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〈奇跡の再会〉前編
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純子ちゃんは頭の包帯はすぐに取れたが、爆風を受けて倒れ込む時に右腕を骨折しており……数日入院したのちに退院し、完治するのは2、3ヶ月後とのことで右腕を固定した三角巾の包帯と眼帯姿で一緒に家に帰った。
家に着くと……
「源次! 大変だよ……お父さんが……」
ラジオから流れていたのは大和の沈没のニュースだった。
「そんな……大和が……沈んだ?」
「大和が沈むなんて……日本も終わりだよ」
母さんは涙も流さず呆然と畳にへたり込んだ。
僕は父との思い出が走馬灯のように浮かんでは消えた。
小さい時の肩車や小学校の入学式……出征する前に一緒に歌った『あした』という先生が作った歌……
父さんはどんな思いで海に沈んでいったのだろうか……
僕は何とも言えない怒りが込み上げてきた。
「クソッ! 今すぐにでも百里原行って特攻を志願して父さんの敵をとってやる!」
僕は家を飛び出した。
あの時、ヒロが言っていた気持ちが分かった気がした。
「源次さん、待って!」
純子ちゃんは痛みを我慢して僕の後を追い、僕の着物の裾を掴んだ。
「光ちゃんが言ってたの……うまい事言っとくから、お前は戻って来るなって……だから……」
「いいや、僕は行くよ……必ず敵をとる!」
「お母さんの側にいてあげて! 私は光ちゃんしか家族がいなくなっちゃったのに行ってしまった……それがどんなにつらいことか……お母さんには源次さんしかいないの!」
「今度こそ君を守りたいんだ! 父さんや母さんの無念を晴らしたいんだ……空襲で死んだ静子おばさんや浩くんの無念も…………何より君を……お願いだから君を……守らせてくれ」
そして、あっという間に僕が百里原に戻ると伝えていた日になった。
純子ちゃんは無理が祟ったのか具合が悪くなり寝込んでしまった。
駅での見送りは断っていたので、家を出る時は近所の人も沢山見送りに来てくれた。
家を出る前の母さんの最後の言葉は「バンザーイ、バンザーイ、バンザーイ」だった。
これが母さんと交わす最後の言葉かと思うと何だか虚しくて……純子ちゃんとも話せないまま別れるのが苦しくて……僕は駅に行く前に小学校に向かった。
少しでも懐かしい景色を目に焼き付けたかった。
校門の外から校庭を見ると、浩くんが守ろうとした桜が満開で……本当にキレイに咲いていた。
「父さんは昔……僕が入学式の時に、あの桜の下で笑ってたっけ……」
そんな事を思い出しながら眺めていたが……よく見ると、桜の木の下に一人で寂しそうに桜を見上げている女の子がいた。
それは迎えに行った時に紹介された、安子ちゃんだった。
浩くんは「一緒にお花見をしよう」……そんなささやかな願いも叶わなかった。
そう思ったら、今まで我慢していた涙が溢れて……
浩くんとの思い出や、父さんの優しかった笑顔や声も浮かんできて……
校門の影で号泣した。
純子ちゃんや母さんの前では絶対、泣くわけにはいかなかったから……
誰もいなかったのが不幸中の幸いだ。
僕は一人、涙を拭いて歩きだした。
駅に着くと、居るはずのない純子ちゃんが待っていた。
「よかった……間に合った……」
「純子ちゃん? 具合は?」
「そんなの全然大丈夫……源次さん、私……」
「最後に会えてよかったよ……母さんの事、お願いします……安心して? あいつをここに戻すまで死なないから……必ずあいつを純子ちゃんの所に帰すから…………って最後にちゃんと、言っておきたかったんだ…………じゃあ、行ってきます」
「待って……行かないで……私は……あなたのことが……」
純子ちゃんが何か言っていた気がしたが……電車の発車音にかき消されてよく聞こえなかった。
父さんの乗っていた『戦艦大和』は、日本海軍が建造した世界最大の戦艦だった。
大和が沈んだのは4月7日……
沖縄で激しい攻撃を受けていた日本軍は、5日に「海上特攻隊として沖縄に突入せよ」という命令を大和に下し、6日に出撃した。
翌7日、大和は鹿児島県の沖合で米軍艦と航空機からの激しい攻撃を受けて甲板は血の海……
必死の抵抗が続くも魚雷が決定的な打撃となり、大和は大きく傾いて沈没……海中で爆発し、深い海へと沈んだ。
重油が漂う海にかろうじて浮かんでいた者も機銃掃射にさらされ……駆逐艦『雪風』『冬月』などに救助された者もいたが、乗員3332人のうち9割以上の3056人が亡くなってしまった。
百里原に着くと、ヒロは驚いて……僕が4月に入って起きた事を報告すると、頭を抱えて膝から崩れ落ちた。
そして東京大空襲の後にも各地で空襲があったことを教えてくれた。
家に着くと……
「源次! 大変だよ……お父さんが……」
ラジオから流れていたのは大和の沈没のニュースだった。
「そんな……大和が……沈んだ?」
「大和が沈むなんて……日本も終わりだよ」
母さんは涙も流さず呆然と畳にへたり込んだ。
僕は父との思い出が走馬灯のように浮かんでは消えた。
小さい時の肩車や小学校の入学式……出征する前に一緒に歌った『あした』という先生が作った歌……
父さんはどんな思いで海に沈んでいったのだろうか……
僕は何とも言えない怒りが込み上げてきた。
「クソッ! 今すぐにでも百里原行って特攻を志願して父さんの敵をとってやる!」
僕は家を飛び出した。
あの時、ヒロが言っていた気持ちが分かった気がした。
「源次さん、待って!」
純子ちゃんは痛みを我慢して僕の後を追い、僕の着物の裾を掴んだ。
「光ちゃんが言ってたの……うまい事言っとくから、お前は戻って来るなって……だから……」
「いいや、僕は行くよ……必ず敵をとる!」
「お母さんの側にいてあげて! 私は光ちゃんしか家族がいなくなっちゃったのに行ってしまった……それがどんなにつらいことか……お母さんには源次さんしかいないの!」
「今度こそ君を守りたいんだ! 父さんや母さんの無念を晴らしたいんだ……空襲で死んだ静子おばさんや浩くんの無念も…………何より君を……お願いだから君を……守らせてくれ」
そして、あっという間に僕が百里原に戻ると伝えていた日になった。
純子ちゃんは無理が祟ったのか具合が悪くなり寝込んでしまった。
駅での見送りは断っていたので、家を出る時は近所の人も沢山見送りに来てくれた。
家を出る前の母さんの最後の言葉は「バンザーイ、バンザーイ、バンザーイ」だった。
これが母さんと交わす最後の言葉かと思うと何だか虚しくて……純子ちゃんとも話せないまま別れるのが苦しくて……僕は駅に行く前に小学校に向かった。
少しでも懐かしい景色を目に焼き付けたかった。
校門の外から校庭を見ると、浩くんが守ろうとした桜が満開で……本当にキレイに咲いていた。
「父さんは昔……僕が入学式の時に、あの桜の下で笑ってたっけ……」
そんな事を思い出しながら眺めていたが……よく見ると、桜の木の下に一人で寂しそうに桜を見上げている女の子がいた。
それは迎えに行った時に紹介された、安子ちゃんだった。
浩くんは「一緒にお花見をしよう」……そんなささやかな願いも叶わなかった。
そう思ったら、今まで我慢していた涙が溢れて……
浩くんとの思い出や、父さんの優しかった笑顔や声も浮かんできて……
校門の影で号泣した。
純子ちゃんや母さんの前では絶対、泣くわけにはいかなかったから……
誰もいなかったのが不幸中の幸いだ。
僕は一人、涙を拭いて歩きだした。
駅に着くと、居るはずのない純子ちゃんが待っていた。
「よかった……間に合った……」
「純子ちゃん? 具合は?」
「そんなの全然大丈夫……源次さん、私……」
「最後に会えてよかったよ……母さんの事、お願いします……安心して? あいつをここに戻すまで死なないから……必ずあいつを純子ちゃんの所に帰すから…………って最後にちゃんと、言っておきたかったんだ…………じゃあ、行ってきます」
「待って……行かないで……私は……あなたのことが……」
純子ちゃんが何か言っていた気がしたが……電車の発車音にかき消されてよく聞こえなかった。
父さんの乗っていた『戦艦大和』は、日本海軍が建造した世界最大の戦艦だった。
大和が沈んだのは4月7日……
沖縄で激しい攻撃を受けていた日本軍は、5日に「海上特攻隊として沖縄に突入せよ」という命令を大和に下し、6日に出撃した。
翌7日、大和は鹿児島県の沖合で米軍艦と航空機からの激しい攻撃を受けて甲板は血の海……
必死の抵抗が続くも魚雷が決定的な打撃となり、大和は大きく傾いて沈没……海中で爆発し、深い海へと沈んだ。
重油が漂う海にかろうじて浮かんでいた者も機銃掃射にさらされ……駆逐艦『雪風』『冬月』などに救助された者もいたが、乗員3332人のうち9割以上の3056人が亡くなってしまった。
百里原に着くと、ヒロは驚いて……僕が4月に入って起きた事を報告すると、頭を抱えて膝から崩れ落ちた。
そして東京大空襲の後にも各地で空襲があったことを教えてくれた。
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