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第3章
天の摂理(1)
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「最近、おふたりの調子は如何ですか?」
にこやかに問われて、こちらもにこやかに返した。
「おかげさまで、順調に絆を深めております」
同意を求めて傍らに視線を向けると、桁外れの美貌を誇る銀糸の髪の相棒も、おなじようににっこりとして頷いた。わずかに頬を染めて恥じらいを見せるあたり、芸が細かい。こんな初々しい反応が演技だとは、だれも思うまい。そして表情同様に、甘やかな声で言葉を紡いだ。
「まだまだ至らない点も多いですが、わたくしの力が及ばない部分は、エルディラントに助けていただいております」
リュシエルの言葉を受けて、相手はそうですかと満足げに目を細めた。
半月に一度訪ねてきて、次期盟主の様子を確認していく眷属の担当者。眷属といっても現盟主に仕えている中立的な立場の人で、所謂お役人的な役割の人らしい。
天界のことを掌る組織が天霊府。人界のことを掌る組織が地魂府。
いま訪ねてきているメルヴィルという名の担当者は当然、天霊府の人間で、組織のトップである長官の補佐役を務めているらしい。
こうして定期的に様子を見に来て、譲位の準備が着実に進んでいるかをチェックするのだそうだ。
これはたしかに、不慮の事故によって盟主候補のひとりが行方不明になったとは言えるはずもない。なにしろ候補者は、それぞれの眷属の中からひとりしか生まれてこないからだ。そんな事実が明らかになれば、天界どころか全世界を揺るがす騒ぎに発展するだろう。
バレたときのことを想像するだけで背筋が寒くなる。
「おや、エルディラント様、如何されました? お顔の色が優れないようですが」
メルヴィル補佐官の声に、リュシエルが緊張を濃くしてこちらを振り返った。目敏すぎるだろと一気に肝が冷えたが、表面上はなんとか涼しい態度を保ちつづけた。
「さすが補佐官殿、優れた洞察力をお持ちでいらっしゃる。やはり誤魔化せるものではありませんね」
「とおっしゃいますと、なにか問題が?」
いったいなにを言い出すのだろうと、傍らの白皙の美貌が蒼褪めていく。だが、ここで黙るわけにもいかない。腹を括るしかなかった。
「あらたになにかが起こったというわけではありません。我々の力のやりとりが、うまくいっていないことは補佐官殿もご存じでしょう」
さりげなくリュシエルの手に己の手を重ね、気遣うふりでなにか言いかけようとするのを制する。とりあえずここは任せておけと目顔で合図してからメルヴィルに向きなおった。
「至らない点が多いのは、むしろ私のほうです。本来であれば、互いの力をスムースにやりとりできるよう年長者の私がリードすべきところ、いまだうまく調整することさえできないのですから」
「エルディラント」
不安げな様子を見せるリュシエルを見返して、本当にすまないと自嘲気味な笑みを浮かべた。
「私が不甲斐ないばかりに、あなたには余計な苦労をさせてしまう。心から申し訳ないと思っている」
「そんなことはっ」
こちらに向けられている青い瞳が、これ以上余計なことは言うなと必死に訴えている。重ねている手の指先が冷たくなっていて、神様でも緊張すると末端の血流が悪くなるんだなぁなどとどうでもいいことを考えていた。いや、こっちもそれなりに緊張してるんで、結構汗ばんではいたのだが。
にこやかに問われて、こちらもにこやかに返した。
「おかげさまで、順調に絆を深めております」
同意を求めて傍らに視線を向けると、桁外れの美貌を誇る銀糸の髪の相棒も、おなじようににっこりとして頷いた。わずかに頬を染めて恥じらいを見せるあたり、芸が細かい。こんな初々しい反応が演技だとは、だれも思うまい。そして表情同様に、甘やかな声で言葉を紡いだ。
「まだまだ至らない点も多いですが、わたくしの力が及ばない部分は、エルディラントに助けていただいております」
リュシエルの言葉を受けて、相手はそうですかと満足げに目を細めた。
半月に一度訪ねてきて、次期盟主の様子を確認していく眷属の担当者。眷属といっても現盟主に仕えている中立的な立場の人で、所謂お役人的な役割の人らしい。
天界のことを掌る組織が天霊府。人界のことを掌る組織が地魂府。
いま訪ねてきているメルヴィルという名の担当者は当然、天霊府の人間で、組織のトップである長官の補佐役を務めているらしい。
こうして定期的に様子を見に来て、譲位の準備が着実に進んでいるかをチェックするのだそうだ。
これはたしかに、不慮の事故によって盟主候補のひとりが行方不明になったとは言えるはずもない。なにしろ候補者は、それぞれの眷属の中からひとりしか生まれてこないからだ。そんな事実が明らかになれば、天界どころか全世界を揺るがす騒ぎに発展するだろう。
バレたときのことを想像するだけで背筋が寒くなる。
「おや、エルディラント様、如何されました? お顔の色が優れないようですが」
メルヴィル補佐官の声に、リュシエルが緊張を濃くしてこちらを振り返った。目敏すぎるだろと一気に肝が冷えたが、表面上はなんとか涼しい態度を保ちつづけた。
「さすが補佐官殿、優れた洞察力をお持ちでいらっしゃる。やはり誤魔化せるものではありませんね」
「とおっしゃいますと、なにか問題が?」
いったいなにを言い出すのだろうと、傍らの白皙の美貌が蒼褪めていく。だが、ここで黙るわけにもいかない。腹を括るしかなかった。
「あらたになにかが起こったというわけではありません。我々の力のやりとりが、うまくいっていないことは補佐官殿もご存じでしょう」
さりげなくリュシエルの手に己の手を重ね、気遣うふりでなにか言いかけようとするのを制する。とりあえずここは任せておけと目顔で合図してからメルヴィルに向きなおった。
「至らない点が多いのは、むしろ私のほうです。本来であれば、互いの力をスムースにやりとりできるよう年長者の私がリードすべきところ、いまだうまく調整することさえできないのですから」
「エルディラント」
不安げな様子を見せるリュシエルを見返して、本当にすまないと自嘲気味な笑みを浮かべた。
「私が不甲斐ないばかりに、あなたには余計な苦労をさせてしまう。心から申し訳ないと思っている」
「そんなことはっ」
こちらに向けられている青い瞳が、これ以上余計なことは言うなと必死に訴えている。重ねている手の指先が冷たくなっていて、神様でも緊張すると末端の血流が悪くなるんだなぁなどとどうでもいいことを考えていた。いや、こっちもそれなりに緊張してるんで、結構汗ばんではいたのだが。
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