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第1章
ここはどこ、私はだれ(3)
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「心配かけてすみませんでした。このとおり謝る。だから機嫌をなおして泣き止んでくれ」
「べつに機嫌を損ねてなどおらぬっ。ただ悲しかっただけだ」
「うん、そうだな。俺が悪かった」
「あんなに必死に、そなたを助けようと頑張ったのに」
「うんうん、そうだな。そのおかげで無事、こうしてなにごともなく目を覚ますことができました」
そのまえに俺がおたくを助けたっぽいけどね?
「そなたになにかあったらどうしようと、不安で心配で、胸が張り裂ける思いだったというのに」
「そうだな。不安にさせてすまなかった。なにもかも俺が悪い」
「生涯離れぬと、ともに誓い合ったであろう?」
「うん、そうだ。生涯ともにと、約束し……たぁ?」
ん? え? なになに?
「我とそなたは、互いに欠くことのできぬ大切な半身。そなたも、我なしでは生きてはいけぬと言うたではないか」
うん~?
えっ? ちょっ……んんん~~~?
「なのに目覚めてからこちら、ひどく他人行儀で態度もそっけない。なぜそんなふうに、見ず知らずの相手に対するような接しかたをするのだ。そなた、いまさら我との関係を、なかったことにするつもりなのか?」
「ちょっ、ま……っ」
潤んだ眼差しで躙り寄ってくる美人を、あたふたと押し戻した。
なんだこの展開。なんで俺、男に迫られてるんだ?
「ほらまた! なにゆえ我を邪険にするのだ」
「いや、邪険にはしてないです。してないけど、そうじゃなくて……」
「いつもならば、すぐに我を抱きしめて優しい言葉をかけてくれたであろう? 目を覚ましてからのそなたは、まるで見知らぬ者のようじゃ」
えええ? 迫られてるだけじゃなくて、能動的に抱きしめた? この美人を? 俺が?
いくら考えても心当たりがまったくない。
「え~と、その……、つかぬことを伺いますが、俺たちって、結構深い仲?」
訊いた途端に、あざやかな青い瞳が愕然と見開かれた。
「そなたまさか、我のことがわからぬというのか?」
「あ、ええと……、そのまさ、か? だったりし…て――」
「バカなっ!」
薔薇色の口唇から、悲鳴のような声が漏れ出た。
「戯れを申すな! この我を忘れただとっ!? たとえ天が落ち、地が割れたとしても、そのようなこと、あるわけがないではないか!」
「いやいや、天が落ちて地が割れるって、そんな大袈裟な」
「大袈裟などではない! 事実だ! そのようなこと、あるはずもないのだっ」
「いや、だから、そう言われましてもですね、げんに――」
「認めぬっ!」
銀髪美人は断固言い張った。
「ほかのだれを忘れたとして、そなたに我がわからぬはずがなかろうっ。もっとよう見るのじゃ、この美しい貌を!」
「この、うつくしい、かお……」
「我ほどの容姿を持つ者など、ほかにいるわけがないではないか! 我を超える者はむろん、我に匹敵する者さえなっ」
どや顔で豪語されて、思わずしみじみと目の前の顔を眺めてしまった。
「え……、それ、自分で言っちゃう?」
内心でツッコむつもりが、思わずポロッと口から零れてしまった。途端、陶磁器のようにすべらかな頬が、見る間に赤く染まっていった。
「そっ、そなたが言うたのではないかっっっ!!」
恥ずかしさのあまりか、裏返った声で反論しながらポカポカと胸を叩かれた。
あ、可愛い。
まだ全然状況が呑みこめてないし、なにやらこの美人とただならぬ関係にあったようなのだが、いまの自分ではどうあっても思い出すことができない。そもそも、いくら桁外れの超絶美人でも、男である。あるんだけれども、この反応は、そういうのを抜きにしてもふつうに可愛くないか?
「べつに機嫌を損ねてなどおらぬっ。ただ悲しかっただけだ」
「うん、そうだな。俺が悪かった」
「あんなに必死に、そなたを助けようと頑張ったのに」
「うんうん、そうだな。そのおかげで無事、こうしてなにごともなく目を覚ますことができました」
そのまえに俺がおたくを助けたっぽいけどね?
「そなたになにかあったらどうしようと、不安で心配で、胸が張り裂ける思いだったというのに」
「そうだな。不安にさせてすまなかった。なにもかも俺が悪い」
「生涯離れぬと、ともに誓い合ったであろう?」
「うん、そうだ。生涯ともにと、約束し……たぁ?」
ん? え? なになに?
「我とそなたは、互いに欠くことのできぬ大切な半身。そなたも、我なしでは生きてはいけぬと言うたではないか」
うん~?
えっ? ちょっ……んんん~~~?
「なのに目覚めてからこちら、ひどく他人行儀で態度もそっけない。なぜそんなふうに、見ず知らずの相手に対するような接しかたをするのだ。そなた、いまさら我との関係を、なかったことにするつもりなのか?」
「ちょっ、ま……っ」
潤んだ眼差しで躙り寄ってくる美人を、あたふたと押し戻した。
なんだこの展開。なんで俺、男に迫られてるんだ?
「ほらまた! なにゆえ我を邪険にするのだ」
「いや、邪険にはしてないです。してないけど、そうじゃなくて……」
「いつもならば、すぐに我を抱きしめて優しい言葉をかけてくれたであろう? 目を覚ましてからのそなたは、まるで見知らぬ者のようじゃ」
えええ? 迫られてるだけじゃなくて、能動的に抱きしめた? この美人を? 俺が?
いくら考えても心当たりがまったくない。
「え~と、その……、つかぬことを伺いますが、俺たちって、結構深い仲?」
訊いた途端に、あざやかな青い瞳が愕然と見開かれた。
「そなたまさか、我のことがわからぬというのか?」
「あ、ええと……、そのまさ、か? だったりし…て――」
「バカなっ!」
薔薇色の口唇から、悲鳴のような声が漏れ出た。
「戯れを申すな! この我を忘れただとっ!? たとえ天が落ち、地が割れたとしても、そのようなこと、あるわけがないではないか!」
「いやいや、天が落ちて地が割れるって、そんな大袈裟な」
「大袈裟などではない! 事実だ! そのようなこと、あるはずもないのだっ」
「いや、だから、そう言われましてもですね、げんに――」
「認めぬっ!」
銀髪美人は断固言い張った。
「ほかのだれを忘れたとして、そなたに我がわからぬはずがなかろうっ。もっとよう見るのじゃ、この美しい貌を!」
「この、うつくしい、かお……」
「我ほどの容姿を持つ者など、ほかにいるわけがないではないか! 我を超える者はむろん、我に匹敵する者さえなっ」
どや顔で豪語されて、思わずしみじみと目の前の顔を眺めてしまった。
「え……、それ、自分で言っちゃう?」
内心でツッコむつもりが、思わずポロッと口から零れてしまった。途端、陶磁器のようにすべらかな頬が、見る間に赤く染まっていった。
「そっ、そなたが言うたのではないかっっっ!!」
恥ずかしさのあまりか、裏返った声で反論しながらポカポカと胸を叩かれた。
あ、可愛い。
まだ全然状況が呑みこめてないし、なにやらこの美人とただならぬ関係にあったようなのだが、いまの自分ではどうあっても思い出すことができない。そもそも、いくら桁外れの超絶美人でも、男である。あるんだけれども、この反応は、そういうのを抜きにしてもふつうに可愛くないか?
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