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第3話

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それ以来、私はサナエの行動を見張るようになった。

とは言っても、常に尾行しているわけにはいかない。私がうろうろしていたら、使用人が気付いて何かお困りですかと声を掛けてくる。細やかな気遣いが出来る者たちなのだ。その仕事に対する熱心さがかえって厄介で、尾行を難しくしている。

また、サナエを追い出すための具体的な方法を見つけられていない事も悩みの種だ。何かしらの悪事を働いている証拠を押さえて突き出せば処分されるとは思うが、サナエが不正をしているという根拠は今のところない。

「どうしたものかしら……」

私は資料室の本棚に隠れながらサナエの様子をうかがっている。サナエはあちこちの本棚から本を抜き取り、机の上に並べていた。軍事関係の本が多い。おそらくマグナから資料を探すように言われたのだろう。

「このくらいで良さそうね。さてと、運ぶの手伝ってくれない?」

サナエは別の使用人の男を呼び寄せると、抜き取った本を全て預けた。男に体を密着させてテーブルから離れていく。男はまんざらでもない表情で積み重なった本を抱えて歩いていた。

しょうもない男だなと心の中で毒づきながらサナエがいた本棚へ近付いた。歯抜けになっている棚から何か読み取れないかと考えてみる。けれど私は軍事関係についてはさっぱりわからない。

「セシル様、軍事の勉強でございますか」

まずい、誰かに見つかってしまった。慌てて声のした方を向くと、本を抱えたドニが立っていた。

「え、ええ、ちょっと勉強しようと思ったの。深い意味は無いのよ」

私はその場を取り繕うと必死になる。

「ドニも勉強しようと思って来たの?」

相手に話題を振ってこの場を乗り切ろうと考えた。

「勉強というほどの事ではありません。これまで実践で学んできた戦いというものが文章ではどのように表現されているのか興味を持ちましてね」

「当時を懐かしむだけの老人のささやかな楽しみです」

ドニは穏やかに言った。私は内心驚いていた。まさかドニが自分からこんなに話すなんて。

「そう、それは何よりだわ……あ、そうだ」

ある考えが頭の中にふわりと浮かんだ。

「この本棚で抜き取られている本がどんな内容なのか分かるかしら?」

ドニなら詳しく説明してくれるのではないかと思った。しかし、私の考えは脆くも崩れ去る。

「すみません、分かりません」

ドニがすまなそうに言う。

「何度もこの資料室に来てはいますが、収められている本を全て把握しているわけではありません。司書の方に聞くのが適切かと思われます」

ごもっともな意見を言われて困ってしまう。司書に尋ねれば解決するけれど、私がサナエの行動を監視していると人づてに話が回ってしまったら大変だ。ではドニならいいのかと心の中で訴える自分がいる。確証はないけれど、ドニは言いふらさないような気がした。

「私はドニに教えて欲しいの。小さな事でもいいから気付いた事はないかしら」

「そうですね……強いて言えば……」

ドニはゆっくりと話し出した。

「この本棚では同じようなテーマの本が並んでいます。強硬的な政策によって国を強くし、隣国への圧力をかけるような思想です。現在のレビニア王国の方針と同じく」

ド二の語尾に妙な違和感を覚えた。不快感をあらわにしている。

「ドニは納得していないのね」

「一介の使用人に国の方策をどうこう言う資格はありませんよ」

ドニは微笑んでいた。明らかに皮肉を言っている。

「あなたの本心を知りたいわ」

「先ほどの話は嘘ではありませんよ。ただ、私はメイリーン様に仕える者だと考えて生きています。これまでも、これからも」

ドニはまっすぐ私の目を見て言った。私は確信した。ドニなら協力してくれる。

「ドニに頼みたい事がある。メイリーン様の想いを引き継ぐために」

私はドニに囁いた。

「……詳しく話を聞かせてください」

ドニは真剣な表情で答えた。
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