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〈空が繋いだ奇跡〉前編
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※この話は特に『最後の日記』の小説と繋がりが深い内容になっています
2004年1月7日……
1年前の誕生日の日に亡くなった妻との「同じ日に死ぬ」という昔の約束通り、私は今日で全てを終わらせようと思っていた。
そして朝起きて、渡せなかった日記を見た途端……急に虚しくなった。
「おめでとうと伝えたい君は、もうこの世にいない! 新しい日記は真っ白なまま! 君との約束通り、今日死のう……こんなもの…………もういらない!!」
日記をゴミ箱に叩きつけて捨てようとした時だった。
ピンポーン
「おはようございま~す、デイサービスの篠田です! お迎えにあがりました~」
私は返事をした後、ふと思い立ち……日記を紙袋に入れて、同じ誕生日である篠田さんに渡すことにした。
「誕生日おめでとう……これを貰ってくれないか?」
そして私は帰りがけ、11月15日に彼女から誕生日プレゼントを受け取るという、新たな未来の約束をしてしまった。
「誕生日プレゼント……か……」
8月16日……ヒロの命日で終戦日の次の日……
デイサービスに行くと、夏祭りの行事の日とのことで色々な企画があって本当に楽しかったが……
祭りの最後に篠田さんが、「皆さん中々行けないと思いますので、近くの花火大会を撮ってきました~」と花火のビデオをテレビで流した。
ヒューーーードゥオーーーン
シャーーーシャーーー
私はその音を聞いた瞬間、動悸がして東京大空襲のトラウマが蘇り……「花火は嫌いだ、戦争を思い出すから」とデイルームをそっと退出した。
我ながら情けないが、これ以上あの部屋にいると耳を塞いで叫んでしまいそうだった。
すると篠田さんが「大丈夫ですか!?」と心配して、すぐに駆け寄ってきてくれた。
その時デイルームから、ある音声が流れた。
「続いてはメッセージ花火です!……『大好きなおじいちゃんへ……いつも空から見守ってくれてありがとう。お盆だから感謝の気持ちを込めて花火を送ります。本当は一緒に見たかったけど、お空から見えるといいな』……」
私は不思議とその言葉を聞いて久し振りに花火が見たくなり……デイルームに戻って何十年振りかの花火を見た。
「何だコレ…………キレイだ…………本当に……キレイ……」
沢山の恐ろしくて悲しい思い出が、一瞬にして新しく塗り替えられていく気がした。
帰りに送ってくれる篠田さんの軽自動車に乗り込むと……彼女は涙声で言った。
「高田さん、今日は花火なんて流して本当にすみませんでした! 前に高田さんが『花火は見に行けないから』って寂しそうに言ってたの……足が悪くて見に行けないからじゃなくて、つらいから見られないって意味だったのに……『みんなでキレイな花火見ましょう』とか言っちゃって……私、何にも分かっていなかった……」
「いいや……キレイなものを見てキレイだと素直に言える事は、とても素晴らしいことだよ? それに本当に今日は嬉しかった……ああ、僕達が願っていた幸せな時代になったんだな~と思えてね……」
「そんな…………今日テレビでやってた終戦日追悼式のニュースの空襲の音を聞いて気付きました……花火の音とそっくりで、なんて残酷な音なんだろうって…………私のせいでトラウマを思い出させてしまってすみませんでした!」
「いいや……寧ろ今日は久し振りに花火が見られてよかったよ……それに君のおかげで色々思い出した……花火には元々『鎮魂』の願いが込められているんだ……それと……」
「それと何ですか?」
「実は僕は昔、特攻隊員でね……仲間達は本の暗号に想いを託したり、今まで隠していた思いを打ち明けたり、僕達の幸せを願いながら旅立ってしまったけれど……君のおかげで思い出したんだ……訓練していた基地が花火大会で有名な場所の近くで、いつか一緒に見たいなと思っていたこと…………今日は何だか同期の仲間と一緒に見られた気がしたよ、ありがとう」
「こちらこそ……ありがとうございます」
篠田さんは涙を拭いて車を発進させた。
2004年1月7日……
1年前の誕生日の日に亡くなった妻との「同じ日に死ぬ」という昔の約束通り、私は今日で全てを終わらせようと思っていた。
そして朝起きて、渡せなかった日記を見た途端……急に虚しくなった。
「おめでとうと伝えたい君は、もうこの世にいない! 新しい日記は真っ白なまま! 君との約束通り、今日死のう……こんなもの…………もういらない!!」
日記をゴミ箱に叩きつけて捨てようとした時だった。
ピンポーン
「おはようございま~す、デイサービスの篠田です! お迎えにあがりました~」
私は返事をした後、ふと思い立ち……日記を紙袋に入れて、同じ誕生日である篠田さんに渡すことにした。
「誕生日おめでとう……これを貰ってくれないか?」
そして私は帰りがけ、11月15日に彼女から誕生日プレゼントを受け取るという、新たな未来の約束をしてしまった。
「誕生日プレゼント……か……」
8月16日……ヒロの命日で終戦日の次の日……
デイサービスに行くと、夏祭りの行事の日とのことで色々な企画があって本当に楽しかったが……
祭りの最後に篠田さんが、「皆さん中々行けないと思いますので、近くの花火大会を撮ってきました~」と花火のビデオをテレビで流した。
ヒューーーードゥオーーーン
シャーーーシャーーー
私はその音を聞いた瞬間、動悸がして東京大空襲のトラウマが蘇り……「花火は嫌いだ、戦争を思い出すから」とデイルームをそっと退出した。
我ながら情けないが、これ以上あの部屋にいると耳を塞いで叫んでしまいそうだった。
すると篠田さんが「大丈夫ですか!?」と心配して、すぐに駆け寄ってきてくれた。
その時デイルームから、ある音声が流れた。
「続いてはメッセージ花火です!……『大好きなおじいちゃんへ……いつも空から見守ってくれてありがとう。お盆だから感謝の気持ちを込めて花火を送ります。本当は一緒に見たかったけど、お空から見えるといいな』……」
私は不思議とその言葉を聞いて久し振りに花火が見たくなり……デイルームに戻って何十年振りかの花火を見た。
「何だコレ…………キレイだ…………本当に……キレイ……」
沢山の恐ろしくて悲しい思い出が、一瞬にして新しく塗り替えられていく気がした。
帰りに送ってくれる篠田さんの軽自動車に乗り込むと……彼女は涙声で言った。
「高田さん、今日は花火なんて流して本当にすみませんでした! 前に高田さんが『花火は見に行けないから』って寂しそうに言ってたの……足が悪くて見に行けないからじゃなくて、つらいから見られないって意味だったのに……『みんなでキレイな花火見ましょう』とか言っちゃって……私、何にも分かっていなかった……」
「いいや……キレイなものを見てキレイだと素直に言える事は、とても素晴らしいことだよ? それに本当に今日は嬉しかった……ああ、僕達が願っていた幸せな時代になったんだな~と思えてね……」
「そんな…………今日テレビでやってた終戦日追悼式のニュースの空襲の音を聞いて気付きました……花火の音とそっくりで、なんて残酷な音なんだろうって…………私のせいでトラウマを思い出させてしまってすみませんでした!」
「いいや……寧ろ今日は久し振りに花火が見られてよかったよ……それに君のおかげで色々思い出した……花火には元々『鎮魂』の願いが込められているんだ……それと……」
「それと何ですか?」
「実は僕は昔、特攻隊員でね……仲間達は本の暗号に想いを託したり、今まで隠していた思いを打ち明けたり、僕達の幸せを願いながら旅立ってしまったけれど……君のおかげで思い出したんだ……訓練していた基地が花火大会で有名な場所の近くで、いつか一緒に見たいなと思っていたこと…………今日は何だか同期の仲間と一緒に見られた気がしたよ、ありがとう」
「こちらこそ……ありがとうございます」
篠田さんは涙を拭いて車を発進させた。
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