5 / 7
5章
しおりを挟む反抗の意志を示さないように注意しながら一週間をすごしました。もっとも、部屋から出て散歩でもしようものなら、
「おうじょさま、おねがいですからへやにいてください!」
なんてメッシちゃんが泣きそうな顔で言ってくるので、部屋で大人しくしていました。
一週間後の夜、私はそわそわしていました。メッシちゃんが部屋まで持ってきた夕食は喉が通らず、半分くらい残してしまいました。
「ごめんねメッシちゃん、残してしまって」
「いえいえ、おきになさらないでください。それよりもどこかおからだにわるいところなどございませんか」
メッシちゃんが心配そうに聞いてきます。
「大丈夫よ。メッシちゃんは優しいのね。ちょっと疲れちゃったみたい。しばらくひとりにさせて」
クライスがやってくるのに、メッシちゃんがうろうろしていては大変です。
「かしこまりました、おだいじに……」
とぼとぼと部屋を出ていくメッシちゃんの後ろ姿に違和感を覚えましたが、頭の中はすぐにクライスのことに切り替わりました。
数分後、部屋のドアをノックする音が聞こえてきました。私はドアに駆け寄りました。たった一週間会わなかっただけなのに、もう彼のことが恋しくなっています。勢いよくドアを開けると、そこにクライスはいませんでした。
「おやセシル、満面の笑みを浮かべてどうしたのかな」
ドアの前にはベイル王子が立っていました。
「ええと、何かございましたか」
なるべく平静を装ったつもりですが、表情がうまく作れません。
「いやあ、セシルの面倒を見させている召使が気になることを報告しに来てくれてね。夕食にはほとんど手をつけず、心ここにあらずという雰囲気だったと」
紳士的に語りかけてくるベイル王子がかえって不気味です。
「妻の様子がおかしいと聞いて、大人しくしていたら夫失格です。急いで顔を見に来たというわけです」
「それはどうもありがとうございます。でも……」
「でも来てほしかったのは別の人だったのに、ですか?」
「え」
まずい。動揺が態度に出てしまいました。ちょっと考えたら、ベイル王子がクライスとの接触に勘付いているのかはまだわからないのに。
「セシル、俺は悲しいよ。何か隠しているんだな」
「いえ、決してそんなことは」
「まあいい。ちょっと外の景色を見に行かないか。我が城自慢の屋上庭園だ。少しは気も紛れるだろう」
有無を言わさぬ雰囲気がありました。ここで断ったら何をされるのか分かりません。
「では少しだけ時間をください。少し冷えるだろうから、羽織るものを用意しますので」
「分かった。部屋の前で待っている」
ベイル王子が後ずさり、私はドアを閉めました。力が抜け、その場にへたり込んでしまいました。これからクライスがこの部屋にやってくる。何か伝言を残しておかないと。私は机に傷を付け、クライスへのメッセージを書き残しました。その後クローゼットから毛皮を取り出して再び部屋を出ました。
「おまたせしました、参りましょう」
ベイル王子はメッシちゃんと何やら話していましたが、私の呼びかけに気付くと途端に話を止めました。
「では行きましょうか」
私はベイル王子の後ろをついていきました。メッシちゃんが申し訳なさそうにして私の部屋に入っていくのを横目で捉えました。クライスへのメッセージが見つからないように祈りながら私は歩みを進めました。
1
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
辺境伯は王女から婚約破棄される
高坂ナツキ
恋愛
「ハリス・ワイマール、貴男との婚約をここに破棄いたしますわ」
会場中にラライザ王国第一王女であるエリス・ラライザの宣言が響く。
王宮の大ホールで行われている高等学校の卒業記念パーティーには高等学校の卒業生やその婚約者、あるいは既に在学中に婚姻を済ませている伴侶が集まっていた。
彼らの大半はこれから領地に戻ったり王宮に仕官する見習いのために爵位を継いではいない状態、つまりは親の癪の優劣以外にはまだ地位の上下が明確にはなっていないものばかりだ。
だからこそ、第一王女という絶大な権力を有するエリスを止められるものはいなかった。
婚約破棄の宣言から始まる物語。
ただし、婚約の破棄を宣言したのは王子ではなく王女。
辺境伯領の田舎者とは結婚したくないと相手を罵る。
だが、辺境伯側にも言い分はあって……。
男性側からの婚約破棄物はよく目にするが、女性側からのはあまり見ない。
それだけを原動力にした作品。
【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。
華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。
王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。
王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
復讐の始まり、または終わり
月食ぱんな
恋愛
婚約破棄したのち、国外追放された両親から産まれたルシア・フォレスター。その身を隠し、まるで流浪の民のような生活を送る中、両親が母国に戻る事に。そのせいで人と関わる事のなかったルシアは、善と悪の心を学ぶフェアリーテイル魔法学校に入学する羽目になる。
そんなルシアが目指すのは、世界が震える悪役になること。そして両親を追放した王国に復讐を果たすことだ。しかしルシアは魔法学校に向かう道中、復讐相手の一人。自分の両親を国外追放した者を親に持つ、ルーカスに出会ってしまう……。友達、恋、そして抗う事の許されない運命に立ち向かう、悪役を目指す女の子の物語です。なろう様で先行連載中です。
【完結】呪いのせいで無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになりました。
里海慧
恋愛
わたくしが愛してやまない婚約者ライオネル様は、どうやらわたくしを嫌っているようだ。
でもそんなクールなライオネル様も素敵ですわ——!!
超前向きすぎる伯爵令嬢ハーミリアには、ハイスペイケメンの婚約者ライオネルがいる。
しかしライオネルはいつもハーミリアにはそっけなく冷たい態度だった。
ところがある日、突然ハーミリアの歯が強烈に痛み口も聞けなくなってしまった。
いつもなら一方的に話しかけるのに、無言のまま過ごしていると婚約者の様子がおかしくなり——?
明るく楽しいラブコメ風です!
頭を空っぽにして、ゆるい感じで読んでいただけると嬉しいです★
※激甘注意 お砂糖吐きたい人だけ呼んでください。
※2022.12.13 女性向けHOTランキング1位になりました!!
みなさまの応援のおかげです。本当にありがとうございます(*´꒳`*)
※タイトル変更しました。
旧タイトル『歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件』
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる