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第3章
すれ違う想い(1)
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「エルッ、あれはいったい、どういうことなのだっ!」
メルヴィルが引き上げた後、人払いをした応接室でリュシエルは目くじらを立てて詰め寄ってきた。
「あれ、とは?」
「だからっ、メルヴィル補佐官に言ったことだ!」
「俺の婚約者が美人すぎて困るって?」
「そ……っ」
絶句したリュシエルは、瞬く間に顔を赤くした。なんなら首筋まで赤い。ほんと、素直で可愛いんだよな。純粋培養っていうのかさ。
「だっ、だれがそんな話をしておるのだ!」
リュシエルはさらに声を荒らげた。
「それ以前に我は、そなたの婚約者ではない!」
「はいはい、わかってますよ。あんたのパートナーは、この躰の持ち主である超絶美形の闇の次期盟主様だもんな」
「なぜそんな言いかたをするっ。いくらエルディラントの姿をしていても、エルディラントを侮辱することは許さぬぞ!」
う~ん、ややこしい。
言っているほうは至極真剣なので、混ぜっ返すことも躊躇われた。いや、不真面目に茶々入れて戯れてる場合じゃないんだけどね。
「悪い、ふざけたつもりはなかった。それで? なにが気に入らなかったって?」
「なにが、ではない! そなた、余計なことは申すなと、あれほど釘を刺しておいたではないか。万一エルディラントのことが知れれば、ただでは済まぬのだぞ? それをあんな、この世界のありようと盟主の存在意義そのものを揺るがすような発言なんぞしおってっ」
怒りのあまり、リュシエルは言葉を詰まらせた。
「あ~、いや、次期盟主の立場で言っていいことじゃなかったかもしれないな。悪いとは思ってる」
「謝って済む話か! あれでエルディラントの立場が悪くなったら、そなた、どう責任をとるつもりだ」
まあまあ、そうカッカしないでと肩に手を添え、さっきまで座っていた長椅子に並んで座りなおした。
「勝手な真似をしたのは、ほんと悪かったと思ってる。けどさ、俺もある程度、必要な情報仕入れておかないと、この先対応に困るだろ?」
「だからそれは、我が教えているではないか!」
「いやまあ、そうなんだけどさ。それはそれとして、いろんな立場の人間からいろんな見解を聞いてみないと、多角的に物事を判断できないだろ?」
「多角的な判断?」
美人というのは、小難しげな顔をしていても目の保養になるのだからたいしたもんだと毎度のことながら感心してしまう。美人は三日で飽きるっていうけど、全然そんなことないよなぁとあらためて思った。まあ本人、そんな自覚はないんだろうけど。
最初出会ったときに自画自讃してたほど、己の容姿を自慢に思っているわけでないことはすぐにわかった。むしろ、自分のことはそっちのけで、パートナーをひたすら讃美している。
いまもまた、隣に座って話をするためにじっと顔を見ただけで頬を染めていて、そんな健気な反応に、居心地の悪さをおぼえた。見つめてるのは、大好きな恋人じゃなくて俺なんだけどなぁ。
内心でごめんなと謝りつつ、咳払いで注意を引いて本題に戻った。
「生まれながらに盟主となることが決まっていた当事者と、現盟主に仕えて国の根幹を支えてる立場。果たす役目が異なれば、おなじ物事をとらえていても、別の解釈、見解があるかもしれないだろ。それは、あんたとメルヴィル補佐官にかぎったことじゃない」
おなじ天霊府でも、所属する部署が違う。あるいは部署がおなじでも、階級差による責任の重さが違う。そういった立場の違いによって、知っていることと知らないことの差があったり、従事している内容が異なれば見解だって当然違ってくる。
「それは、そうだが……」
「現にあんたとエルディラントだって、下々の連中から見れば『次期盟主』っていう雲上人として、ひとくくりにされるわけだろ?」
「それは…っ」
反論しようとして結局なにも言えず、リュシエルは口を噤んだ。
メルヴィルが引き上げた後、人払いをした応接室でリュシエルは目くじらを立てて詰め寄ってきた。
「あれ、とは?」
「だからっ、メルヴィル補佐官に言ったことだ!」
「俺の婚約者が美人すぎて困るって?」
「そ……っ」
絶句したリュシエルは、瞬く間に顔を赤くした。なんなら首筋まで赤い。ほんと、素直で可愛いんだよな。純粋培養っていうのかさ。
「だっ、だれがそんな話をしておるのだ!」
リュシエルはさらに声を荒らげた。
「それ以前に我は、そなたの婚約者ではない!」
「はいはい、わかってますよ。あんたのパートナーは、この躰の持ち主である超絶美形の闇の次期盟主様だもんな」
「なぜそんな言いかたをするっ。いくらエルディラントの姿をしていても、エルディラントを侮辱することは許さぬぞ!」
う~ん、ややこしい。
言っているほうは至極真剣なので、混ぜっ返すことも躊躇われた。いや、不真面目に茶々入れて戯れてる場合じゃないんだけどね。
「悪い、ふざけたつもりはなかった。それで? なにが気に入らなかったって?」
「なにが、ではない! そなた、余計なことは申すなと、あれほど釘を刺しておいたではないか。万一エルディラントのことが知れれば、ただでは済まぬのだぞ? それをあんな、この世界のありようと盟主の存在意義そのものを揺るがすような発言なんぞしおってっ」
怒りのあまり、リュシエルは言葉を詰まらせた。
「あ~、いや、次期盟主の立場で言っていいことじゃなかったかもしれないな。悪いとは思ってる」
「謝って済む話か! あれでエルディラントの立場が悪くなったら、そなた、どう責任をとるつもりだ」
まあまあ、そうカッカしないでと肩に手を添え、さっきまで座っていた長椅子に並んで座りなおした。
「勝手な真似をしたのは、ほんと悪かったと思ってる。けどさ、俺もある程度、必要な情報仕入れておかないと、この先対応に困るだろ?」
「だからそれは、我が教えているではないか!」
「いやまあ、そうなんだけどさ。それはそれとして、いろんな立場の人間からいろんな見解を聞いてみないと、多角的に物事を判断できないだろ?」
「多角的な判断?」
美人というのは、小難しげな顔をしていても目の保養になるのだからたいしたもんだと毎度のことながら感心してしまう。美人は三日で飽きるっていうけど、全然そんなことないよなぁとあらためて思った。まあ本人、そんな自覚はないんだろうけど。
最初出会ったときに自画自讃してたほど、己の容姿を自慢に思っているわけでないことはすぐにわかった。むしろ、自分のことはそっちのけで、パートナーをひたすら讃美している。
いまもまた、隣に座って話をするためにじっと顔を見ただけで頬を染めていて、そんな健気な反応に、居心地の悪さをおぼえた。見つめてるのは、大好きな恋人じゃなくて俺なんだけどなぁ。
内心でごめんなと謝りつつ、咳払いで注意を引いて本題に戻った。
「生まれながらに盟主となることが決まっていた当事者と、現盟主に仕えて国の根幹を支えてる立場。果たす役目が異なれば、おなじ物事をとらえていても、別の解釈、見解があるかもしれないだろ。それは、あんたとメルヴィル補佐官にかぎったことじゃない」
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「それは、そうだが……」
「現にあんたとエルディラントだって、下々の連中から見れば『次期盟主』っていう雲上人として、ひとくくりにされるわけだろ?」
「それは…っ」
反論しようとして結局なにも言えず、リュシエルは口を噤んだ。
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