3 / 6
第3話
しおりを挟むそれ以来、私はサナエの行動を見張るようになった。
とは言っても、常に尾行しているわけにはいかない。私がうろうろしていたら、使用人が気付いて何かお困りですかと声を掛けてくる。細やかな気遣いが出来る者たちなのだ。その仕事に対する熱心さがかえって厄介で、尾行を難しくしている。
また、サナエを追い出すための具体的な方法を見つけられていない事も悩みの種だ。何かしらの悪事を働いている証拠を押さえて突き出せば処分されるとは思うが、サナエが不正をしているという根拠は今のところない。
「どうしたものかしら……」
私は資料室の本棚に隠れながらサナエの様子をうかがっている。サナエはあちこちの本棚から本を抜き取り、机の上に並べていた。軍事関係の本が多い。おそらくマグナから資料を探すように言われたのだろう。
「このくらいで良さそうね。さてと、運ぶの手伝ってくれない?」
サナエは別の使用人の男を呼び寄せると、抜き取った本を全て預けた。男に体を密着させてテーブルから離れていく。男はまんざらでもない表情で積み重なった本を抱えて歩いていた。
しょうもない男だなと心の中で毒づきながらサナエがいた本棚へ近付いた。歯抜けになっている棚から何か読み取れないかと考えてみる。けれど私は軍事関係についてはさっぱりわからない。
「セシル様、軍事の勉強でございますか」
まずい、誰かに見つかってしまった。慌てて声のした方を向くと、本を抱えたドニが立っていた。
「え、ええ、ちょっと勉強しようと思ったの。深い意味は無いのよ」
私はその場を取り繕うと必死になる。
「ドニも勉強しようと思って来たの?」
相手に話題を振ってこの場を乗り切ろうと考えた。
「勉強というほどの事ではありません。これまで実践で学んできた戦いというものが文章ではどのように表現されているのか興味を持ちましてね」
「当時を懐かしむだけの老人のささやかな楽しみです」
ドニは穏やかに言った。私は内心驚いていた。まさかドニが自分からこんなに話すなんて。
「そう、それは何よりだわ……あ、そうだ」
ある考えが頭の中にふわりと浮かんだ。
「この本棚で抜き取られている本がどんな内容なのか分かるかしら?」
ドニなら詳しく説明してくれるのではないかと思った。しかし、私の考えは脆くも崩れ去る。
「すみません、分かりません」
ドニがすまなそうに言う。
「何度もこの資料室に来てはいますが、収められている本を全て把握しているわけではありません。司書の方に聞くのが適切かと思われます」
ごもっともな意見を言われて困ってしまう。司書に尋ねれば解決するけれど、私がサナエの行動を監視していると人づてに話が回ってしまったら大変だ。ではドニならいいのかと心の中で訴える自分がいる。確証はないけれど、ドニは言いふらさないような気がした。
「私はドニに教えて欲しいの。小さな事でもいいから気付いた事はないかしら」
「そうですね……強いて言えば……」
ドニはゆっくりと話し出した。
「この本棚では同じようなテーマの本が並んでいます。強硬的な政策によって国を強くし、隣国への圧力をかけるような思想です。現在のレビニア王国の方針と同じく」
ド二の語尾に妙な違和感を覚えた。不快感をあらわにしている。
「ドニは納得していないのね」
「一介の使用人に国の方策をどうこう言う資格はありませんよ」
ドニは微笑んでいた。明らかに皮肉を言っている。
「あなたの本心を知りたいわ」
「先ほどの話は嘘ではありませんよ。ただ、私はメイリーン様に仕える者だと考えて生きています。これまでも、これからも」
ドニはまっすぐ私の目を見て言った。私は確信した。ドニなら協力してくれる。
「ドニに頼みたい事がある。メイリーン様の想いを引き継ぐために」
私はドニに囁いた。
「……詳しく話を聞かせてください」
ドニは真剣な表情で答えた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます
柚木ゆず
恋愛
ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。
わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?
当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。
でも。
今は、捨てられてよかったと思っています。
だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。
みゅー
恋愛
王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。
いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。
聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。
王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。
ちょっと切ないお話です。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
婚約破棄のお返しはお礼の手紙で
ルー
恋愛
十五歳の時から婚約していた婚約者の隣国の王子パトリクスに謂れのない罪で突然婚約破棄されてしまったレイナ(侯爵令嬢)は後日国に戻った後パトリクスにあててえ手紙を書く。
その手紙を読んだ王子は酷く後悔することになる。
大嫌いなアイツが媚薬を盛られたらしいので、不本意ながらカラダを張って救けてあげます
スケキヨ
恋愛
媚薬を盛られたミアを救けてくれたのは学生時代からのライバルで公爵家の次男坊・リアムだった。ほっとしたのも束の間、なんと今度はリアムのほうが異国の王女に媚薬を盛られて絶体絶命!?
「弟を救けてやってくれないか?」――リアムの兄の策略で、発情したリアムと同じ部屋に閉じ込められてしまったミア。気が付くと、頬を上気させ目元を潤ませたリアムの顔がすぐそばにあって……!!
『媚薬を盛られた私をいろんな意味で救けてくれたのは、大嫌いなアイツでした』という作品の続編になります。前作は読んでいなくてもそんなに支障ありませんので、気楽にご覧ください。
・R18描写のある話には※を付けています。
・別サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる