

「そなたの言うとおり、互いのエネルギーを中和させることならできる。だが、盟主として行う力のやりとりは、それを遙かに超えたものとならなければならないのだ」
「それを超えたもの?」
「さまざまな生命が息づくこの世界では、物事をよい方向へと導く正のエネルギーとともに、それとは真逆の、悪しきものをもたらす負のエネルギーも絶えず発生している」


 創造と破壊。繁栄と衰頽すいたい。安寧と混沌。慈愛と暴虐。生と死。光と闇――


「とりわけ負のエネルギーは、周辺の清浄なエネルギーを呑みこんで一瞬にして増大してしまう。盟主の役割は、その世界に満ちるエネルギーを己の中に取りこんで、互いの力をやりとりすることで浄化し、還元していくことなのだ」

 想像以上にスケールのでかい話に、返す言葉がなくなった。

 いや、うん。たしかに世界の調和を保つのが役目とか、世界を背負う存在ってことは、もうしつこいくらい聞いてた。聞いてたけどね、あらためてなにをどうするのか具体的に聞かされると、自分の想像を遙かに超えた規模の話でクラクラしちゃうよね。
 え、マジで? それができないと世界の均衡が破れて滅んじゃうって、もののたとえとかそういう次元の話じゃなくて、実際に消滅するってこと? それを護らなきゃいけないの? たったふたりで? 責任重大すぎるし、いくらなんでも背負わせすぎじゃない? ふたりだよ?

 複数の候補者がいる。あるいは自分たちにかわってその役目を引き継いでくれる存在がいる。そういう状況にあるならまだしも、交代要員は皆無。役目を担って生まれてしまった者にとって、それは、どれほどの重圧となることだろう。
 なぜそんな不条理が、この世界ではまかりとおってしまっているのか。


「力をうまく取り交わすことができないのは、自分に原因があるせいだとエルディラントはみずからを責めていた。だが、本当の原因は、我にあったのだと思う」

 リュシエルの声はどこまでもしずかだったが、淡々とした語り口調に反して、その声も表情も、どこか苦しげだった。
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