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ロイド⑫ 一人じゃない
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「あの、お身苦しい所をお見せしてしまって、大変申し訳ありませんでした」
人前で泣いたのなんて、子どもの頃以来だろう。リディアは恥ずかしくて俯いてしまう。けれどロイドは特に気にしたふうでもなく、別にいいよとそっけなく言った。
「前にも言ったかもしれないけど、リディアは何でもかんでも一人でしょい込みすぎ。それで周りが心配するってことも、覚えておいてよ」
「う、すみません」
「謝って欲しいわけじゃない。俺は……もっとリディアに頼って欲しい」
今はまだ無理かもしれないけど、とじゃっかん落ち込んだ様子でロイドは付け加えた。
「ロイドには、もう十分頼ってますよ」
「どこがだよ。肝心な所は、キャスパーに頼ってるじゃん」
拗ねた口調で答えるロイドに、リディアはそんなことないですよと白状する。
「前、父と会った時の帰り道、はっきり言えなかったんですけど……ロイドといると、情けない自分を見せてしまいそうで、怖かったんです」
「は? そうなの?」
こくりと頷く。どうも、ロイドには今まで何かと助けてもらったせいか、つい甘えてしまう。でもそれでは、父に対して言うべきことを言えないと思ったのだ。
「だから、話し合いも参加しないで欲しいって頼んだんです」
「……なんだ。俺、てっきり……」
「てっきり?」
何でもないとそっぽを向かれ、リディアは首をかしげた。だがすぐにハッとする。
「それより、学校は大丈夫なんですか」
「ああー……思いきりさぼりだね」
公園の時計を見れば、針はちょうど二限目の終わりに指しかかろうとしていた。
「なんか、本当に申し訳ありません」
「いいよ。たぶん、授業受けていても気になって集中できなかっただろうし」
(走ってきた時、すごく焦ってたもんな……)
あんなロイドは初めて……いや、以前新聞部員に拉致された時も、すごく怒って心配してくれた。あの時も、今回も、本当に自分のことを心配してくれていたんだなとわかり、リディアは胸の辺りがジーンとなった。
「もうこうなったら、一日とことんさぼろうかな。リディアに付き合って」
「わたしはきちんと午後からは行くつもりでしたけど」
「そうなの? でもたまにはいいじゃん。あんまり遊べなかった夏休みの代わりってことで」
「ええー……」
けど、それもいいかもしれないとリディアは思った。一人で色々考えるより、ロイドとくだらない話をしていた方が、ずっと楽しいから。
(それにもう少しだけ、一緒にいたいかも……)
泣きそうになって、抱きしめてくれたこと。改めて思い返すと、まるで恋人同士みたいなことをしてしまって、すごく恥ずかしい。
(でも、嬉しかった)
泣いていいよ、って言ってくれて。不器用に慰めてくれたこと。彼の温もりを感じて、初めて自分がひどく傷ついていたことを実感した。ため込んでいた思いを口にできて、心が軽くなった。
(ありがとう、ロイド……)
「あの、ロイド。わたし――」
「あ、キャスパーだ」
えっ、と素っ頓狂な声をあげて、リディアは公園の入り口を見た。するとそこには、たしかにキャスパーの姿があり、ヘロヘロの状態でこちらへ走ってくるではないか。
「し、師匠。どうしたんですか」
「ど、どうしたもこうしたも……ロ、ロイドくんがリディアがいないって言うから、心配になって、……はぁ、とにかく……疲れました」
「あー……リディアが家にいるかもって思っていちおう訪ねたんだけど、やっぱりいなくて、それで公園の方に来たの」
ロイドの様子にキャスパーも慌てて追いかけてきたらしい。ロイドと違い、日頃運動不足のキャスパーははぁはぁと今にも息切れで倒れそうである。リディアは慌てて介抱した。
「師匠。心配かけてごめんなさい」
「うっ、ゴホゴホっ、……いえ、いいんです。リディアが無事なら」
ぼさぼさになってしまった髪で、キャスパーはいつかと同じようにふにゃりと気の抜けた笑みを返した。それを見て、自然とリディアも微笑む。
「迎えに来てくれた人、俺だけじゃなかったでしょ」
ボソッとロイドがリディアの耳元で言い、彼女はうんと頷いた。
血の繋がった父とはもう会うこともないだろうけど、自分にはずっとそばにいてくれた人がいる。
(師匠だけじゃなくて、ロイドも……)
キャスパーと話すロイドを見つめながら、リディアはある決心をするのだった。
***
「会長。わたし、次の生徒会長に立候補します」
リディアの発言に、ダニエルは目を丸くしたものの、すぐにそうかと頷いてくれた。
「お前がやる気になってくれて嬉しいよ」
しかし、と不思議そうな顔をする。
「どういう心境の変化だ? 以前は自信がないと断っていたじゃないか」
「そうですね……はっきりした理由があるわけではないんですけど、やる前から諦めるより、何事も挑戦することが大切かなと思いまして」
結果だめでも、それまでの努力や経験は無駄ではないだろう。リディアの中で、そう前向きに考えるようになれた。
「そうか。初めてのことで大変だろうが、頑張れ。応援してる」
「はい」
「それで? ロイドも一緒に立候補するのか?」
リディアの隣に立っていたロイドへ、ダニエルは目を向けた。
「いえ。俺は副会長に立候補しようと思います」
「会長じゃなくていいのか?」
「はい。リディアの方が生徒会長には向いていると思いますし、彼女のためなら、面倒事も背負う覚悟があるんで」
さらりと言ってのけたロイドに、やや面食らうダニエルと、どういうこと!? と内心思う生徒会メンバー。
「ロイド。まだわたしが会長になるって決まったわけではないですから……」
じゃっかん白けてしまった空気に、リディアが慌ててとりなすと、ロイドは何言ってんのという顔で言い返した。
「目指すって決めたからには、絶対なってもらうから。他の人に仕える気はないよ、俺」
「そ、そりゃ頑張りますけど、誰が相応しいかは生徒が選ぶわけですから……」
「だから選んでくれるよう、演説とか頑張るんだよ。ほら、新聞部とか、何かあったら力になりますって言ってくれたでしょ? ああいうのばんばん利用して、大々的にアピールしていこう」
「な、なるほど……」
ロイドの中では、すでに戦力を立て始めているらしい。実に頼もしい限りであるが、こうなってくるとやはり彼の方が相応しいのでは? と思えてくる。
「これでいいんだよ。俺が、リディアを支えたいんだから。何かあったら、俺が絶対守るから」
真剣な顔で言われ、リディアとしては真っ赤な顔で「はい……」と答えるしかなかった。
おお、と騒ぎ立てる生徒会メンバーに、「公私混同するなよ」と何かを察したダニエルは苦笑いして、当然ですとロイドは頷くのだった。
人前で泣いたのなんて、子どもの頃以来だろう。リディアは恥ずかしくて俯いてしまう。けれどロイドは特に気にしたふうでもなく、別にいいよとそっけなく言った。
「前にも言ったかもしれないけど、リディアは何でもかんでも一人でしょい込みすぎ。それで周りが心配するってことも、覚えておいてよ」
「う、すみません」
「謝って欲しいわけじゃない。俺は……もっとリディアに頼って欲しい」
今はまだ無理かもしれないけど、とじゃっかん落ち込んだ様子でロイドは付け加えた。
「ロイドには、もう十分頼ってますよ」
「どこがだよ。肝心な所は、キャスパーに頼ってるじゃん」
拗ねた口調で答えるロイドに、リディアはそんなことないですよと白状する。
「前、父と会った時の帰り道、はっきり言えなかったんですけど……ロイドといると、情けない自分を見せてしまいそうで、怖かったんです」
「は? そうなの?」
こくりと頷く。どうも、ロイドには今まで何かと助けてもらったせいか、つい甘えてしまう。でもそれでは、父に対して言うべきことを言えないと思ったのだ。
「だから、話し合いも参加しないで欲しいって頼んだんです」
「……なんだ。俺、てっきり……」
「てっきり?」
何でもないとそっぽを向かれ、リディアは首をかしげた。だがすぐにハッとする。
「それより、学校は大丈夫なんですか」
「ああー……思いきりさぼりだね」
公園の時計を見れば、針はちょうど二限目の終わりに指しかかろうとしていた。
「なんか、本当に申し訳ありません」
「いいよ。たぶん、授業受けていても気になって集中できなかっただろうし」
(走ってきた時、すごく焦ってたもんな……)
あんなロイドは初めて……いや、以前新聞部員に拉致された時も、すごく怒って心配してくれた。あの時も、今回も、本当に自分のことを心配してくれていたんだなとわかり、リディアは胸の辺りがジーンとなった。
「もうこうなったら、一日とことんさぼろうかな。リディアに付き合って」
「わたしはきちんと午後からは行くつもりでしたけど」
「そうなの? でもたまにはいいじゃん。あんまり遊べなかった夏休みの代わりってことで」
「ええー……」
けど、それもいいかもしれないとリディアは思った。一人で色々考えるより、ロイドとくだらない話をしていた方が、ずっと楽しいから。
(それにもう少しだけ、一緒にいたいかも……)
泣きそうになって、抱きしめてくれたこと。改めて思い返すと、まるで恋人同士みたいなことをしてしまって、すごく恥ずかしい。
(でも、嬉しかった)
泣いていいよ、って言ってくれて。不器用に慰めてくれたこと。彼の温もりを感じて、初めて自分がひどく傷ついていたことを実感した。ため込んでいた思いを口にできて、心が軽くなった。
(ありがとう、ロイド……)
「あの、ロイド。わたし――」
「あ、キャスパーだ」
えっ、と素っ頓狂な声をあげて、リディアは公園の入り口を見た。するとそこには、たしかにキャスパーの姿があり、ヘロヘロの状態でこちらへ走ってくるではないか。
「し、師匠。どうしたんですか」
「ど、どうしたもこうしたも……ロ、ロイドくんがリディアがいないって言うから、心配になって、……はぁ、とにかく……疲れました」
「あー……リディアが家にいるかもって思っていちおう訪ねたんだけど、やっぱりいなくて、それで公園の方に来たの」
ロイドの様子にキャスパーも慌てて追いかけてきたらしい。ロイドと違い、日頃運動不足のキャスパーははぁはぁと今にも息切れで倒れそうである。リディアは慌てて介抱した。
「師匠。心配かけてごめんなさい」
「うっ、ゴホゴホっ、……いえ、いいんです。リディアが無事なら」
ぼさぼさになってしまった髪で、キャスパーはいつかと同じようにふにゃりと気の抜けた笑みを返した。それを見て、自然とリディアも微笑む。
「迎えに来てくれた人、俺だけじゃなかったでしょ」
ボソッとロイドがリディアの耳元で言い、彼女はうんと頷いた。
血の繋がった父とはもう会うこともないだろうけど、自分にはずっとそばにいてくれた人がいる。
(師匠だけじゃなくて、ロイドも……)
キャスパーと話すロイドを見つめながら、リディアはある決心をするのだった。
***
「会長。わたし、次の生徒会長に立候補します」
リディアの発言に、ダニエルは目を丸くしたものの、すぐにそうかと頷いてくれた。
「お前がやる気になってくれて嬉しいよ」
しかし、と不思議そうな顔をする。
「どういう心境の変化だ? 以前は自信がないと断っていたじゃないか」
「そうですね……はっきりした理由があるわけではないんですけど、やる前から諦めるより、何事も挑戦することが大切かなと思いまして」
結果だめでも、それまでの努力や経験は無駄ではないだろう。リディアの中で、そう前向きに考えるようになれた。
「そうか。初めてのことで大変だろうが、頑張れ。応援してる」
「はい」
「それで? ロイドも一緒に立候補するのか?」
リディアの隣に立っていたロイドへ、ダニエルは目を向けた。
「いえ。俺は副会長に立候補しようと思います」
「会長じゃなくていいのか?」
「はい。リディアの方が生徒会長には向いていると思いますし、彼女のためなら、面倒事も背負う覚悟があるんで」
さらりと言ってのけたロイドに、やや面食らうダニエルと、どういうこと!? と内心思う生徒会メンバー。
「ロイド。まだわたしが会長になるって決まったわけではないですから……」
じゃっかん白けてしまった空気に、リディアが慌ててとりなすと、ロイドは何言ってんのという顔で言い返した。
「目指すって決めたからには、絶対なってもらうから。他の人に仕える気はないよ、俺」
「そ、そりゃ頑張りますけど、誰が相応しいかは生徒が選ぶわけですから……」
「だから選んでくれるよう、演説とか頑張るんだよ。ほら、新聞部とか、何かあったら力になりますって言ってくれたでしょ? ああいうのばんばん利用して、大々的にアピールしていこう」
「な、なるほど……」
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「これでいいんだよ。俺が、リディアを支えたいんだから。何かあったら、俺が絶対守るから」
真剣な顔で言われ、リディアとしては真っ赤な顔で「はい……」と答えるしかなかった。
おお、と騒ぎ立てる生徒会メンバーに、「公私混同するなよ」と何かを察したダニエルは苦笑いして、当然ですとロイドは頷くのだった。
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