小国の王女は野蛮な大国の王子との婚約で国を救う

おぜいくと

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3章

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灰色の濃霧に包まれた城が見えてきました。大国メルガルドは軍事産業の発展がめざましく、その生産能力で他国を圧倒しています。

「いかがですかな、我が国の景色は。壮観だとは思いませんか」
 
ベイル王子はもくもくと煙を吐き出す軍事施設を眺めてうっとりしています。私には理解できません。

「これほどの施設を作り上げるのには、途方もない苦労があったものだと感じます」
 
精いっぱいの皮肉を込めました。

「ええ。我が国が一丸となり、ひとつの目標に向かって突き進んだ結果です」

ベイル王子は胸を張って答えていますが、ここに来る途中で見た情景が私の胸をちくちく刺します。街の外れに壁がヒビだらけの民家が立ち並び、ボロボロの布切れをまとった子どもが走り回っていました。道端で寝転んでいるお年寄りもいました。国の発展と引き換えに、一部の住民たちの生活は貧しいものとなっていました。

「さあ、ここがセシルの部屋です。何かあったら隣にいる召使に言ってください。すぐさま対応しますので」

メルガルド城の東棟に案内され、小さな部屋に押し込まれました。ベイル王子はそそくさと出ていきました。ベッド、クローゼット、小さな机と椅子があります。それ以外には何もありません。

「おうじょさま、どうぞなんなりとおっしゃってください」

私とともに部屋へ残された目の前の小さな男の子がたどたどしく言いました。

「これからよろしくね。あなたのお名前は?」

「めしつかいです!」

男の子げ元気よく答えました。

「それはあなたのお仕事でしょう」

「でも、めしつかいとしかよばれたことありません」

悲しそうに男の子が言うので、私まで悲しくなってきました。

「うーん、そうなの……そうしたらメッシちゃんって名前はどうかしら」

「じゃあぼくはこれからメッシちゃんになります!」

ちゃんは名前じゃないのだけど、嬉しそうにしているメッシちゃんを見ているとどうでもよくなりました。

「えっと、メッシちゃんにさっそくお願いがあります」

「どうしましたか!」

メッシちゃんはきりっとした顔に変わりました。

「この城の中で、ベイル王子と仲の悪い人はいるかしら」
 
まずは反ベイル派に接触しないと。

「いません。そんなことをしたら、ろうやにとじこめられるか、メルガルドからついほうされてしまいます」

メッシちゃんは体をぶるぶると震わせながら言いました。

「やっぱりそうよね……」

ベイル王子のことだから、反乱分子を身近に置いたりはしないようです。

「でも、しろのそとにはいます。なんどもしろにはいりこんで、せつびをこわしたりおたからをぬすんだりするひとたちが。おたからはもともとベイルおうじがうばってきたものだから、とりかえしているつもりみたいですが」

義賊のような存在がいるようです。

「どうにかして彼らに会えないかしら」

「あいたくなくてもそのうちにやってくるとおもいます。よるはきをつけてくださいね」


私はメッシちゃんの忠告を守らず、夜は寝ずに義賊が城へ侵入してくるのを待ちわびていました。


そして数日後、遠くで何かが割れる音がしました。私はこっそり部屋を抜け出しました。廊下を歩いていると、曲がり角のほうから足音が聞こえてきて私は立ち止まりました。顔に布を巻き付けた人物が角を曲がってきました。その人物は私を見つめたまま動かなくなりました。

「あ、えっと……」

私はどうしていいか分からず声が漏れました。いざ義賊に出くわすと体が動きません。

「君はまさか……」

おそらく目の前の人物から発せられた声に聞き覚えがありました。その人物はゆっくりと近付いてきて顔の布を外しました。

「クライスなの……?」

大人びてはいるものの、面影は当時のままのクライスがそこにいました。

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