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第4章
世界の調和と盟主の役割(2)
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「やっぱりあんたの不調に気づいてやれなかったのは、俺の責任だと思う」
「そ、そのようなことは決してない。今回は我が――」
「あんたに落ち度はない。あんたの不調は、エルディラントと力のやりとりができないことが原因なんだろう?」
「そ、れは……」
「あんたの従兄からあらためてこの件について聞かされて、俺はあることに気がついた。たしかに俺は一度倒れてる。こっちの世界のこの躰で目覚めたとき、自分の躰とは思えないぐらい体調が悪かった」
まあ実際、他人の躰だったわけだがと笑う。だがリュシエルは、不自然なまでに腕の中で身を硬くしていた。
「それなのにその不調は、いつのまにかなくなっていた。もちろん、そんなのは言い訳にすらならない。ただたんに、おまえが鈍感で無頓着だったせいだと言われればそれまでだ。それでも俺は、あんたが倒れるまで身体の異変に気づいてやれなかったのは、自分のほうになんの問題も感じていなかったからだと思ってる」
リュシエルはわずかに身をふるわせた。
「おなじ盟主候補で、おなじように力のやりとりができていないにもかかわらず、俺はここ最近、そのことでダメージを受けることはいっさいなかった。このとおりピンピンしてる。それは、俺がこの躰に入ったことで、《人ならざるもの》からただの人間になったせいか、それとも違う理由がほかにあるのか――」
リュシエルは身を縮めたまま、じっと息をひそめていた。流れ落ちる見事な銀糸の髪の隙間から、わずかに覗く耳がやけに赤かった。
「具合がよくないのに、こんな話をしてすまない。だが、もし俺がいま、なんの問題もなく過ごせているのがあんたのおかげなら、俺もあんたに、なにかしてやれることがあるんじゃないかと思ったんだ。力のやりとりというのは、具体的にどうするものなんだ? やはり俺では無理か? 『エルディラント』をこの躰に戻さないと」
リュシエルはこちらに身を預けたまま、微動だにしない。よりいっそう身を硬くする。そして見えている耳のふちが、先程よりさらに赤くなっていった。
恥じらっているようにも見えるその姿が、妙に蠱惑的でなまめかしいのは気のせいだろうか。
思った瞬間、身体に思わぬ変化が生じた。
え? あれ?
自分で自分にギョッとする。
いや、待って! なんだ、いきなりっ? なんかマズいっ。ものすごくヤバいっ、状態に……っ。
そんな場合ではないというのに、触れ合っている部分から伝わる《なにか》に身体が反応してしまって、焦りをおぼえた。
なんだこの、異常に心地いい感じはっ。心地いいっていうか、むしろちょっと……いや、ものすごく、非常にまずい感じになってきちゃったっていう。なにがって……その、突如そういう方向での欲望が擡げたといいますか、エルディラントのエルディラントが急にやる気を出してしまったといいますか。
自分でも、なんでいきなりこんなふうになってしまったのか、まるでわからなかった。
なんだ俺、不謹慎すぎやしないか? たしかにこっちの世界に来てからそれどころじゃなかったわけだが、いきなりこんなこと、ある? 決まった相手がすでにいる同性に対して、これはダメだろ。
理性が戒めるそばから、その相手というのはこの躰の持ち主で、つまりいまは自分なのだから問題ないという邪な思いが掠めていった。そのことにさらに動揺をおぼえる。自分で自分の人間性を疑いたくなった。
「そ、そのようなことは決してない。今回は我が――」
「あんたに落ち度はない。あんたの不調は、エルディラントと力のやりとりができないことが原因なんだろう?」
「そ、れは……」
「あんたの従兄からあらためてこの件について聞かされて、俺はあることに気がついた。たしかに俺は一度倒れてる。こっちの世界のこの躰で目覚めたとき、自分の躰とは思えないぐらい体調が悪かった」
まあ実際、他人の躰だったわけだがと笑う。だがリュシエルは、不自然なまでに腕の中で身を硬くしていた。
「それなのにその不調は、いつのまにかなくなっていた。もちろん、そんなのは言い訳にすらならない。ただたんに、おまえが鈍感で無頓着だったせいだと言われればそれまでだ。それでも俺は、あんたが倒れるまで身体の異変に気づいてやれなかったのは、自分のほうになんの問題も感じていなかったからだと思ってる」
リュシエルはわずかに身をふるわせた。
「おなじ盟主候補で、おなじように力のやりとりができていないにもかかわらず、俺はここ最近、そのことでダメージを受けることはいっさいなかった。このとおりピンピンしてる。それは、俺がこの躰に入ったことで、《人ならざるもの》からただの人間になったせいか、それとも違う理由がほかにあるのか――」
リュシエルは身を縮めたまま、じっと息をひそめていた。流れ落ちる見事な銀糸の髪の隙間から、わずかに覗く耳がやけに赤かった。
「具合がよくないのに、こんな話をしてすまない。だが、もし俺がいま、なんの問題もなく過ごせているのがあんたのおかげなら、俺もあんたに、なにかしてやれることがあるんじゃないかと思ったんだ。力のやりとりというのは、具体的にどうするものなんだ? やはり俺では無理か? 『エルディラント』をこの躰に戻さないと」
リュシエルはこちらに身を預けたまま、微動だにしない。よりいっそう身を硬くする。そして見えている耳のふちが、先程よりさらに赤くなっていった。
恥じらっているようにも見えるその姿が、妙に蠱惑的でなまめかしいのは気のせいだろうか。
思った瞬間、身体に思わぬ変化が生じた。
え? あれ?
自分で自分にギョッとする。
いや、待って! なんだ、いきなりっ? なんかマズいっ。ものすごくヤバいっ、状態に……っ。
そんな場合ではないというのに、触れ合っている部分から伝わる《なにか》に身体が反応してしまって、焦りをおぼえた。
なんだこの、異常に心地いい感じはっ。心地いいっていうか、むしろちょっと……いや、ものすごく、非常にまずい感じになってきちゃったっていう。なにがって……その、突如そういう方向での欲望が擡げたといいますか、エルディラントのエルディラントが急にやる気を出してしまったといいますか。
自分でも、なんでいきなりこんなふうになってしまったのか、まるでわからなかった。
なんだ俺、不謹慎すぎやしないか? たしかにこっちの世界に来てからそれどころじゃなかったわけだが、いきなりこんなこと、ある? 決まった相手がすでにいる同性に対して、これはダメだろ。
理性が戒めるそばから、その相手というのはこの躰の持ち主で、つまりいまは自分なのだから問題ないという邪な思いが掠めていった。そのことにさらに動揺をおぼえる。自分で自分の人間性を疑いたくなった。
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