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最後の日記編

第36話■最後の日記①~ある冬の午後~

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 あれから半年程経った肌寒い冬のある日……
 朝からしっとりとした雨が降る午後に、僕は久し振りに彼女の日記を読み返していた。

 込み上がる涙で途中からほとんど読めず、つらすぎてあの日以来開いていなかった日記を、今日だけはきちんと読もうと決めていた。

 一人掛けのソファに腰掛け、ゆっくりとページを開く。
 全部読むのは気が引けるので、自分の名前が出てくる日付だけに目を走らせた。

 他愛もない日常を綴った文章……頭の中で自然と懐かしい彼女の声で再生されていく。
 突っ込みどころがあり過ぎて、読みながら僕自身の心の声もタイムスリップしていた。

○年○月○日
新しい職場になって今日で丁度1ヶ月。
月始めで丁度いいってのもあるけど、なんとなく日記を書き始めることにした。
今は真っ白なページだけど、素敵な思い出いっぱいの日記帳になるといいな。
ちなみに今日は悠希くんがカメラを貸して欲しいと家まで借りに来た。
この間のガラス事件以降なめられている気がするし、戻ってこなかったらどうしよう……

(返すの気が向いたらって言ったの冗談だから)


○月○日
今日悠希くんに貸したカメラが返ってきた。
変なこと言うから戻ってくるか不安だったけど、お礼に立派なお菓子のお土産をくれた。
失礼なことばかり言うし年下なのに「おまえ」とか言うけど意外といいやつ。

(意外とって心外だな……)


○月○日
今日は仕事中悠希くんが怪我をした。
包丁で指を切るなんて危なっかしいやつ。
出血多量だったので絆創膏を巻いてあげた。
弟がいたらこんな感じなのかな……

(君がなんとなく母親に似てるなと思っていた日に、僕は弟と思われていたとは……)


○月○日
今日は悠希くんに「洋服がダサい」って言われた。
「選んでやるよ」って上から目線で生意気なやつ。
私なんて何を着てもどうせ似合わないんだからほっといて欲しい。

(一緒にショッピング行こうって言ったの、何気に初デートの誘いだったんだけどな)


○月○日
今日はクリスマス。
チキンはイブの日に食べたから、今日は会社帰りに前からおすすめされてたラーメン屋に行った。
並んで結構待ったけど、今まで食べたラーメンの中で一番美味しかった。
感動のあまり半泣きで食べてたら、悠希くんがチャーシューをくれた。
やっぱりいいやつ……また行きたいな。

(あまりに哀れだったからな……なんて……本当は幸せそうに食べてる顔が、もっと見たかったんだ)


○月○日
今日は悠希くんがうちの方面に用があるそうで車で送ってくれた。
帰る途中に前から行きたかった激安チェーン店に寄ってくれて、お得な買い物ができてよかった。
けど途中で迷いこんだコーナーに変な道具がいっぱいあって慌てた。
悠希くんも友達に偶然会って慌ててた。

(あの時は焦ったよ……色んな意味で)


○月○日
今日は初めての忘年会。
二次会はカラオケで緊張した。
ドラマの主題歌を歌ったのに、なぜかみんなにアニメソングだと思われた。
悠希くんが私が頼んだジンジャーエールにぶつかって、盛大にこぼして大変だったけど、代わりに飲みかけのコーラをくれた。
普通に飲んだけど、よく考えたら……

(こっちは間接なんたらになると内心ドキドキしてました……)


○月○日
今日は仕事納めの日だったので、帰りにおすすめのカレー屋に行った。
本格的なカレーは食べたことなくて、ナンも初めて食べたけどめちゃめちゃ美味しかった。
悠希くんの隣で食べてたら、同僚の明美《あけみ》ちゃんにツーショット写真を撮られた。
ワイワイ騒ぎながら食べるのが楽しくて、転職して本当によかったなと思った。
帰りの車の中で悠希くんと言い争ってたら、なぜか「お前ら付き合え」とみんなにからかわれた。
「彼氏いますから~」って言おうと思ったけど、なんだかバカにされそうで言えなかった。

(あの時かなり赤面してたから車の中暗くて助かったよ……彼氏いるならいるって早く言えよな)
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