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後編
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【あきらめる前にやれることをやる】
サヤちゃんがさっき言った言葉がボクの頭の中に響き渡る。
サヤちゃんはイヌくんを抱きしめながら、体を丸くしながら、川の流れに乗せられてクルクル回る。
でも、右の手は、ボクに向かって伸びている。
あの手を掴むことができたら……。
でも、このペンギンの前足じゃ……。
着ぐるみを脱ぐ?
ダメだ。そんなことをしたらボクが妖怪だってことがバレちゃう。妖怪じゃ、このなかよしの動物の国にはいられない。できないよっ。
サヤちゃんは必死に手を伸ばしている。イヌくんをしっかり抱えながら。
ボクは、ともだち王国が大好きだ。王国のみんなが大好きだ。だれも失いたくない。だれも悲しませたくない。だれも、だれもっ、だれもっ。
ボクは着ぐるみを脱いだっ。
ボクの姿を見て驚きの顔をするサヤちゃん。
ごめんね、サヤちゃん。いままでずっとだましていて。
急がなくっちゃ、滝はすぐそこだ。
ボクは思いきり手を伸ばす。
ボクの姿を見て、一瞬サヤちゃんの手が引いたけど、すぐにサヤちゃんは応えてくれた。
サヤちゃんの手が伸びるっ。
もう少し、もう少しっ。
指先が触れて、
つかんだっ。
今度はガッチリと手をつかんだっ。ボクもっ、サヤちゃんもっ。
人間を引っ張るだなんてカッパにはたやすいこと。でもいまは、引っ張り込むんじゃなくて、このまま勢いをつけて川の外に人間のサヤちゃんを引っ張り出すっ。
それっっ。
やったっ、サヤちゃんもイヌくんも川の外に出た。滝に落ちる寸前だった。
よかったあ。
サヤちゃんとイヌくんは喜んでいた。
でも、
ボクは……。
王国のみんなも集まってきた。
ペンギンの着ぐるみは流されちゃったし、もうカッパの姿をゴマカスものは何もない。みんな、ボクの姿を見て驚きの表情。そうだよね。ボクは妖怪。人間を川や池に引きずり込んで殺す妖怪のひとりだ。
もう……。
いままで自分をゴマカシて、みんなをだましてごめんなさい。
さようなら。
「待って」
サヤちゃんが言う。
「さようならってどういうこと?」
だって、ボク、妖怪だし、みんなと住む世界が違う……。
「住む世界が違うって、違う世界がどこにあるの?」
え?
「どこに行ってもこの世界だよ。違う世界なんかないんだから。あるのはこの世界だけだよ」
サヤちゃんが力強く言った。
そして、王様のトラさんが続いて言った。
「サヤちゃんの言うとおり。君はこの王国のひとりではなかったかね? 見る姿は変わったかもしれないが、君はこの王国の命を二つ救い、王国のみんなの涙を防いだのだよ。君はここの住民として素晴らしい働きをしてくれた」
さらに、長老のライオンさんが続ける。
「王様の言うとおり。そして、この王国はたくさんの違いを持つ動物の集まる場所だ。君もその中のひとりに過ぎないのではないかね?」
そして、イヌくんが言った。
「ありがとう。あの川の中を飛び込むなんて、普通じゃできないよ。ボクは、君の勇気ある行動に救われたんだ。ほんとうにありがとう。今度、川の水が落ち着いたら、ボクに泳ぎを教えてくれるかい?」
ボクは、泣いた。
嬉しくて、嬉しくて、泣いた。
ボクはなにも返事ができなかったけど、ボクの涙とみんなの笑顔は語り合っていた。
サヤちゃんがさっき言った言葉がボクの頭の中に響き渡る。
サヤちゃんはイヌくんを抱きしめながら、体を丸くしながら、川の流れに乗せられてクルクル回る。
でも、右の手は、ボクに向かって伸びている。
あの手を掴むことができたら……。
でも、このペンギンの前足じゃ……。
着ぐるみを脱ぐ?
ダメだ。そんなことをしたらボクが妖怪だってことがバレちゃう。妖怪じゃ、このなかよしの動物の国にはいられない。できないよっ。
サヤちゃんは必死に手を伸ばしている。イヌくんをしっかり抱えながら。
ボクは、ともだち王国が大好きだ。王国のみんなが大好きだ。だれも失いたくない。だれも悲しませたくない。だれも、だれもっ、だれもっ。
ボクは着ぐるみを脱いだっ。
ボクの姿を見て驚きの顔をするサヤちゃん。
ごめんね、サヤちゃん。いままでずっとだましていて。
急がなくっちゃ、滝はすぐそこだ。
ボクは思いきり手を伸ばす。
ボクの姿を見て、一瞬サヤちゃんの手が引いたけど、すぐにサヤちゃんは応えてくれた。
サヤちゃんの手が伸びるっ。
もう少し、もう少しっ。
指先が触れて、
つかんだっ。
今度はガッチリと手をつかんだっ。ボクもっ、サヤちゃんもっ。
人間を引っ張るだなんてカッパにはたやすいこと。でもいまは、引っ張り込むんじゃなくて、このまま勢いをつけて川の外に人間のサヤちゃんを引っ張り出すっ。
それっっ。
やったっ、サヤちゃんもイヌくんも川の外に出た。滝に落ちる寸前だった。
よかったあ。
サヤちゃんとイヌくんは喜んでいた。
でも、
ボクは……。
王国のみんなも集まってきた。
ペンギンの着ぐるみは流されちゃったし、もうカッパの姿をゴマカスものは何もない。みんな、ボクの姿を見て驚きの表情。そうだよね。ボクは妖怪。人間を川や池に引きずり込んで殺す妖怪のひとりだ。
もう……。
いままで自分をゴマカシて、みんなをだましてごめんなさい。
さようなら。
「待って」
サヤちゃんが言う。
「さようならってどういうこと?」
だって、ボク、妖怪だし、みんなと住む世界が違う……。
「住む世界が違うって、違う世界がどこにあるの?」
え?
「どこに行ってもこの世界だよ。違う世界なんかないんだから。あるのはこの世界だけだよ」
サヤちゃんが力強く言った。
そして、王様のトラさんが続いて言った。
「サヤちゃんの言うとおり。君はこの王国のひとりではなかったかね? 見る姿は変わったかもしれないが、君はこの王国の命を二つ救い、王国のみんなの涙を防いだのだよ。君はここの住民として素晴らしい働きをしてくれた」
さらに、長老のライオンさんが続ける。
「王様の言うとおり。そして、この王国はたくさんの違いを持つ動物の集まる場所だ。君もその中のひとりに過ぎないのではないかね?」
そして、イヌくんが言った。
「ありがとう。あの川の中を飛び込むなんて、普通じゃできないよ。ボクは、君の勇気ある行動に救われたんだ。ほんとうにありがとう。今度、川の水が落ち着いたら、ボクに泳ぎを教えてくれるかい?」
ボクは、泣いた。
嬉しくて、嬉しくて、泣いた。
ボクはなにも返事ができなかったけど、ボクの涙とみんなの笑顔は語り合っていた。
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