目覚めた世界で光の眷属の次代盟主とかいう超絶美人に迫られているのだが!?

九條 連

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第4章

過飽和の要因(2)

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 たままた盟主候補者として生まれただけで、格下の人間が名門家出身の身内の伴侶に選ばれたことが気に入らない。大事な従弟の相手が、釣り合いのとれない家柄出身者であることを度しがたく思っている、とでもいったところか。身分制度が廃止されて久しい現代日本でも、いざ結婚となれば、家格が釣り合う釣り合わないを気にする人間はそれなりにいる。
 思った途端、なぜか胸の奥で嫌な感覚がざわめいた。思い出せない『なにか』に触れそうな、もどかしい感覚――


「少し、無責任ではありませんか?」

 一瞬囚われそうになった思考は、冷ややかな声に首根っこを掴まれ、一気に現実へと引き戻された。
 ハッとして視線を向けると、金茶色の双眸が、まっすぐこちらへ向けられていた。

「エネルギーが飽和状態になっている。医術士のその見立てを、あなたはどう受け取られましたか?」
 変わらずしずかな口調ではあるが、言葉に棘がある。どう、と問われたところで、エルディラントの躰を借り受けている俺では、対処のしようもない。

「それについては先程も申し上げたとおり、こちらの配慮が行き届かず、申し訳なかったと」

 実際、自分にどうこうできることではないので、それ以外に言いようがない。だがルシアスは、うんざりしたように小さく息をついた。
「まもなく盟主の座にかれる立場の方に、このようなことを申し上げたくはないのですが、正直、あなたには失望しました。ご存じのとおり、リュシエルは歴代候補者の中でもとりわけ強大な神力を持ち合わせています。そして、あなたとともに至尊の位を引き継ぐため、すでに身体のほうもその準備段階に入っているのです。それはあなたもおなじでしょう。それなのにあなたがたはいまだ、互いのエネルギーを満足に取り交わすことさえできずにいる」

 そうですね。それはすでに、さんざん聞かされてるので知ってます。

「闇の盟主となるあなたと生活をともにするようになったことで、リュシエルの体内では、生産されるエネルギー量がますます増幅しています。それなのに、それを中和させる術がない。発散させることのできないエネルギーは、その力を生み出している当人の中に蓄積されつづけていくのです。それも、とてつもなく膨大な量が。それが、どれほど危険なことかわかりますか?」

 もちろん知ってます。それについてもさんざん聞……かされてませんけどぉおぉぉっ!?

 思わず仰天しそうになって、危うく声をあげるところだった。『エルディラント』なら知っていてしかるべきことに、うっかり反応してボロを出すわけにはいかない。ありったけの理性を総動員して、かろうじて呑みこんだ。

 なんだそれっ。くわしいことはよくわからんが、たしかに非常によろしくないことは俺にもわかる。なんだろう。イメージとして、ずっと空気を注がれつづけてる風船、みたいな?

 リュシエルが倒れた原因をようやく理解して、一気に背筋が寒くなった。

 いや、うん。たしかにそりゃヤバい。倒れるのも無理はない。けど、だったらリュシエルは、なんだっていままで、そんな大事なことを黙っていたんだろうか。せめてひと言でも言ってくれたら……。


「リュシエルはとても我慢強い」

 まるでこちらの思考を読んだかのようにルシアスは言った。

「己の感情に素直で奔放な性格に見られやすいが、そのじつ、自分以上に他者を思いやる慈愛を兼ね備えています。そんな彼が、あなたを苦しめるとわかっていて、自分の不調をしらせると思いますか?」
 責める口調で問われて、返す言葉が見つからなかった。

 そうだ。あれほどまで一途に慕うエルディラントに対して、あのリュシエルが不調なそぶりを見せるはずもなかった。それが俺であるなら、なおのこと言えるはずもないだろう。俺はまったくの赤の他人で、ただの人間にすぎないのだから。

「この世界で唯一、リュシエルの苦痛を分かち合い、やわらげることのできるあなたが、なぜこんなにも彼に対して無関心で、無責任でいられるのか私には理解できません」
「そんなつもりは……」
「現にこうして倒れるまで、気づかなかったでしょう?」

 容赦のない糾弾は、止まる気配もなかった。
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