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第2章
俺は死んじまっただ?(1)
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ふっと意識が浮上して、吸い寄せられるように覚醒に導かれた。
似たような感覚を味わったばかりのような気もするが、今度は深い闇の中に墜ちていくこともなく、自然に瞼が開いた。
細かな模様が描かれた、見慣れない豪奢な天井。窓から差しこむ明るい光。
ひどく寝心地のいい寝具の感触に、我知らず深い吐息が漏れた。途端に、少し離れた場所で気配が動いた。
「目覚めたか?」
見覚えのある人物が傍らまで近づいてきて、静かに尋ねた。意識が途切れる寸前、去っていく後ろ姿に追い縋ろうとした相手、例の銀髪美人だった。
「……あんた、名前は?」
掠れる声をなんとか搾り出すと、こちらを視つめる青玉の双眸が驚いたように見開く。直後に、顔を横に向けてクスクスと笑い出した。
……なんだ?
なぜ急に笑われたのか理解できず、呆気にとられた。銀髪美人はなおも笑いながら、こちらに視線を戻した。
「そなたは、おもしろい男だな。まさか開口一番に、自分の置かれている状況ではなく、名を訊かれるとは思わなかった」
「あ、それは……」
そういえばそうだった。指摘されてようやく思い至る。
ここ、どこだ?
「我はリュシエル。ここは我とそなたの屋敷だ」
「あんたと、俺の?」
言われて、自分がいま、四隅に立派な支柱が立った、どでかいベッドに横たわっていたことに気がついた。意識を取り戻して最初に目にした華やかな模様は、どうやらその柱に支えられた天井であったらしい。いわゆる天蓋付きというやつだ。
――こんな王侯貴族ばりの豪華なベッドを置ける屋敷が、俺の家でもある?
混乱する頭で、なにをどう考えたらいいのかと頭を悩ませかけたタイミングで、「ああ、すまない」と銀髪美人の声が割って入った。
「我とそなた、ではないな。我とエルディラントの仮住まいだったのだ」
説明する表情に、翳りが落ちた。
「あ、えっと……」
「先刻はすまなんだ。感情的になるあまり、心ない振る舞いをした」
「ああ、いや、俺のほうこそ……」
急にしおらしくなられると、こっちも反応に困る。なにより、愁いを帯びた様子に胸がチクリと痛んだ。その原因が、自分だからだ。
気まずさをおぼえながらも身を起こすと、銀髪美人は咄嗟に手を伸ばしかけ、あわてて引っこめた。だがすぐに、躰を預けやすいよう枕を腰にあてがってくれた。
「その、こっちこそさっきは大人気なかったっていうか、自分になにが起こってるかわからなかったもんで、つい取り乱したっていうか。だからまあ、お互いさま……的な?」
弁解がましいことをもごもごと言いながら相手の様子を伺うと、銀髪美人はわかっているというように頷いた。
「あ~、えっと、また意識飛んでたみたいだけど、今回も助けてもらったっていうか、ここまで運んでくれたのも、おたく、だよな? なんだっけ、あの、光の眷属?の力、とか言ってたっけ?」
「眷属の力というわけではないのだが……」
「え?」
「いや、なんでもない」
銀髪美人は力なく笑って、自分が連れてきたのだと肯定した。
「勝手なことをしたが、あんなふうに目の前で倒れられては、そのままにしておくこともできなかったのでな」
「悪い。面倒をかけた」
素直に謝罪すると、相手もまた、気にすることはないと穏やかに応じた。
似たような感覚を味わったばかりのような気もするが、今度は深い闇の中に墜ちていくこともなく、自然に瞼が開いた。
細かな模様が描かれた、見慣れない豪奢な天井。窓から差しこむ明るい光。
ひどく寝心地のいい寝具の感触に、我知らず深い吐息が漏れた。途端に、少し離れた場所で気配が動いた。
「目覚めたか?」
見覚えのある人物が傍らまで近づいてきて、静かに尋ねた。意識が途切れる寸前、去っていく後ろ姿に追い縋ろうとした相手、例の銀髪美人だった。
「……あんた、名前は?」
掠れる声をなんとか搾り出すと、こちらを視つめる青玉の双眸が驚いたように見開く。直後に、顔を横に向けてクスクスと笑い出した。
……なんだ?
なぜ急に笑われたのか理解できず、呆気にとられた。銀髪美人はなおも笑いながら、こちらに視線を戻した。
「そなたは、おもしろい男だな。まさか開口一番に、自分の置かれている状況ではなく、名を訊かれるとは思わなかった」
「あ、それは……」
そういえばそうだった。指摘されてようやく思い至る。
ここ、どこだ?
「我はリュシエル。ここは我とそなたの屋敷だ」
「あんたと、俺の?」
言われて、自分がいま、四隅に立派な支柱が立った、どでかいベッドに横たわっていたことに気がついた。意識を取り戻して最初に目にした華やかな模様は、どうやらその柱に支えられた天井であったらしい。いわゆる天蓋付きというやつだ。
――こんな王侯貴族ばりの豪華なベッドを置ける屋敷が、俺の家でもある?
混乱する頭で、なにをどう考えたらいいのかと頭を悩ませかけたタイミングで、「ああ、すまない」と銀髪美人の声が割って入った。
「我とそなた、ではないな。我とエルディラントの仮住まいだったのだ」
説明する表情に、翳りが落ちた。
「あ、えっと……」
「先刻はすまなんだ。感情的になるあまり、心ない振る舞いをした」
「ああ、いや、俺のほうこそ……」
急にしおらしくなられると、こっちも反応に困る。なにより、愁いを帯びた様子に胸がチクリと痛んだ。その原因が、自分だからだ。
気まずさをおぼえながらも身を起こすと、銀髪美人は咄嗟に手を伸ばしかけ、あわてて引っこめた。だがすぐに、躰を預けやすいよう枕を腰にあてがってくれた。
「その、こっちこそさっきは大人気なかったっていうか、自分になにが起こってるかわからなかったもんで、つい取り乱したっていうか。だからまあ、お互いさま……的な?」
弁解がましいことをもごもごと言いながら相手の様子を伺うと、銀髪美人はわかっているというように頷いた。
「あ~、えっと、また意識飛んでたみたいだけど、今回も助けてもらったっていうか、ここまで運んでくれたのも、おたく、だよな? なんだっけ、あの、光の眷属?の力、とか言ってたっけ?」
「眷属の力というわけではないのだが……」
「え?」
「いや、なんでもない」
銀髪美人は力なく笑って、自分が連れてきたのだと肯定した。
「勝手なことをしたが、あんなふうに目の前で倒れられては、そのままにしておくこともできなかったのでな」
「悪い。面倒をかけた」
素直に謝罪すると、相手もまた、気にすることはないと穏やかに応じた。
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