74 / 77
〈空が繋いだ奇跡〉後編
しおりを挟む
2004年11月15日……
ピンポーン
いつもの様に迎えに来た篠田さんが、私が玄関のドアを開けるなり言った。
「高田さん、今日は誕生日おめでとうございます! 今日は高田さんの誕生日会がありますからね~ケーキのデザインも私が考えたんです! 偶然今月の誕生日会係で本当によかった」
デイサービスで皆にお祝いしてもらい、一人ぼっちで迎えるはずだった私の誕生日は賑やかな誕生日になった。
帰りの送迎も、いつもの様に篠田さんで……
「今日は本当におめでとうございます! これ……みんなには内緒の誕生日プレゼントです! 高田さんと奥様の話を聞いて作った歌なんですけど……」
渡されたカセットテープには『散歩道』という題名が書かれていた。
そして「うちが最後の送迎なら……」と家に誘って、一緒にその曲を聞いた。
~~~~~~~~~~
1、
いつも歌ってる 車イスのおばあさん
いつも照れている 幸せそうなおじいさん
何年時が経っても消えないものがある
シワシワの手は 働き者の証拠なの
ふたりで歩いてく この道はこれからも
遠くて短い 君が大好きな散歩道
2、
いつも笑ってる シワだらけのおじいさん
いつも眠ってる 幸せそうなおばあさん
忘れてしまっていても消えないものがある
シワシワの目は 幸せでいる証拠なの
ふたりで見る景色 高さだけ違うけど
ゆっくり進もう 君の大好きな散歩道
3、
いつも歌ってた 調子はずれおじいさん
いつも聞いていた 歌が大好きなおばあさん
見えなくなったとしても消えないものがある
笑うその目は 何度涙流したの?
ふたりでいる景色 永遠じゃないけれど
どこまでも歩こう 君の大好きな散歩道
かけがえのない散歩道
~~~~~~~~~~
私は歌を聞いている間、妻との思い出が走馬灯のように浮かび……思わず目頭が熱くなった。
聞きながら妻との昔話を思い出し……遺影の中の妻が微笑んでいる気がした。
「ありがとう、篠田さん……私達には子供がいなかったから君のことを孫の……いや娘のように思っていたが…………この歌こそ、まるで私達の子供のようだ」
「こちらこそありがとうございます……この歌は、高田さん夫妻のお話を聞かなければ最後まで作れませんでした……それに作りながら初めて作った『空を見上げて』って曲をなぜか思い出して……初心を忘れず色々頑張ろうって思えました」
「『空を見上げて』?」
「高校の時に初めて作った曲で、応募してみたら優秀賞を貰ったりしたんですけど……実はその曲ができたのは、ある絵を見て感動したからなんです! 私、中高一貫の女子校に通ってて高校に入学する前に高校の見学会があったんですけど、玄関に素敵な絵が飾ってあって思わず見とれてしまって……」
「へえ~どんな絵なんだい?」
「沢山の色んな種類の鳥達が空の太陽に向かって飛び立っている絵なんですけど、その中に一匹だけツバメがいるんです! 一番先頭の一番高い所に……」
「そ、れは……」
私は言葉を失った。
彼女が言っている絵は……
「入学してからもその絵が大好きで、その絵の前で文化祭ライブの曲の相談してたら『翼になりたい』を私も歌うことになって……恥ずかしかったけど聞いてた人が泣いてくれて……本当に嬉しかったです」
「あの……君が行っていた高校ってもしかして……」
奇跡だと思った。
結局私は、その絵は私が描いたものだと言わなかったが……
そして私は昔、「僕の絵にはヒロみたいに人を感動させる力なんてない」と言った後のヒロの言葉を思い出した。
「大丈夫、お前は大丈夫だ!」
そして『未来を生きる君へ』の最後の文を思い出し……自分から投げ出さずに最後まで生きてみようと思った。
「今日は本当にありがとう……『空を見上げて』って曲、来年の誕生日に聞かせてもらえるかな?」
それを聞いた彼女は、妻に似た本当に嬉しそうな笑顔で頷いた。
その日の夜、私は布団の中で呟いた。
「そうだ……今度のあの子の誕生日に星の髪飾りをあげよう……幸せに生きていけるように、いつか困った時の道標となるように、いつかあの子を守ってくれるように、精一杯の願いを込めて……」
そして私は決意した。
ヒロに頼まれたけれど果たせていない約束を、純子の誕生日であるその日に実行しようと……
ピンポーン
いつもの様に迎えに来た篠田さんが、私が玄関のドアを開けるなり言った。
「高田さん、今日は誕生日おめでとうございます! 今日は高田さんの誕生日会がありますからね~ケーキのデザインも私が考えたんです! 偶然今月の誕生日会係で本当によかった」
デイサービスで皆にお祝いしてもらい、一人ぼっちで迎えるはずだった私の誕生日は賑やかな誕生日になった。
帰りの送迎も、いつもの様に篠田さんで……
「今日は本当におめでとうございます! これ……みんなには内緒の誕生日プレゼントです! 高田さんと奥様の話を聞いて作った歌なんですけど……」
渡されたカセットテープには『散歩道』という題名が書かれていた。
そして「うちが最後の送迎なら……」と家に誘って、一緒にその曲を聞いた。
~~~~~~~~~~
1、
いつも歌ってる 車イスのおばあさん
いつも照れている 幸せそうなおじいさん
何年時が経っても消えないものがある
シワシワの手は 働き者の証拠なの
ふたりで歩いてく この道はこれからも
遠くて短い 君が大好きな散歩道
2、
いつも笑ってる シワだらけのおじいさん
いつも眠ってる 幸せそうなおばあさん
忘れてしまっていても消えないものがある
シワシワの目は 幸せでいる証拠なの
ふたりで見る景色 高さだけ違うけど
ゆっくり進もう 君の大好きな散歩道
3、
いつも歌ってた 調子はずれおじいさん
いつも聞いていた 歌が大好きなおばあさん
見えなくなったとしても消えないものがある
笑うその目は 何度涙流したの?
ふたりでいる景色 永遠じゃないけれど
どこまでも歩こう 君の大好きな散歩道
かけがえのない散歩道
~~~~~~~~~~
私は歌を聞いている間、妻との思い出が走馬灯のように浮かび……思わず目頭が熱くなった。
聞きながら妻との昔話を思い出し……遺影の中の妻が微笑んでいる気がした。
「ありがとう、篠田さん……私達には子供がいなかったから君のことを孫の……いや娘のように思っていたが…………この歌こそ、まるで私達の子供のようだ」
「こちらこそありがとうございます……この歌は、高田さん夫妻のお話を聞かなければ最後まで作れませんでした……それに作りながら初めて作った『空を見上げて』って曲をなぜか思い出して……初心を忘れず色々頑張ろうって思えました」
「『空を見上げて』?」
「高校の時に初めて作った曲で、応募してみたら優秀賞を貰ったりしたんですけど……実はその曲ができたのは、ある絵を見て感動したからなんです! 私、中高一貫の女子校に通ってて高校に入学する前に高校の見学会があったんですけど、玄関に素敵な絵が飾ってあって思わず見とれてしまって……」
「へえ~どんな絵なんだい?」
「沢山の色んな種類の鳥達が空の太陽に向かって飛び立っている絵なんですけど、その中に一匹だけツバメがいるんです! 一番先頭の一番高い所に……」
「そ、れは……」
私は言葉を失った。
彼女が言っている絵は……
「入学してからもその絵が大好きで、その絵の前で文化祭ライブの曲の相談してたら『翼になりたい』を私も歌うことになって……恥ずかしかったけど聞いてた人が泣いてくれて……本当に嬉しかったです」
「あの……君が行っていた高校ってもしかして……」
奇跡だと思った。
結局私は、その絵は私が描いたものだと言わなかったが……
そして私は昔、「僕の絵にはヒロみたいに人を感動させる力なんてない」と言った後のヒロの言葉を思い出した。
「大丈夫、お前は大丈夫だ!」
そして『未来を生きる君へ』の最後の文を思い出し……自分から投げ出さずに最後まで生きてみようと思った。
「今日は本当にありがとう……『空を見上げて』って曲、来年の誕生日に聞かせてもらえるかな?」
それを聞いた彼女は、妻に似た本当に嬉しそうな笑顔で頷いた。
その日の夜、私は布団の中で呟いた。
「そうだ……今度のあの子の誕生日に星の髪飾りをあげよう……幸せに生きていけるように、いつか困った時の道標となるように、いつかあの子を守ってくれるように、精一杯の願いを込めて……」
そして私は決意した。
ヒロに頼まれたけれど果たせていない約束を、純子の誕生日であるその日に実行しようと……
2
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる