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悪夢

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───悪魔だ! とうとう本物の 悪魔 を見つけたぞ─────

醜穢な声。悍ましいそれが、何度も何度も繰り返す。


───貴様には協力してもらうぞ。なぁに、所詮は下賤な生物。私の力をもってすれば─────

奢り高ぶった愚かで醜い人間。誇り高く美しい、高貴な彼女を汚すもの。魔術師らしいローブにゴテゴテした飾りをやたら着けた、醜い中年の男。それが気づけばオレ自身の姿へと変わる。
なのにその口からもれるのは、変わらない醜さだ。


───悪魔を殺せ───

───復讐を───

─────悪魔の宝石を、力を奪え!!───


やめろ、やめろ止めろヤメロ!!!違う、オレは力なんて望んでない!!オレはあの男とは違うっ!!オレは、オレは!


──お前のせいだ。お前のせいで、リリアーナは死んだ。

──お前が殺したんだ。


それは……っ、違う、オレが殺したんじゃ…、オレは、オレは………、


─────オレの、せいで。



『起きて!!起きなさい、セルヴィス!!』





 。 ゜ 。 〇  。 ゜ 。


『ピィッ ピ、ピピィーイ!!ピィー!!』

「……う、あ?……リ、リィ?」

『ピィ!ピッピピー!!(セルヴィスゥ!良かったようやく起きたぁぁぁ!!)』

「ぶっ!?」

ようやく目覚めた愛しい子に安堵からついつい飛びかかったら、うっかり鼻と口を塞ぐ形で顔に張り付いてしまいました。あわわ、ごめんなさい。


空も白みかけた明け方のこと。何やら苦しそうな声が聞こえてきて目を覚ますと、セルヴィスが魘されていました。それもすごく苦しそうに!
慌ててベッドに駆け──跳ねよって体の上で飛び跳ねたり、体を伸ばした触手もどきでペチペチ頬を叩いたりして彼を起こしました。
何とか起きてくれたセルヴィスはまだ夢の余韻か、息が乱れて……あぁもう、すごい寝汗ではないですか。このままでは風邪をひいてしまいますよ。

『ピィッピィー?(大丈夫ですか、セルヴィス?)』

「はぁー。……助かったよ。ありがとう、起こしてくれて。ちょっと悪夢を見てた。……最近は見なくなってたのに……。」

『ピ?(最近は?)』

出会ったばかりの頃、セルヴィスはよく泣きながら魘されていたのをよく覚えています。仇の私が添い寝などしても逆効果だろうとこっそり見守るうちに、いつしか魘されなくなりましたが……、あの頃と同じ悪夢ということでしょうか?
きっとそうですね、他に思い当たることも─────?あれ?まさか、目の前で貫かれて死ぬなどとゆー子供には衝撃的かつ、狙っていた敵討ちを横取りされた悔しさを感じさせたであろう私の最期が悪夢の種になってなどいませんよね?
いや、そんな。まさか。違いますよね?

『ピィ?ピーィイ?(セルヴィス?一体どんな悪夢を見ていたんです?)』

ちょっぴりドキドキしながら尋ねたけれど、セルヴィスに通じるわけがありませんでした。

「ん?あぁ、心配してくれてるのか。もう大丈夫だよ。お前も寝床に戻ってもうひと眠りしな。起こしてゴメンな。」

と、窓の下に設置された私の寝床(セルヴィスが作ってくれたフカフカクッションのベッドです!)に持ち上げて運ばれてしまいました。自分も着替え直して改めて寝直していますが…。
大丈夫でしょうか、セルヴィス。


 。 ゜ 。 〇  。 ゜ 。



『それでですね。人間の言葉を話せるユフィ―に、悪夢の内容を聞いて欲しいのです。それで出来れば悪夢解消になるようなことを言ってもらえたら、と、』

『やだ。いくらお姉ちゃんのお願いでも、ヤダ。』

『そこを何とか!』

『絶・対・に・ヤダ!!』


最初はそこまで大事とは思ってなかったのですが、その後も度々セルヴィスは魘されているようでした。気付いた時は起こすのですが、やはり体に悪いですし根本的解決にはなりません。
せめて夢の内容がわかれば原因を取り除ける可能性もあるかとユフィ―に頼んだのですが、にべもなく断られてしまいました…。

うぅ、やはり駄目でしたか。
どうしましょう。自分で聞こうにも言葉は通じませんし。途方にくれて無人の畑で一匹ゴロゴロと転がりまくってみても、なーんの良案も浮かびません。あぁー、今日ほど言葉が喋れないことを悔しくおもったことはないでしょう!!

──こんな時。がいてくれたら、何とかしてくれるでしょうに!


『今どこにいらっしゃるんですか、師匠──!!!』

「はいはい、ここにいますよ。」



リリィ以外、誰もいなかったはずの畑。リリィに何の気配も気取らせず、近くから届いた涼やかな男性の声に、リリィは自らの耳を疑った。(どこに耳があるかは置いといて)
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