25 / 77
〈泣き笑いの壮行会〜旅立ち〜〉後編
しおりを挟む
「そのお寺、隣だよ! お墓参りの時に通ってた! 僕のご先祖様は東京生まれだから……そうか! もし死んでもヒロの隣に行けるのか……隣の墓だったら入るのも悪くないかもな」
「縁起でもないこと言わないで!!」
そう言うと純子ちゃんはポロポロと涙をこぼした。
つい弱気になり、純子ちゃんを不安にさせてしまったことを僕は後悔した。
「ごめん純子ちゃん、ごめん変なこと言って……僕が必ずヒロを連れて帰ってくるよ! もしあいつが希望する飛行隊員になって出撃しなきゃいけなくなったら、こっそり腹下すものご飯にいれてさ……『すみません、こいつ厠から出られないんで飛べません~』って」
「ふふふふ……アハハハハそれは素晴らしい計画ね! ありがとう源次さん……久し振りに心から笑った気がするわ」
泣きながら笑う純子ちゃんを泣くほど傷つけてしまったお詫びに、僕は咄嗟に思いついた夢を語った。
「そうだ、新しい夢が出来たよ! いつか無事に帰ってきたら……出版社に僕達の漫画を持ち込んで本を売って、それが映画になって……純子ちゃんが僕達の映画の歌を歌うなんてどうかな?」
きっと叶うことはない、途方もない夢だった。
「素敵な夢……私、寂しかったの。だって二人だけで世界を作って、どんどん先に行ってしまうんだもの……これで私も夢の仲間入りね」
純子ちゃんは本当に嬉しそうに笑った。
12月の入隊にむけて、御茶ノ水駅から出発することになり……純子ちゃん達が駅の前まで見送りに来てくれた。
「光ちゃん、源次さん! これ、地域のみなさんで縫った千人針……二人とも気を付けてね! 必ず帰ってき……」
「そんなに心配すな! 俺達は訓練に行くんやで? ほら、お前に餞別や」
僕達は純子ちゃんに1ヶ月早い誕生日祝いを渡した。
入学してから二人で色々案を出し合って少しずつ描き続けて……昨日やっと完成した漫画だった。
「正月の頃に帰れるか分からんからの~前祝いじゃ! ええか? 誕生日まで絶対読んだらあかんで~あそこにある源次の住んでる場所近くの大学病院がモデルの話も出てくるから楽しみにしとけ」
「謎を解いたり色々な事件が起きる場面が出てくるのは推理小説が好きな僕の影響だけどね」
「二人ともありがとう……楽しみにしてる! わ~この漫画、素敵な題名ね」
表紙に書かれた題名は『未来を生きる君へ』で、ペンネームは『みなもとこうじ』……
『未来を生きる君へ』という題名は二人で決めた。
『君へ』にするか『君たちへ』にするかで迷ったが、6年前に出版された某有名な著者と題名が似てしまうので『君へ』にした。
「私嬉しい、この名前も好き……光ちゃんと源次さんの名前からできてるけど、私の名字の宮本も入ってる気がして……」
「ほんまやな~気付かんかったわ」
「本当は気付いてたでしょ~本当にヒロは素直じゃないんだから」
「誕生日に読むの楽しみにしてる! 感想、直接言いたいから必ず帰って来てね! あと私も出発前に見せたいものがあって……」
それは僕達が貰ったお守りと同じ大きさの、ウサギの人形だった。
「自分用にもう一つ作ったの……毎日これに話しかけたら、二人に届くかなって」
「通信機やあるまいし無理やろ」
「本当は嬉しいくせに……ヒロは本当~に素直じゃないよね」
「必ずウサギと一緒に……帰ってきてね?」
僕は大勢の他人が行き交う駅前で、何と答えればいいか分からなかった。
「ようし景気づけに軍歌でも歌うか!」
「僕は軍歌はちょっと……」
「辛気臭いのう~よっしゃ軍歌の代わりにヨサコイ節でも歌うか」
「よさこい牛?」
「牛ちゃうわ! 何じゃ知らんのか? 高知の民謡じゃ」
「土佐の~高知の~はりまや橋で~坊さん~かんざし~買うを見た~ハア、ヨサコイ~ヨサコイ」
「初めて聞いたよ……あれ? もしかして播磨屋ってその歌から付けたんですか?」
「そうなの……私と浩一さんは播磨屋橋で出会ったから……」
静子おばさんは恥ずかしそうにそう言って赤面した。
「そろそろ時間や」
最後にヒロは純子ちゃんと静子おばさんから千人針を受け取ると……
「ほな行って参ります!」
「行って参ります!」
僕達は勇ましく敬礼した後……僕達の漫画を胸に抱えて涙ながらに手を振り続ける純子ちゃん達の姿が見えなくなるまで、何度も振り返りながら手を振って……御茶ノ水駅を出発した。
そして僕達は、入隊する横須賀海兵団で思わぬ人物に出会った。
「縁起でもないこと言わないで!!」
そう言うと純子ちゃんはポロポロと涙をこぼした。
つい弱気になり、純子ちゃんを不安にさせてしまったことを僕は後悔した。
「ごめん純子ちゃん、ごめん変なこと言って……僕が必ずヒロを連れて帰ってくるよ! もしあいつが希望する飛行隊員になって出撃しなきゃいけなくなったら、こっそり腹下すものご飯にいれてさ……『すみません、こいつ厠から出られないんで飛べません~』って」
「ふふふふ……アハハハハそれは素晴らしい計画ね! ありがとう源次さん……久し振りに心から笑った気がするわ」
泣きながら笑う純子ちゃんを泣くほど傷つけてしまったお詫びに、僕は咄嗟に思いついた夢を語った。
「そうだ、新しい夢が出来たよ! いつか無事に帰ってきたら……出版社に僕達の漫画を持ち込んで本を売って、それが映画になって……純子ちゃんが僕達の映画の歌を歌うなんてどうかな?」
きっと叶うことはない、途方もない夢だった。
「素敵な夢……私、寂しかったの。だって二人だけで世界を作って、どんどん先に行ってしまうんだもの……これで私も夢の仲間入りね」
純子ちゃんは本当に嬉しそうに笑った。
12月の入隊にむけて、御茶ノ水駅から出発することになり……純子ちゃん達が駅の前まで見送りに来てくれた。
「光ちゃん、源次さん! これ、地域のみなさんで縫った千人針……二人とも気を付けてね! 必ず帰ってき……」
「そんなに心配すな! 俺達は訓練に行くんやで? ほら、お前に餞別や」
僕達は純子ちゃんに1ヶ月早い誕生日祝いを渡した。
入学してから二人で色々案を出し合って少しずつ描き続けて……昨日やっと完成した漫画だった。
「正月の頃に帰れるか分からんからの~前祝いじゃ! ええか? 誕生日まで絶対読んだらあかんで~あそこにある源次の住んでる場所近くの大学病院がモデルの話も出てくるから楽しみにしとけ」
「謎を解いたり色々な事件が起きる場面が出てくるのは推理小説が好きな僕の影響だけどね」
「二人ともありがとう……楽しみにしてる! わ~この漫画、素敵な題名ね」
表紙に書かれた題名は『未来を生きる君へ』で、ペンネームは『みなもとこうじ』……
『未来を生きる君へ』という題名は二人で決めた。
『君へ』にするか『君たちへ』にするかで迷ったが、6年前に出版された某有名な著者と題名が似てしまうので『君へ』にした。
「私嬉しい、この名前も好き……光ちゃんと源次さんの名前からできてるけど、私の名字の宮本も入ってる気がして……」
「ほんまやな~気付かんかったわ」
「本当は気付いてたでしょ~本当にヒロは素直じゃないんだから」
「誕生日に読むの楽しみにしてる! 感想、直接言いたいから必ず帰って来てね! あと私も出発前に見せたいものがあって……」
それは僕達が貰ったお守りと同じ大きさの、ウサギの人形だった。
「自分用にもう一つ作ったの……毎日これに話しかけたら、二人に届くかなって」
「通信機やあるまいし無理やろ」
「本当は嬉しいくせに……ヒロは本当~に素直じゃないよね」
「必ずウサギと一緒に……帰ってきてね?」
僕は大勢の他人が行き交う駅前で、何と答えればいいか分からなかった。
「ようし景気づけに軍歌でも歌うか!」
「僕は軍歌はちょっと……」
「辛気臭いのう~よっしゃ軍歌の代わりにヨサコイ節でも歌うか」
「よさこい牛?」
「牛ちゃうわ! 何じゃ知らんのか? 高知の民謡じゃ」
「土佐の~高知の~はりまや橋で~坊さん~かんざし~買うを見た~ハア、ヨサコイ~ヨサコイ」
「初めて聞いたよ……あれ? もしかして播磨屋ってその歌から付けたんですか?」
「そうなの……私と浩一さんは播磨屋橋で出会ったから……」
静子おばさんは恥ずかしそうにそう言って赤面した。
「そろそろ時間や」
最後にヒロは純子ちゃんと静子おばさんから千人針を受け取ると……
「ほな行って参ります!」
「行って参ります!」
僕達は勇ましく敬礼した後……僕達の漫画を胸に抱えて涙ながらに手を振り続ける純子ちゃん達の姿が見えなくなるまで、何度も振り返りながら手を振って……御茶ノ水駅を出発した。
そして僕達は、入隊する横須賀海兵団で思わぬ人物に出会った。
2
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
旅路ー元特攻隊員の願いと希望ー
ぽんた
歴史・時代
舞台は1940年代の日本。
軍人になる為に、学校に入学した
主人公の田中昴。
厳しい訓練、激しい戦闘、苦しい戦時中の暮らしの中で、色んな人々と出会い、別れ、彼は成長します。
そんな彼の人生を、年表を辿るように物語りにしました。
※この作品は、残酷な描写があります。
※直接的な表現は避けていますが、性的な表現があります。
※「小説家になろう」「ノベルデイズ」でも連載しています。
楽将伝
九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語
織田信長の親衛隊は
気楽な稼業と
きたもんだ(嘘)
戦国史上、最もブラックな職場
「織田信長の親衛隊」
そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた
金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか)
天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる