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本編(ノーマルエンド)
59、全員お断りです!
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「ロイド……」
ストレートに諦めろと言ったことにも驚いたが、もったいないと自分を評価してくれたことがリディアには信じられなかった。
(ロイド。わたしを助けるためにそこまで言ってくれるなんて……)
なんていい友人なのだろう。ここまでロイドが言ってくれたのだ。彼らもきっとわかってくれる――
「それではい、わかりました。って言うとでも思ってんのか?」
「たとえあなたにそう言われても、リディアさんは誰にも渡しませんわ」
「オレも嫌だなー」
「そんなふうに言われちゃうと、逆に諦められないよね」
ことは決してなかった。全員清々しいほどロイドの願いを却下した。
(そうだよね。この人たちがそんな簡単に認めてくれるはずがないよね……)
だからこそ今とても面倒な状況になっているのだ。
「いかにもリディアのため、っていう言い方をしているけど、きみも結局リディアのことが好きなんじゃないの?」
どうしようか、と思っているリディアをよそに、メルヴィンがとんでもない爆弾発言をした。
「ちょっ、さすがにそれはありえ――」
「そうですね。否定はしません」
リディアはぎょっとした。ただ驚いているのは彼女だけで、他のメンバーは特にそんな様子はない。むしろやっぱり、と全員真顔である。一人リディアだけがロイドの肯定に狼狽えていた。
「あの、ロイド。何もそんな嘘までついて庇ってもらわなくても……」
「別に嘘じゃないし」
リディアを見つめながら、ロイドはもう一度嘘じゃないと繰り返した。
「こんなこと冗談でも言わない。俺はリディアのこと嫌いじゃないよ」
「ロイド……」
嫌いじゃない。
真っすぐとこちらを見つめて言った彼に、リディアはもうなんて言えばわからなかった。
「そこは好きだって言わないんだね」
「ヘタレだな」
「ロイド様はツンデレキャラなんですわ」
「よくわかんないけど、好意はもっと素直に伝えた方がいいと思うよ」
言いたい放題の外野に視線を戻し、ロイドは余裕の笑みで言い返した。
「そういうのは二人っきりの時に言うからいいんです」
彼の謎の自信に他四人もさすがにムッときたらしい。グレンが代表してロイドに言った。
「おい、一年坊主。悪いことは言わねえから、今のうちに大人しくひいておけ。な?」
「嫌です」
きっぱりとロイドが言った。ひくりとグレンの頬がひきつる。
「俺、リディア以外に友人がいないんです」
「えっ」
いるじゃないですか、と言おうとしたリディアの口をロイドは素早く塞いだ。
「はぁ? そんなの知らねえし」
「そしてリディアにも友人がいません」
もごっと、反論しようとしたリディアの口を強く押さえ、ロイドは微笑んだ。
「俺と彼女は互いになくてはならない存在なんです。どちらかが欠けていてはだめだし、他の相手でも意味がない。リディアじゃなきゃダメなんです。先輩方は人望もあって、たくさんの人に好かれるでしょう? 俺は彼女ではないと生きていけません。どうか可愛い後輩のためと思って、譲ってはくれませんか」
なるほど。ロイドらしい反論の仕方だ、と冷静ではないリディアは逆に冷静に思った。
「言うじゃねえか。いいぜ。だったらリディアに選ばせようぜ。この中から誰が一番好きか」
(は?)
「いいですよ。その方が公平ですし」
答えを聞きましょう、というようにロイドがリディアの口から手をどけた。
「リディア」
わかってるよね? というロイドの表情。
(え、え、え)
「リディアさん。わたくしを選んでくれますよね!?」
期待に満ちた眼差しでこちらを見つめるマリアン。
(えっ、ちょっと)
「オレ、リディアのためだったら何でもするよ」
無下に断ることが憚られるような上目遣いでお願いするセエレ。
(まって、まって)
「モテモテだね、リディアは」
もはやリディアが追いつめられているのを楽しんでいるかのようなメルヴィン。
(いや、だからわたしは)
リディア、と全員に見つめられ、当のリディアは一歩後退った。
「さぁ、おまえは誰を選ぶんだ?」
答えを言えというように見下ろすグレン。
(な、なんでこんなことに……)
好きだとか、選ぶとか、リディアにはまったく状況が飲み込めなかった。一体なぜこんな話になったんだ。
「わ、わたしは……」
「「「「「「わたしは……?」」」」」
じっと己を見つめる視線に、リディアはごくりと唾を飲み込んだ。
「だ、誰も選びませんっ!!!」
言うやいなや、彼女はくるりと向きを変え全速力で走り出した。
「あ、待て!」
「ちょっと。他はともかく俺まで断るってどういうこと!?」
「リディアさん! きちんと理由を話して下さい!」
「リディア逃げないで!」
「誰も選ばないだなんて、罪な女性だね、リディア」
(いや、だってそうでしょう!?)
グレンとメルヴィンは性格に問題がありすぎて人として無理だ。マリアンは女同士で、そんな感情を持つなんて……考えたことない。というか今まで嫌われていた相手に今日突然好きだと言われてもちょっと待って下さいとしか言えない。さっきはつい雰囲気で流されそうになってけれど、やっぱりだめだ!
セエレは悪い人じゃないけれど、彼とはずっと友人のつもりで接してきた。というか、彼を選んだら見た目的にリディアはアウトだ。ロイドも友人としては好ましく思っているが、恋人とかそういうのは……なんかちょっと違う気がする。
「だから無理です!!」
そもそも自分は恋愛する気なんてさらさらない。誰かに振り回されず、一人で自由に、たくましく生きていくのがリディアの願いだ。
「どうか見逃して下さい!!」
「お前が逃げるなら、俺たちはどこまでも追いかけるまでだ」
そう言ってグレンたちが、リディアの後ろを追いかけてくる。セエレにいたっては魔法を行使して上空を飛んでくるではないか。
こういうのは前にもあった。というかいつも、いつも自分はこういう目に遭ってばかりだ。
(――ああ、わたしの人生ってこんなのばっかりなのか!)
でも捕まるわけにはいかなかった。追いかけてくるなら、こちらも全力で逃げるのみ。
(そうだ。こうなったら、生徒会でも何でも入って、どこまでも逃げよう!)
生徒会に入ったところで彼らと縁が切れるとも、簡単に自分を諦めてくれるとは限らないが……その時はその時だと、リディアは決意し、夕暮れ染まる並木道を風のように駆け抜けていくのだった。
ノーマルエンド ……という名のトゥルーエンド?
ストレートに諦めろと言ったことにも驚いたが、もったいないと自分を評価してくれたことがリディアには信じられなかった。
(ロイド。わたしを助けるためにそこまで言ってくれるなんて……)
なんていい友人なのだろう。ここまでロイドが言ってくれたのだ。彼らもきっとわかってくれる――
「それではい、わかりました。って言うとでも思ってんのか?」
「たとえあなたにそう言われても、リディアさんは誰にも渡しませんわ」
「オレも嫌だなー」
「そんなふうに言われちゃうと、逆に諦められないよね」
ことは決してなかった。全員清々しいほどロイドの願いを却下した。
(そうだよね。この人たちがそんな簡単に認めてくれるはずがないよね……)
だからこそ今とても面倒な状況になっているのだ。
「いかにもリディアのため、っていう言い方をしているけど、きみも結局リディアのことが好きなんじゃないの?」
どうしようか、と思っているリディアをよそに、メルヴィンがとんでもない爆弾発言をした。
「ちょっ、さすがにそれはありえ――」
「そうですね。否定はしません」
リディアはぎょっとした。ただ驚いているのは彼女だけで、他のメンバーは特にそんな様子はない。むしろやっぱり、と全員真顔である。一人リディアだけがロイドの肯定に狼狽えていた。
「あの、ロイド。何もそんな嘘までついて庇ってもらわなくても……」
「別に嘘じゃないし」
リディアを見つめながら、ロイドはもう一度嘘じゃないと繰り返した。
「こんなこと冗談でも言わない。俺はリディアのこと嫌いじゃないよ」
「ロイド……」
嫌いじゃない。
真っすぐとこちらを見つめて言った彼に、リディアはもうなんて言えばわからなかった。
「そこは好きだって言わないんだね」
「ヘタレだな」
「ロイド様はツンデレキャラなんですわ」
「よくわかんないけど、好意はもっと素直に伝えた方がいいと思うよ」
言いたい放題の外野に視線を戻し、ロイドは余裕の笑みで言い返した。
「そういうのは二人っきりの時に言うからいいんです」
彼の謎の自信に他四人もさすがにムッときたらしい。グレンが代表してロイドに言った。
「おい、一年坊主。悪いことは言わねえから、今のうちに大人しくひいておけ。な?」
「嫌です」
きっぱりとロイドが言った。ひくりとグレンの頬がひきつる。
「俺、リディア以外に友人がいないんです」
「えっ」
いるじゃないですか、と言おうとしたリディアの口をロイドは素早く塞いだ。
「はぁ? そんなの知らねえし」
「そしてリディアにも友人がいません」
もごっと、反論しようとしたリディアの口を強く押さえ、ロイドは微笑んだ。
「俺と彼女は互いになくてはならない存在なんです。どちらかが欠けていてはだめだし、他の相手でも意味がない。リディアじゃなきゃダメなんです。先輩方は人望もあって、たくさんの人に好かれるでしょう? 俺は彼女ではないと生きていけません。どうか可愛い後輩のためと思って、譲ってはくれませんか」
なるほど。ロイドらしい反論の仕方だ、と冷静ではないリディアは逆に冷静に思った。
「言うじゃねえか。いいぜ。だったらリディアに選ばせようぜ。この中から誰が一番好きか」
(は?)
「いいですよ。その方が公平ですし」
答えを聞きましょう、というようにロイドがリディアの口から手をどけた。
「リディア」
わかってるよね? というロイドの表情。
(え、え、え)
「リディアさん。わたくしを選んでくれますよね!?」
期待に満ちた眼差しでこちらを見つめるマリアン。
(えっ、ちょっと)
「オレ、リディアのためだったら何でもするよ」
無下に断ることが憚られるような上目遣いでお願いするセエレ。
(まって、まって)
「モテモテだね、リディアは」
もはやリディアが追いつめられているのを楽しんでいるかのようなメルヴィン。
(いや、だからわたしは)
リディア、と全員に見つめられ、当のリディアは一歩後退った。
「さぁ、おまえは誰を選ぶんだ?」
答えを言えというように見下ろすグレン。
(な、なんでこんなことに……)
好きだとか、選ぶとか、リディアにはまったく状況が飲み込めなかった。一体なぜこんな話になったんだ。
「わ、わたしは……」
「「「「「「わたしは……?」」」」」
じっと己を見つめる視線に、リディアはごくりと唾を飲み込んだ。
「だ、誰も選びませんっ!!!」
言うやいなや、彼女はくるりと向きを変え全速力で走り出した。
「あ、待て!」
「ちょっと。他はともかく俺まで断るってどういうこと!?」
「リディアさん! きちんと理由を話して下さい!」
「リディア逃げないで!」
「誰も選ばないだなんて、罪な女性だね、リディア」
(いや、だってそうでしょう!?)
グレンとメルヴィンは性格に問題がありすぎて人として無理だ。マリアンは女同士で、そんな感情を持つなんて……考えたことない。というか今まで嫌われていた相手に今日突然好きだと言われてもちょっと待って下さいとしか言えない。さっきはつい雰囲気で流されそうになってけれど、やっぱりだめだ!
セエレは悪い人じゃないけれど、彼とはずっと友人のつもりで接してきた。というか、彼を選んだら見た目的にリディアはアウトだ。ロイドも友人としては好ましく思っているが、恋人とかそういうのは……なんかちょっと違う気がする。
「だから無理です!!」
そもそも自分は恋愛する気なんてさらさらない。誰かに振り回されず、一人で自由に、たくましく生きていくのがリディアの願いだ。
「どうか見逃して下さい!!」
「お前が逃げるなら、俺たちはどこまでも追いかけるまでだ」
そう言ってグレンたちが、リディアの後ろを追いかけてくる。セエレにいたっては魔法を行使して上空を飛んでくるではないか。
こういうのは前にもあった。というかいつも、いつも自分はこういう目に遭ってばかりだ。
(――ああ、わたしの人生ってこんなのばっかりなのか!)
でも捕まるわけにはいかなかった。追いかけてくるなら、こちらも全力で逃げるのみ。
(そうだ。こうなったら、生徒会でも何でも入って、どこまでも逃げよう!)
生徒会に入ったところで彼らと縁が切れるとも、簡単に自分を諦めてくれるとは限らないが……その時はその時だと、リディアは決意し、夕暮れ染まる並木道を風のように駆け抜けていくのだった。
ノーマルエンド ……という名のトゥルーエンド?
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