源次物語〜未来を生きる君へ〜

OURSKY

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〈お揃いの誕生会〉後編

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 アパートに着くと物珍しそうにあちこちキョロキョロして興奮冷めやらぬ感じで大変だったが……時間が遅かったので僕達は川の字ならぬ二の字に布団を並べて寝る前に色々な話をした。
 まさか急に来ると思わなかったので来客用の布団があって本当によかったが……

「ねえ、ヒロはなんで漫画家になりたいって思ったの?」

「俺、両親おらんし方言もちごたから尋常小学校の時いじめられとってな……そんな自分を変えてくれたんが漫画やったから、自分もなれたらええな~思て」

「明るいヒロがいじめられてたなんて意外……」

「せやろ? 漫画が好きで見様見真似で自分で描いた漫画がクラスのやつに見つかって爆笑されて……おかげで友達ぎょうさんできて、気が付いたらクラスで一番のお調子者の篠田くんになっとったわ」

「そうなんだ……僕あんまり漫画読んだ事なくて……どんな漫画が好きだったの?」

「特に『のろくろ』が好きでな、よう一人で読んどったわ……ずっと続いとったのに去年の10月号で終わってしもたけどな」

「えっそうなの?」

「このご時世に漫画なんて雑誌に載せるな~とか、『のろくろ』が終われば雑誌の売り上げが減って用紙の節約になる~とか言うた役人もいたらしいで……つらい時こそ皆の希望になる作品が必要やのに」

「そうなんだ……ねえ初めて書いた漫画ってどんな話だったの? 見せてくれたやつに入ってた?」

「いいや、小学校の頃のはさすがにボロボロやからな……初めて書いた漫画の主人公はな、空に憧れとって真っ白な飛行機で空を飛んでいくんや……」

「何だか素敵だね」

「その飛行機で大事なものを探しに行くんやけど、その先で大事件が色々発生するんや~飛行機の風でカツラ飛びます事件とかな?」

「なんじゃそりゃ~やっぱりヒロの発想はすごいや……それをそのまま漫画にするなんて僕に出来るのかな? ヒロの話が面白過ぎて、僕の絵では力不足なんじゃないかって時々思うんだ……」

「そんなことはない」

「ヒロの下書きの絵には躍動感があるのに……僕には動きのない、ただ止まっている絵しか描けない……僕の絵には多分ヒロみたいに人を感動させる力なんてないんだよ」

「大丈夫、お前は大丈夫だ!」

「でも僕、自信ない……」

「お前なら出来る! ほんまはな……七夕の短冊に『日本一の漫画家になれますように』って書いたけど、本当は世界一のって書きたかったんや……いつか俺達の漫画で世界中の人のことを幸せにできたらええよな」

「ヒロお前って…………最高の馬鹿だな」

「なんやねん~全否定するなや~」

「いや褒め言葉だよ……世知辛い時代になって色々な国が自国の利益ばかりに固執する中、お前は世界全体をみている……本当にお前は坂本龍馬みたいなやつだな」

「それ……俺にとって最高の褒め言葉やわ」

「僕……立教に入れて……ヒロに会えて……よか……」

「俺もよかったわ……最高の漫画の物語を思い付くには勉強せなあかん思て大学入って……って言うのは大げさで半分言い訳やけどな……源次……やっぱり覚えてへんか? 俺が立教に入れたんは……」

 ヒロが何か言いかけていたのが気になっていたが……僕は深い眠りに落ちてしまった。

 次の日の朝、先に起きた僕は形に残る贈り物も渡せたらいいなと思い、まだ寝ているヒロをモデルに貰ったばかりのGペンで肖像画を描いた。

 ゆっくり起きて僕の作った質素な朝食を美味しそうに食べるヒロは、寝ぼけ眼で寝癖姿も相まって……なんだか可愛い3歳児に見えた。

「はいコレ、寝てる間に描いた誕生日プレゼント」

「ありがとう~やっぱ源次は絵、上手いな……もうGペン使いこなしとるやん」

「そうでもないよ」

「俺らもとうとう来年は20歳やで? 来年も誕生日会、一緒にやろうな~楽しみやな」

 僕達は来年も普通に誕生日が迎えられると信じていた。

 その1年後の10月……
 今まで免除されていたはずの20歳以上の理系や教員養成系以外の学生・生徒の徴兵が決まり、文学部だった僕達が戦地に送られることになるなんて……
 1943年10月21日に明治神宮外苑競技場で行われた出陣学徒壮行会に参加することになるなんて、夢にも思っていなかったんだ。
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