ロボティクス・ゲーム

橘さやか

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後編

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「3時の方向、敵機」
「真下、来ます」
「後ろ向きで7時方向に移動してください」

 アリサがレーダーを読みながら僕に伝えてくれる。
 そのおかげもあって、僕は次々に敵を撃破した。

 でも、慣れてくると、僕のトップランカーとしての欲がいろいろと出てくる。ここまでAIの言いなりで動いていたが、ビギナーモードのそれでは面白みに欠ける。
 このロボティクス・ウェポンズはプロトタイムのゲームだけに、指示と違う動きをしたらすぐにやられてしまうのかもしれない。
 でも、僕はその逆境を、トップランカーとしての腕で抜け出すことを試したくなった。

「だめっ、アキラ、左です。多少敵の攻撃は受けますが左に移動です」

 けど、僕は上に動いた。

 あぁ、やっぱ、ダメかあ。

 あっという間に敵のロボに囲まれてしまった。

 そのとき、
「あっ、やばっ」
 レイジが叫ぶ。

 モニターを見ると、

 まじかよ……

 レイジの、ひたいから上がなくなっていた。

 額を失ったレイジの頭部から、大量の血が体液と混じって流れ出ている。
 左右の眼球は飛び出し、もとあったところから垂れ下がっていた。

 グロすぎだぜ。

 僕は窓の外に目を移すと、破壊された残骸に混じって人が浮いているのが見えた。

 それはこっちにやってきて、僕のロボの窓にぶつかる。

 おいっ、

 その顔、

 サヤカっ。

 青白い顔のサヤカは、目を見開いて宇宙空間を漂っていた。
 サヤカの顔が僕のロボの窓にぶつかったあと、サヤカの体が向きを変える。

 ……そこにいるサヤカに、下半身がなかった……。

 サヤカの臓器や腸が、まるで、上半身から尾がえているかのように伸びていた。

 僕は嘔吐した。
 激しく咳き込みながら、僕は悟った。

 これはゲームなんかじゃない。本当の戦争だったんだ。

 しかし、僕は理解するのが遅かった。

 AIのアリサは、なんの感情もなく僕に告げた。

「アキラ、残念ですが、わたしたちはおしまいです」


   *****


「総理、『世界ロボティクス・ゲーム・ショー』は大盛況です。我が軍は優勢で勝利は間違いないでしょう」

「そうか、ありがとう」

「しかし、うまいことを考えつきましたね。国内外のトップ・ゲーム・プレイヤーを兵器のパイロットとして戦場に送り込むとは」

「防衛長官、いま、兵器と言ったかね? その認識は誤りだ。今回我々が用意したのは兵器じゃない、単なる娯楽工業製品だ」

「失礼しました」

「参加者の比率はどうかね?」

「確認できたところでは、日本人4割、外国人6割とのことです。外国人の中には敵国のゲームプレイヤーも多くおり、これが我が軍に参加しているというからトンだ笑い話ですね」

「世界が戦争で大変なこの時期、のんきにゲームなんかをやっているゴミどもだ。掃除をするにもいい機会だろう」

「ロボットの工場は量産体制に入っていますが、輸出は法律的にも難しいでしょうね」

「そんなことはない。兵器の輸出はできないが、娯楽の工業製品であれば問題はない。ロボはメイド・イン・ジャパンの集大成だ」

「歴史上、世界で一番高価なベストセラーになるでしょうね」

「うむ、これなら、買わせるだけのアメリカも逆に買いたくなるだろう」

「まったくです。とくに今回は、戦いに特化したAIプログラムが素晴らしい仕事をしてくれています。AIとロボを別売りにして、割高に売りつけるのもいいでしょう。総理、大統領に電話をなさいますか?」

「その必要はないよ。すぐに向こうからかけてくる」
 そう言って、総理と呼ばれる男は笑った。



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みんなの感想(1件)

長月十伍
2021.06.01 長月十伍

世にも奇妙な物語でありそうな雰囲気ですね。
敢えて淡々としているところが逆に素敵でした。

2021.06.02 橘さやか

長月十五さま

いつもSNSではお世話になっております。

我が家はほとんどテレビを見ないため、
『世にも奇妙な物語』は把握していないのですが、
そうなんですね。
ちょっとショック(笑)

ロボット物というと「動」のイメージなのですが、
本作はホラーということで、
仰るとおり、「静」の部分を意識しました。

お読みくださっただけでなく、
わざわざ感想も寄せていただき感謝いたします。

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

解除

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