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本編(ノーマルエンド)
54、何事も平和的解決が一番
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「……ねぇ、リディア。オレもリディアのために頑張ったんですけど?」
「えっ、あっ、そうですよね。セエレもありがとうございます!」
不機嫌そうな声で口を挟んできたセエレに、リディアは慌ててお礼を言った。
「急に地震があって、驚いたんですけど……あれ、もしかして」
まさか、と思って二人を見ると、ロイドは決まり悪げに目を逸らし、対してセエレは得意げに胸を張った。
「リディアを攫って何かしようって考えたら、きっとここしかないって思って。それで、相手を油断させるために建物ごと揺らしちゃおうって」
「揺らしちゃおうって……」
そんな茶目っ気たっぷりに言われても……。
「いちおう、建物は壊さない程度で。自分の身が危ないって思ったら、人質ほったらかして逃げるでしょ。その隙にリディアを救おうっていう作戦。……すごい雑だけど」
自覚があったのか、ロイドの声には申し訳なさが多少含まれていた。
「でさ、リディアの姿が窓からちょうど見えるなって探し当てたら、男二人に抱きつかれてるじゃない? これは大変だ、って気づいたら窓ぶち破ってたよね」
「突然急下降したから、俺は死ぬかと思った……」
「な、なるほど……」
とにかくピンチだった所を助けに現れた。もうそういうことにしておこうとリディアは自分を納得させた。
「だからさ。そこの二人……とマリアン・レライエも消しちゃっていいよね?」
「いやだめですよ!」
ここは流されちゃだめだとリディアは慌ててセエレを止めた。
「襲われかけていたわけじゃないなら、一体どういう状況だったわけ? きちんと説明してくれないと、俺もセエレを止めるつもりはないから」
剣呑な雰囲気を隠そうともせず、ロイドはマシューたち三人を睨みつけた。彼らはひええっと震え上がる。
(こりゃあ、正直に話したら先輩たちの命がないかもしれない……)
だけど正直に話さなければリディアの方が怒られるわけで。
「えっと。最終的には和解したんですよ? それは覚えといて下さいね」
「この人たちが悪いか、すっごく悪いかどうかは、オレたちが判断することだから」
「前置きはいいから。さっさと話して」
「はい……」
こりゃだめかもしれないと、リディアは縋るように見てくる三人に心の中で謝罪したのだった。
***
「はぁ……ほんと、あんたって人は」
案の定、リディアの嘘偽りない説明を聞き終えたロイドは深々とため息をついて、セエレもじゃっかん呆れた様子でこちらを見ている。
「今までの不満が積もり積もって逆上したマシュー・キャメロンにマリアン・レライエが襲われかけて、それをあんたが止めに入って……それでなに? 三人まとめて説教してたら、和解したって、どうなったらそういう結末になるの」
「リディアすごすぎ……」
「いやぁ、あはは……」
てかさ、とロイドはちらりと床に正座するマシューとベンジャミンに目をやる。彼ら(マリアン含めて)はリディアが話している間、ロイドとセエレに凍てつくような目で見られ、自発的に座り込んだのだった。何なら今にも頭まで下げてきそうな顔色の悪さであった。
「いつの間にそんな新聞部のこと調べたの?」
「えっと、生徒会の仕事を手伝わされた時にレナード殿下に新聞部の発足理由を聞いたり、図書館に寄って昔の記事を読んだり、あと、師匠……わたしと一緒に暮らしてた人がこの学園の在校生だったので、その人からも新聞部のことをちょっとたずねました」
(まぁ、師匠の話は途中から新聞全般に対する愚痴になってたけど……)
やっぱり一番よくわかったのは、新聞部の書いた記事だった。
「……よく、時間とれたね」
「はは、正直大変でした」
ちょっとした隙間時間を見逃さず、睡眠時間も削ったりした。
(でもおかげで新聞部を説得できたし……)
結果多少無理してでもよかったかな、とリディアは思った。
「それに読み応えがあって、考えられましたしね。昔の記事は、ですけど」
「リ、リディア嬢!」
マシューとベンジャミンはリディアの苦労に感極まったように涙を流して、こちらへ抱き着いてこようとした。その前にロイドとセエレに足をひっかけられ、床に顔からすっ転んでしまったが。
「リディアは穏便に許そうとしているみたいだけど、オレは正直全くのお咎めなしってのは納得できないなー」
「俺もセエレと同じ。特にそこの女に対しては、はいそうですかって許せない前科がある」
ロイドの鋭い一瞥に、マリアンは泣きそうな顔で怯えていた。セエレもまた、ロイドの意見に同意するかのように黙っている。
「まぁ、いいじゃないですか」
重苦しい沈黙を破り、リディアはあっけらかんとした調子で言った。
「……」
「……」
「ほら、とりあえず今日はもう遅いですし、帰りましょう。ね? あ、三人は寮生ですよね? 遅くなったら怒られますし、早く帰らないと!」
さっ、さっ、と三人を急かすように立たせて教室から追い出す。彼らが本当に寮生かどうかは知らなかったが、この際どうでもよかった。
「リディアさん……」
「マリアン様。気をつけて帰って下さいね」
不安そうな彼女を今は無視して、リディアは扉をぴしゃりと閉めた。
「リディア」
振り返りたくないなぁと思いつつ振り返れば、物言いたげな二人がそろってこちらを見ていた。
「お二人の言いたいことはわかります。でも、こうして何事もなく済んだんですから。この話はこれでお終い、ということで! ね?」
またもや二人はそろって顔を合わせると、深々とため息をついたのだった。
「甘い」
「そんなんだから毎回よからぬ人間に付け狙われるんだよ」
「うっ……そうかもしれませんけど」
でも、とリディアは思うのだ。
「この先まったく顔を合わせないってことはないと思うんですよ。世の中狭いですし。学園内ですし。今回のことで三人を手酷く痛めつけても、偶然会った時とか、こう、なんか、お互いに後味悪いっていうか……上手くいくこともいかないっていうか」
「別に関わらなければいいだけでしょ。あんな人間」
「そうだよね。むしろここでどっちが上下関係が上か、はっきり示しておいた方がいいと思うんだけど」
たしかにロイドやセエレの意見も一理ある気がする。白黒はっきりつけた方が、正しいのかもしれない。
(それでもわたしは……)
「わたしは……お二人と違って然るべき身分じゃありません。だから、そういうのは必要じゃないんです」
それよりも、と彼女は笑った。
「今回のことで恩を売っておいて、いざっていう時に助けてもらった方が、ずっといいと思いませんか?」
昨日の敵は今日の友。いつかリディアが困った時、彼らは今日この日を思い出して助けてくれることだろう。植え付けられた恐怖や憎悪より、自発的に芽生えた尊敬や感謝の心で動く原動力はきっと素晴らしいはずだ。
「だから、いいんですよ」
ね、とリディアが言えば、二人は鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くしていたが、やがてセエレがふはっと笑い声を立てた。
「リディアってばただのお人好しって思ってたけど、意外とそこらへんしっかりしてるんだね」
「あんな人たちが役に立つ日が来るとは、俺は思わないけど……まぁ、また逆恨みされてもあれだからこれでよかったのかもね」
呆れたように返しつつ、なんだかんだロイドも納得してくれたようでリディアは心の中でよかったと一安心した。悔恨も残さず、穏便に解決する。これが一番である。
「それじゃあ、そろそろわたしたちも帰りましょうよ。あ、帰りはちゃんと階段降りて帰りましょうね」
「えー。めんどい」
飛んで帰ろうよ、というセエレにリディアはだめですよと叱った。
「誰かに見られると面倒ですし。というか今さらですけど、窓ガラス割っちゃったの、どうしましょう」
「それは大丈夫。オレが魔法でちょちょいのちょいで修復しておくから」
「それならいいんですけど……」
弁償にならずよかったと、リディアは胸をなで下ろした。
「それにしても、いきなり窓をぶち破って入って来るのは本当に驚きました。しかもロイドも一緒に」
「ああ。それは俺とセエレが上からで、下からは……あ」
やば、とロイドが呟いた。
「ロイド?」
「建物を揺らして、収まった瞬間に逃げ出すあいつらを下からグレン・グレシアとメルヴィン・シトリーが捕える段取りになってたんだ」
「ええっ!」
それってすごく命が危ないやつじゃないですか、とリディアが言いかけた時、ぎゃあああという三人分の悲鳴が響き渡ってきた。
「あちゃー……少し遅かったっぽいね」
のんきそうに言ったセエレに、リディアは眩暈がする思いで、このまま気を失ってしまいたかった。
「えっ、あっ、そうですよね。セエレもありがとうございます!」
不機嫌そうな声で口を挟んできたセエレに、リディアは慌ててお礼を言った。
「急に地震があって、驚いたんですけど……あれ、もしかして」
まさか、と思って二人を見ると、ロイドは決まり悪げに目を逸らし、対してセエレは得意げに胸を張った。
「リディアを攫って何かしようって考えたら、きっとここしかないって思って。それで、相手を油断させるために建物ごと揺らしちゃおうって」
「揺らしちゃおうって……」
そんな茶目っ気たっぷりに言われても……。
「いちおう、建物は壊さない程度で。自分の身が危ないって思ったら、人質ほったらかして逃げるでしょ。その隙にリディアを救おうっていう作戦。……すごい雑だけど」
自覚があったのか、ロイドの声には申し訳なさが多少含まれていた。
「でさ、リディアの姿が窓からちょうど見えるなって探し当てたら、男二人に抱きつかれてるじゃない? これは大変だ、って気づいたら窓ぶち破ってたよね」
「突然急下降したから、俺は死ぬかと思った……」
「な、なるほど……」
とにかくピンチだった所を助けに現れた。もうそういうことにしておこうとリディアは自分を納得させた。
「だからさ。そこの二人……とマリアン・レライエも消しちゃっていいよね?」
「いやだめですよ!」
ここは流されちゃだめだとリディアは慌ててセエレを止めた。
「襲われかけていたわけじゃないなら、一体どういう状況だったわけ? きちんと説明してくれないと、俺もセエレを止めるつもりはないから」
剣呑な雰囲気を隠そうともせず、ロイドはマシューたち三人を睨みつけた。彼らはひええっと震え上がる。
(こりゃあ、正直に話したら先輩たちの命がないかもしれない……)
だけど正直に話さなければリディアの方が怒られるわけで。
「えっと。最終的には和解したんですよ? それは覚えといて下さいね」
「この人たちが悪いか、すっごく悪いかどうかは、オレたちが判断することだから」
「前置きはいいから。さっさと話して」
「はい……」
こりゃだめかもしれないと、リディアは縋るように見てくる三人に心の中で謝罪したのだった。
***
「はぁ……ほんと、あんたって人は」
案の定、リディアの嘘偽りない説明を聞き終えたロイドは深々とため息をついて、セエレもじゃっかん呆れた様子でこちらを見ている。
「今までの不満が積もり積もって逆上したマシュー・キャメロンにマリアン・レライエが襲われかけて、それをあんたが止めに入って……それでなに? 三人まとめて説教してたら、和解したって、どうなったらそういう結末になるの」
「リディアすごすぎ……」
「いやぁ、あはは……」
てかさ、とロイドはちらりと床に正座するマシューとベンジャミンに目をやる。彼ら(マリアン含めて)はリディアが話している間、ロイドとセエレに凍てつくような目で見られ、自発的に座り込んだのだった。何なら今にも頭まで下げてきそうな顔色の悪さであった。
「いつの間にそんな新聞部のこと調べたの?」
「えっと、生徒会の仕事を手伝わされた時にレナード殿下に新聞部の発足理由を聞いたり、図書館に寄って昔の記事を読んだり、あと、師匠……わたしと一緒に暮らしてた人がこの学園の在校生だったので、その人からも新聞部のことをちょっとたずねました」
(まぁ、師匠の話は途中から新聞全般に対する愚痴になってたけど……)
やっぱり一番よくわかったのは、新聞部の書いた記事だった。
「……よく、時間とれたね」
「はは、正直大変でした」
ちょっとした隙間時間を見逃さず、睡眠時間も削ったりした。
(でもおかげで新聞部を説得できたし……)
結果多少無理してでもよかったかな、とリディアは思った。
「それに読み応えがあって、考えられましたしね。昔の記事は、ですけど」
「リ、リディア嬢!」
マシューとベンジャミンはリディアの苦労に感極まったように涙を流して、こちらへ抱き着いてこようとした。その前にロイドとセエレに足をひっかけられ、床に顔からすっ転んでしまったが。
「リディアは穏便に許そうとしているみたいだけど、オレは正直全くのお咎めなしってのは納得できないなー」
「俺もセエレと同じ。特にそこの女に対しては、はいそうですかって許せない前科がある」
ロイドの鋭い一瞥に、マリアンは泣きそうな顔で怯えていた。セエレもまた、ロイドの意見に同意するかのように黙っている。
「まぁ、いいじゃないですか」
重苦しい沈黙を破り、リディアはあっけらかんとした調子で言った。
「……」
「……」
「ほら、とりあえず今日はもう遅いですし、帰りましょう。ね? あ、三人は寮生ですよね? 遅くなったら怒られますし、早く帰らないと!」
さっ、さっ、と三人を急かすように立たせて教室から追い出す。彼らが本当に寮生かどうかは知らなかったが、この際どうでもよかった。
「リディアさん……」
「マリアン様。気をつけて帰って下さいね」
不安そうな彼女を今は無視して、リディアは扉をぴしゃりと閉めた。
「リディア」
振り返りたくないなぁと思いつつ振り返れば、物言いたげな二人がそろってこちらを見ていた。
「お二人の言いたいことはわかります。でも、こうして何事もなく済んだんですから。この話はこれでお終い、ということで! ね?」
またもや二人はそろって顔を合わせると、深々とため息をついたのだった。
「甘い」
「そんなんだから毎回よからぬ人間に付け狙われるんだよ」
「うっ……そうかもしれませんけど」
でも、とリディアは思うのだ。
「この先まったく顔を合わせないってことはないと思うんですよ。世の中狭いですし。学園内ですし。今回のことで三人を手酷く痛めつけても、偶然会った時とか、こう、なんか、お互いに後味悪いっていうか……上手くいくこともいかないっていうか」
「別に関わらなければいいだけでしょ。あんな人間」
「そうだよね。むしろここでどっちが上下関係が上か、はっきり示しておいた方がいいと思うんだけど」
たしかにロイドやセエレの意見も一理ある気がする。白黒はっきりつけた方が、正しいのかもしれない。
(それでもわたしは……)
「わたしは……お二人と違って然るべき身分じゃありません。だから、そういうのは必要じゃないんです」
それよりも、と彼女は笑った。
「今回のことで恩を売っておいて、いざっていう時に助けてもらった方が、ずっといいと思いませんか?」
昨日の敵は今日の友。いつかリディアが困った時、彼らは今日この日を思い出して助けてくれることだろう。植え付けられた恐怖や憎悪より、自発的に芽生えた尊敬や感謝の心で動く原動力はきっと素晴らしいはずだ。
「だから、いいんですよ」
ね、とリディアが言えば、二人は鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くしていたが、やがてセエレがふはっと笑い声を立てた。
「リディアってばただのお人好しって思ってたけど、意外とそこらへんしっかりしてるんだね」
「あんな人たちが役に立つ日が来るとは、俺は思わないけど……まぁ、また逆恨みされてもあれだからこれでよかったのかもね」
呆れたように返しつつ、なんだかんだロイドも納得してくれたようでリディアは心の中でよかったと一安心した。悔恨も残さず、穏便に解決する。これが一番である。
「それじゃあ、そろそろわたしたちも帰りましょうよ。あ、帰りはちゃんと階段降りて帰りましょうね」
「えー。めんどい」
飛んで帰ろうよ、というセエレにリディアはだめですよと叱った。
「誰かに見られると面倒ですし。というか今さらですけど、窓ガラス割っちゃったの、どうしましょう」
「それは大丈夫。オレが魔法でちょちょいのちょいで修復しておくから」
「それならいいんですけど……」
弁償にならずよかったと、リディアは胸をなで下ろした。
「それにしても、いきなり窓をぶち破って入って来るのは本当に驚きました。しかもロイドも一緒に」
「ああ。それは俺とセエレが上からで、下からは……あ」
やば、とロイドが呟いた。
「ロイド?」
「建物を揺らして、収まった瞬間に逃げ出すあいつらを下からグレン・グレシアとメルヴィン・シトリーが捕える段取りになってたんだ」
「ええっ!」
それってすごく命が危ないやつじゃないですか、とリディアが言いかけた時、ぎゃあああという三人分の悲鳴が響き渡ってきた。
「あちゃー……少し遅かったっぽいね」
のんきそうに言ったセエレに、リディアは眩暈がする思いで、このまま気を失ってしまいたかった。
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