ロボティクス・ゲーム

橘さやか

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前編

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「敵戦団との遭遇まであと5分。射程距離には4分30秒後に入りますので注意してください」

 AIのアリサが、スピーカーを通して僕に伝えてくれる。

「アキラ、やっとだな」
 モニターの向こうから、親友のレイジがボヤくように話しかけてくる。
「出発して10分だぜ、敵との遭遇までかかりすぎだし。さすがにアーケード版はこうじゃないとは思うけどさ」

 僕とレイジ、そして、僕が今付き合っている女の子、サヤカの3人で、幕張メッセで行われている『世界ロボティクス・ゲーム・ショー』に来ている。
 新しいアーケードゲームの先行体験会だが、世界中のあらゆるゲームのランカーだけが参加できる特別なイベントだ

 ゲームはロボティクス・ウェポンズという1種類だけで、従来のゲームショーとは全く異なる設定だ。
 内容も、お世辞にも最新とは言い難い。
 人型ロボットに搭乗して、機体を操り、武器を駆使して敵と戦うという在り来たりのものだ。ただ、目玉は、シミュレーション装置を使ったコクピットの動きとのこと。

 たしかに、上下左右に動く筐体の感覚は、いままでのゲームにはまったくないものだった。
 それに、筐体きょうたいが完全な個室になっていて、操縦席はわけのわからないスイッチやら計器やらが満載の、ホンモノ感満載のコクピットだ。

 金をかけてるなとは思うけど、所詮は演出のひとつに過ぎない感じで、僕はイマイチかな。

「アリサ、このロボの武器はどんなの?」

「ビーム・サーベルとビーム・ライフルです」

「目新しい感じはしないな」

「トップ・プレイヤーのアキラには物足りないでしょうか? でも、性能は、今回割り当てられたロボの中では一番です」

「そうなの?」

「はい。この機体は現在3機しか使用が認められていません。高性能すぎるために、簡単には配信ができないのです。ロボット格闘ゲームのランカー、アキラだからこそ割り当てられたのです」

「へえ、嬉しいね。運営も粋なことをやってくれるよ。で? 何か必殺技ってあるの?」

「はい。ビーム・サーベルを装着している時に必殺技が出せます。左側の黄色いレバーを押し込むことで、ビーム・サーベルは、水素と酸素を利用したエネルギーに加え、核融合を組み合わせます。さらに、宇宙に放電する電気エネルギーを組み合わせることで、大きな爆発を生み出して敵を壊滅させます」

「それって、水爆に原爆に雷ってこと? でも、とくに水爆、空気のない宇宙空間でそれはないんじゃない?」

「詳しいですね。このロボには酸素生成装置が付いています。そこで作られる酸素を利用しますので水爆の効果は得られます。ただし、必殺技が使えるのは3回までです。4回以上は酸素の生成が間に合わず、コクピットは酸欠状態になりますのでご注意ください」

「へえ、そんな設定があるんだ」

「アキラっ、こっちすごいよっ」
 サヤカがモニターを通して話しかけてきた。

 モニターは左右に2つずつ付いている。
 スマホをセットして、その登録してある電話番号を利用して専用の通信を行っていると言う。

 サヤカは音ゲー部門からの参加だ。
 音ゲーでロボを操縦するという、これは新しい試みで面白いと思う。でも、僕は音ゲーなんてできないから、試したとしても、いいか悪いかは判断できない。

 音ゲー部門のロボは機動性が高く、僕とレイジのロボより一足先に敵と遭遇して、ドンパチやりあっているらしい。

 サヤカはキャーキャー言いながらも、けっこう楽しそうに遊んでいる。
 いいなあ。

 僕はアリサに操作方法を一通り聞いて、時間を持て余していた。レイジの言うとおり、このタイムラグはツライな。

 ボーっとしていたら、サヤカのモニターが、電源が落ちたように急に暗くなった。

「あれ? サヤカ?」

 答えたのはアリサだった。
「お友だちは敵機に撃墜されました。情報登録をしたお友だちが撃墜されてしまうと、このように通信も遮断されてしまいます」

「なんだ、一緒にやりたかったんだけどなあ。ここは要改善だな」

「アキラ、30秒後に敵の射程圏内に入ります。こちらも準備をしましょう」

「了解。はじめはやっぱライフルかな」

「はい。ライフルを継続して使うことを勧めます。ライフルは、遠くの敵も、近くの敵にも対応できます。接近戦であっても、銃口を敵機に当てることで対応できますので。レイジには釈迦しゃか説法せっぽうですが」

「いや、初めてのゲームだからね、とても助かるよ」

 今のところ、ゲームそのものに興味はないんだけど、このAIはよくできているなあと感心する。

「また、必殺技は魅力ですが、ライフルからサーベルへの切り替えには3秒かかります。その間に攻撃を受けないよう注意してください」

「ああ、ありがとう」

「どういたしまして」

 さあ、お楽しみのバトル開始だっ。



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