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4章 ~エアリー視点~
しおりを挟む「あの……レイ?」
「どうしましたか」
隣でレイは首を傾げています。
「どうにかならないものかしら」
私はレイに一言物申したい。
「諦めてください。空いている部屋がここしかなかったんですから」
レイは鼻を布で押さえたまま言いました。
小さな集落で宿を見つけたものの、すでに満室だと断られてしまいました。レイがしつこく交渉し、長年使われていなかった宴会場を貸してもらえることになりました。しかし私は後悔しています。あまりの黴臭さに鼻がもげそうだからです。
「レイたちは普段こんなところで生活しているの?」
「いえいえ、平民でももっとまともな家に住んでますよ」
レイは呆れたように言いました。少し安心しました。これが普通ではないようです。
「少しは眠ったらどうですか。俺が寝ずの番をしてますから」
レイが気を遣ってくれました。でも、それならもう少し考えて欲しいところです。
「私なら大丈夫です」
「そうは言っても、城ではとっくに寝てる時間じゃないですか」
まったく。
「気の利かない人ですね。一緒に寝るのはいかがなものかという話です。私はもうすぐロイス王子と結婚する身ですよ」
「あ、すみません!」
レイは慌てて立ち上がり部屋の隅まで行きました。
「ずっとここに立ってます!」
「そこまでは言ってないんですけど……」
壁に張り付くように立っているレイがどこか滑稽でした。ところが、壁に顔を付けたままのレイは険しい顔に変わっていきました。
「ん? この音は……」
レイが真剣な表情をしています。
「音ですか、何も聞こえてきませんが」
私の耳には特に変わった音は入ってきません。静かな夜です。
「遠くから蹄の音が聞こえる気がします。それも段々近付いてくるような……」
レイがそう言ったのでより一層耳を澄ましてみると、何かの音が次第に大きくなっているのがようやく分かりました。
「確かにこの集落へ何者かが近付いてきているようですね」
「この時間帯に馬を走らせているなら可能性はひとつです」
「いったい誰でしょうか」
「デニスミール王国の追手でしょう。狙いはもちろんエアリー王女」
レイは腕を組んだまま淡々と言いました。
「まさか、いくらなんでも早すぎます! どうしてここが分かったのでしょう……」
「どちらにしろ、このままじっとしていたら捕まるだけです」
レイが装備を身に着け始めました。
「俺が相手をしている間に逃げてください。さっきまで背中に乗っていたから馬も少しは言う事を聞いてくれるはずです」
「一人でどうにかできるとは限らないでしょう。二人でこの場をしのぐ方法を考えるほうが……」
ここまで追ってきた者が並みの兵士であるはずがありません。
「まあ頑張りますよ」
私の顔を見ずに呟いてレイは部屋から出ていってしまいました。
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