源次物語〜未来を生きる君へ〜

OURSKY

文字の大きさ
上 下
70 / 77

〈希望の光〉前編

しおりを挟む
 1946年1月7日に僕は同じ場所で純子にプロポーズし、僕達は結婚した。
 プロポーズの言葉は坂本くん並にキザな台詞を言ってしまい……
 恥ずかし過ぎて目を瞑り、お辞儀をしながら差し出した日記帳を純子はおずおずと泣きながら受け取ってくれた。

 「最高の誕生日プレゼントありがとう……結婚しよ? 源ちゃん」と最高の泣き笑いの笑顔で……

 僕は飛び上がるほど嬉しくて、抱き締めながら「僕が一生、守るから」と言ったら、「守ってくれなくていい……私があなたを守りたい」と言われてしまった。

 そして僕達は、ある約束をした。

「源ちゃん、お願いがあるの……約束して? 私より絶対長生きするって……私、もう二度と大切な人を先に亡くしたくないの」

「僕は君が先にいなくなるなんて耐えられない……同じ瞬間に死にたい」

「ダメ! 約束してくれないなら結婚しない!」

「ええ~!? しょうがないな、約束するよ……じゃあ君より少しだけ長生きして同じ日に死ぬ! それもダメだっていうなら結婚しない!」

「ええ~!? 何それ~じゃあ私、うんと長生きしないとだわ」

 そう言って笑う純子の横顔は、夕日に照らされて光っていて……本当に本当にキレイだった。

 入籍の日は11月1日に決めた。
 そうすれば結婚記念日と共にヒロの誕生日を毎年祝えるから……

 因みに平井くんは肺の病で一時危なかったそうだが、治って無事に由香里ちゃんと結婚したという手紙が届いた。
 そして坂本くんの赤ちゃんも無事生まれたそうで……
 付けられた名前は「はじめ」……坂本亘の「亘」は「一」で挟まれているから、だそうだ。
 島田くんのお母さんもお元気で、長生きすると張り切っているらしい。

 1946年……清水かづら先生は戦後の子供達のために文化会の会長になり、ヒロの描いた『最高に幸福な王子』を劇にして小学校の講堂で公開してくれた。 
 そして僕達の描いた『未来に生きる君へ』とヒロの描いた『最高に幸福な王子』は市の図書館に寄贈されることになった。
 僕は漫画を今後も描かないのか聞かれたが、ヒロの書いた物語以外を描く気は全くなかった。

 僕達は必死に勉強をして……僕は日本史の教師、純子は音楽の教師になった。
 平井くんは作家になり、推理小説や童話を書いたり、特攻で空に散った仲間を忘れて欲しくないと色々な本を出した。
 平井くんのお父さんの正体を聞いた時は本当に驚いたが……思い返せば幾つもヒントがあった気がする。

 生活がだいぶ落ち着いた頃、僕達と平井くん夫妻は立教のチャペルで合同結婚式を挙げた。
 平井くんちと違って僕達二人の間には子供はできなかったが、僕達は本当に幸せだった。

 何の因果か分からないが、巡り巡って純子が通っていた女学校である女子高の教師となり……絵が上手いからと美術部の顧問もやる事になった。
 
 1964年10月10日……僕達が学徒出陣壮行会をやった「明治神宮外苑競技場」が 「国立競技場」へと生まれ変わり、東京オリンピックが行われた。
 何も無くなった焼け野原だった東京に沢山の新しい建物ができて、皆が希望に満ち溢れていて……昔の景色と今の景色を重ね合わせて涙が出た。

 1970年8月15日……戦後25周年の講演が地元の文化センターで行われるそうで、特別講師として講演を頼まれた。
 地元に暮らす戦争体験者であり、歴史の教師でもあるから適任という事になったらしい。
 丁度その年は、僕達が住んでいた大和町も市制施行に伴い……新しい市の名前を市民から募集していた。

 講演の日、僕はとても緊張していた。
 戦後生まれの戦争を知らない沢山の学生が聞きにくるそうだが、果たしてずっと言いたかった事を伝えられるのだろうかと……

 僕は持参した資料を元に太平洋戦争の歴史を説明した後、事前に用意してきた原稿を読み上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陣代『諏訪勝頼』――御旗盾無、御照覧あれ!――

黒鯛の刺身♪
歴史・時代
戦国の巨獣と恐れられた『武田信玄』の実質的後継者である『諏訪勝頼』。  一般には武田勝頼と記されることが多い。  ……が、しかし、彼は正統な後継者ではなかった。  信玄の遺言に寄れば、正式な後継者は信玄の孫とあった。  つまり勝頼の子である信勝が後継者であり、勝頼は陣代。  一介の後見人の立場でしかない。  織田信長や徳川家康ら稀代の英雄たちと戦うのに、正式な当主と成れず、一介の後見人として戦わねばならなかった諏訪勝頼。  ……これは、そんな悲運の名将のお話である。 【画像引用】……諏訪勝頼・高野山持明院蔵 【注意】……武田贔屓のお話です。  所説あります。  あくまでも一つのお話としてお楽しみください。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

夢のまた夢~豊臣秀吉回顧録~

恩地玖
歴史・時代
位人臣を極めた豊臣秀吉も病には勝てず、只々豊臣家の行く末を案じるばかりだった。 一体、これまで成してきたことは何だったのか。 医師、施薬院との対話を通じて、己の人生を振り返る豊臣秀吉がそこにいた。

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

南町奉行所お耳役貞永正太郎の捕物帳

勇内一人
歴史・時代
第9回歴史・時代小説大賞奨励賞受賞作品に2024年6月1日より新章「材木商桧木屋お七の訴え」を追加しています(続きではなく途中からなので、わかりづらいかもしれません) 南町奉行所吟味方与力の貞永平一郎の一人息子、正太郎はお多福風邪にかかり両耳の聴覚を失ってしまう。父の跡目を継げない彼は吟味方書物役見習いとして南町奉行所に勤めている。ある時から聞こえない正太郎の耳が死者の声を拾うようになる。それは犯人や証言に不服がある場合、殺された本人が異議を唱える声だった。声を頼りに事件を再捜査すると、思わぬ真実が発覚していく。やがて、平一郎が喧嘩の巻き添えで殺され、正太郎の耳に亡き父の声が届く。 表紙はパブリックドメインQ 著作権フリー絵画:小原古邨 「月と蝙蝠」を使用しております。 2024年10月17日〜エブリスタにも公開を始めました。

旅路ー元特攻隊員の願いと希望ー

ぽんた
歴史・時代
舞台は1940年代の日本。 軍人になる為に、学校に入学した 主人公の田中昴。 厳しい訓練、激しい戦闘、苦しい戦時中の暮らしの中で、色んな人々と出会い、別れ、彼は成長します。 そんな彼の人生を、年表を辿るように物語りにしました。 ※この作品は、残酷な描写があります。 ※直接的な表現は避けていますが、性的な表現があります。 ※「小説家になろう」「ノベルデイズ」でも連載しています。

御懐妊

戸沢一平
歴史・時代
 戦国時代の末期、出羽の国における白鳥氏と最上氏によるこの地方の覇権をめぐる物語である。  白鳥十郎長久は、最上義光の娘布姫を正室に迎えており最上氏とは表面上は良好な関係であったが、最上氏に先んじて出羽国の領主となるべく虎視淡々と準備を進めていた。そして、天下の情勢は織田信長に勢いがあると見るや、名馬白雲雀を献上して、信長に出羽国領主と認めてもらおうとする。  信長からは更に鷹を献上するよう要望されたことから、出羽一の鷹と評判の逸物を手に入れようとするが持ち主は白鳥氏に恨みを持つ者だった。鷹は譲れないという。  そんな中、布姫が懐妊する。めでたい事ではあるが、生まれてくる子は最上義光の孫でもあり、白鳥にとっては相応の対応が必要となった。

忍者同心 服部文蔵

大澤伝兵衛
歴史・時代
 八代将軍徳川吉宗の時代、服部文蔵という武士がいた。  服部という名ではあるが有名な服部半蔵の血筋とは一切関係が無く、本人も忍者ではない。だが、とある事件での活躍で有名になり、江戸中から忍者と話題になり、評判を聞きつけた町奉行から同心として採用される事になる。  忍者同心の誕生である。  だが、忍者ではない文蔵が忍者と呼ばれる事を、伊賀、甲賀忍者の末裔たちが面白く思わず、事あるごとに文蔵に喧嘩を仕掛けて来る事に。  それに、江戸を騒がす数々の事件が起き、どうやら文蔵の過去と関りが……

処理中です...