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ペットには愛情深く
しおりを挟む「……。」
一通りゴブリン共を一掃し終えて大きく息を吐く。スライム…リリィに与える魔石を入手する為と、今朝から延々と続く不愉快な気分を振り払うべく狩りに出たけど、あまり憂さ晴らしにならなかった。
やかましい背後の髭面を振り返る。
オレを心配してついてきてたらしいディロック。何でついてくるのかと思ってたら…。
パーティのリーダーなんてしてるだけあって、こいつはがさつだけど面倒見がいいな。森で偶然会った知り合い程度のオレの身を案じて、わざわざついて来るとか。
(変な奴。)
さすがリリアーナが選んだ人間だよ。
こいつとこいつのパーティは、最初からオレの髪と目の色に驚きはしたが嫌悪感を微塵も抱かない変なやつらだった。
町の人間がオレを見る目は多分、今もさして昔と変わらないだろう。オレも滅多に町に降りないし、大抵フードを被って行くから普段は気にならない。けど、スライムの不調で慌てて町に降りたあの時はフードを被ってる余裕もなかったから、人の視線をやたらと感じた。
でも昔のオレは嫌悪の視線に傷ついて逃げてたけど、あの時はせいぜい鬱陶しいとしか感じなかったな。
町の人間が忌み嫌うオレを、心配してついてくるとか。ほんと、変なヤツ。
「…言っとくけど、オレはリリアーナに狩りを仕込まれてるからこれぐらい平気だよ。ゴブリンなんて棒もって突進してくる程度の知能しかないんだし。これ位できなきゃ、この森では生きていけない。」
「普通は住むこと自体不可能だっつの。他の冒険者にお前らがこの森に住んでるーなんて話した日にゃ、大笑いされて終わりだぜ?」
「当たり前。誰がこんな危険な森に人が住んでるって思う?」
「住んでるお前が言うなよ!?お前が今も森に住めてるのもリリアーナさんの残した魔道具のおかげとか前に言ってたけど、ほんっとリリアーナさん何者だよ!!」
「さぁね。」
ディロック達はリリアーナの正体を知らない。強大な力を持った悪魔のリリアーナにとって、この森は住まうのにそこまで危険は多くない。
オレはただの人間だけど、そんなオレが行っても大丈夫と判断した地点に家から直接移動できるよう、リリアーナが設置した移動用魔法陣がある。更にはリリアーナお手製の魔道具やら薬やら、とにかく人間を遥かに超えた魔力や知識を持った心配性な悪魔の全力サポートを今でも受けてるし。
……死んだあとまでオレなんかを助け続けるとか、ホント、アイツはバカだ。
「あ˝~~っいいけどな!! ……けど、アイツらよ。知能は低いが攻撃的だし群れで襲ってくるから万が一って事もあるし。セルヴィス。お前、気を付けろよ?こいつらだって数でこられたら厄介だし、苦労するわりに魔石は小っせーわ何の素材にもならねーわ─────
って、お前、なんでそんなゴブリンなんぞわざわざ狩ってるんだ?」
「……………、ギルドマスターに詳しく聞いたんだよ。スライム───リリィは清浄な自然界の魔力が濃い場所でしか生息できないらしい。魔力不足を補うために魔石を与えろって。」
「ほうほう、なるほど。スライムにリリィって名前つけたんだなー。それでリリィちゃんの為に、魔石を数だけは採れるゴブリンをまとめて狩ってたわけか。───で、何でいきなり不機嫌になったよ??」
そんなの、ここに来た理由を思い出したからに決まってるだろ!!
「ほー。リリアーナさんの知り合いで、スライムの言葉がわかるやつがリリィちゃんを頻繁に連れ出すせいで、お前がリリィちゃんと過ごせない、と。なるほどなぁ、お前それで拗ねてゴブリンに八つ当たりしてたのか?うわ、マジで心配して損した気分だわ。」
あのクソ蜥蜴がドラゴンだという事実だけ除いて現状を説明したら、なんかディロックに憐れんだ目を向けられた。腹立つ。
「あくまで目的は魔石だよ。家にだってたくさん魔石はあるのに『大きくて高価だろうから使いたくない』ってリリィが拒否して、ソイツと魔石採りに狩りにいくから。」
「あぁ。それで、その必要がないくらい安くて大量の魔石を集めてるわけか。リリアーナさんの知り合いと出掛けさせないために?案外と心狭いんだな、お前。」
「……っあの野郎、オレがスライムの言葉がわからないことを良い事に、わざとオレを疎外してくるんだよ!リリィが何かオレに話しかけても翻訳しないで別の話題に逸らしたり!魔石集め終わった後もしつこく家に居座ってリリィと遊んでたり…っ」
「相手も心狭いな。なんだ、まるでガキの喧嘩じゃねーか。」
完全に呆れた口調で言われて、つい目を逸らす。一応、自覚はある。ただその、子供の頃からあの蜥蜴とやり合ってきたから癖が抜けないというか。アイツ相手に大人の対応でスルーするなんて絶対に負けな気がする。
「まぁ気持ちはわかるがなあ。可愛がってる魔物が自分以外のやつにベッタリ甘えるとか腹立つよな。オレの従魔なんぞ、とうとうオレの作るメシを無視してクィンにメシをねだり始めたんだ!あげくオレが呼んでも嫌々な感じで来るくせに、クィンが呼んだら尻尾ふって猛ダッシュだぞ!?なんでオレよりクィンに懐いてるんだ!!?確かにアイツの料理は美味い!だがな、オレの方が圧倒的に愛情ってやつをふんだんに盛り込んで─────」
スイッチが入って大声で語り続けるディロック。
なんかそれ見てたら頭が冷えてきて、ディロック放置でザクザクとゴブリンから魔石を回収する作業をすることにした。
…そうだ、これが終わったらもっと質が良い魔石を狙いに行こう。
いくら高価な魔石が嫌だと断られたからって、こんなクズ魔石じゃディロックのメシマズ料理みたいに魔力もマズイかもしれない。そこそこの質の魔石を集めたらリリィも喜んで受け取ってくれるかもしれないし、そうすればあの蜥蜴と狩りにいくこともないだろう。
リリィのツルスベモッチモチな体を撫でながら一緒にのんびりしたり、小っちゃいのに一生懸命に働こうとする可愛い姿を堪能したり、ピィピィ鳴きながら甘えるリリィを思う存分甘やかしたり。
リリィと過ごす小さな幸せの数々を、これ以上あの蜥蜴に潰されてなるものか!!
─────元来、セルヴィスは愛情深い面倒見が良く、しかも甘やかすのが好きな性格だ。
ところが容姿のせいで人に忌み嫌われ関われなかった幼少期と、素直になれなかった少年期。それに孤独な青年期を過ごしてきたせいで、それらを存分にぶつけられる相手がいなかった。
そんなセルヴィスが初めて見つけた、全力で甘やかしてもいい相手。
意識してか無意識か。気に入らないやつにお気に入りを盗られまいと、大人げなくもセルヴィスは必死になっていた。
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