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本編(ノーマルエンド)
11、セエレ
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「はあ、今日も疲れたなあ」
放課後。リディアは今日もなんとか一日を乗り切った自分を褒め称えた。
(あの二人と関わると、やっぱりうんと疲れるなあ……)
せめてどちらか片方だけなら、と思うものの必ずセットである。おかげで疲労は二倍……いや、その十倍だ。
(どっちも正反対の性格しているのに仲がいいんだよね……)
二人のような関係を悪友というのだろうか。
「……っと、余計なこと考えていないでさっさと帰ろう。下手したらまた追いかけられるよ」
レナードからは相手をしろと言われたが、何も毎日相手をする必要はないだろう。すでに昼休みも一緒に過ごし、今日のノルマは十分果たしたはず。
(それに今日はバイトの日だ。ただでさえ金欠なんだから、稼げる時に稼がないと!)
偶然ばったりと鉢合わせしないようリディアはこっそり裏門から帰ることにした。こうすればきっと出会うこともないだろう。少なくとも、グレンとメルヴィンの二人には。
「――別の人が倒れていらっしゃる」
草木が生い茂る地面に、この学園の制服を着た男子生徒が仰向けで倒れていた。どうしていつも自分はすんなりと家へ帰ることが許されないのだろうか。
(いや、今はそんなことより!)
「大丈夫ですか!?」
慌てて、リディアは倒れている生徒へと駆け寄った。膝をつき、大声で呼びかける。前髪が風に揺れ、安らかな寝顔に安心するよりも血の気が引いた。
(まさか、もう死んでいる!?)
頭突きする勢いで心臓へ耳を押し当てる。どく、どく、と取りあえず規則的に動いている心臓の音が聞こえてきてリディアはほっと胸をなで下ろす。
「ん……、なに?」
間の抜けた声に、ばっと顔を上げる。
「あの、大丈夫です、か……」
心配する声を途切れさせ、リディアは目を瞠った。目を擦りながら起き上がり、閉じられていた男子生徒の目がゆっくりと開かれる。その色と、リディアの瞳がぶつかった。
「あ……」
呟いたのは少年で、ほんのわずかだが、二人の間に沈黙が落ちた。だが彼が目を覆って俯くと、リディアは我に返り、そっと彼の背中に手を添えた。
「大丈夫ですか。どこか気持ち悪いんですか」
「えっと……うん。大丈夫。猫と遊んでいたら、気持ちよくなってそのまま寝てたみたい」
あはは、と明るく言うものの、彼は顔を上げようとしない。プラチナブロンドと言われる白銀に近い金色の髪をした少年の態度に、リディアはどうしようかと悩んでしまう。
「本当に大丈夫ですか。誰か呼んできましょうか」
リディアが心から心配していることが伝わったのだろう。ようやく彼が顔を上げた。そして安心させるように微笑んだのだった。
「本当に、そこまでしてもらわなくても大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「でも……」
じっと青みがかった緑の瞳を見つめて言えば、彼はやがて恐る恐るといった体で口を開いた。
「キミ、オレのこと怖くないの?」
「怖い?」
「ほら、さっき……」
リディアは一瞬困惑したものの、すぐに相手の目を見つめ返して言った。
「いいえ」
驚きはしたが、怖くはなかった。変わった人だとは思ったけれど。リディアの言葉に少年は目を丸くして、やがて無邪気な笑顔で言った。
「キミ、変わってるね」
(地面で寝てしまうような人に言われたくないな……)
「……寝るなら、ちゃんと寮に帰って寝た方がいいですよ」
それじゃあ、と去ろうとしたリディアの手首をまたするりと彼は捕まえた。振り向いた彼の姿が、日の光に当たってきらりと輝く。
「ねえ、キミの名前を教えて」
「……リディア・ヴァウル、ですけど」
リディア、と彼は繰り返した。
「今度、また会ったら話してもいい?」
「はあ、別に構いませんが……」
それより彼は誰なのだろう。何年生なのだろうか。見たところこの学園の生徒のようだが、背もリディアより低く、どこか幼い顔立ちなので中等部の子かもしれなかった。けれどだとしたらどうしてここに……?
そういった疑問が顔に出ていたのだろう。少年は人懐っこそうな笑みを浮かべて答えてくれた。
「オレの名前はセエレ。この学園に入学したばかりの、一年生だよ」
よろしくね、とセエレは目を細めた。幼い顔立ちがどこか大人びて見え、リディアは不思議な子だと思った。
放課後。リディアは今日もなんとか一日を乗り切った自分を褒め称えた。
(あの二人と関わると、やっぱりうんと疲れるなあ……)
せめてどちらか片方だけなら、と思うものの必ずセットである。おかげで疲労は二倍……いや、その十倍だ。
(どっちも正反対の性格しているのに仲がいいんだよね……)
二人のような関係を悪友というのだろうか。
「……っと、余計なこと考えていないでさっさと帰ろう。下手したらまた追いかけられるよ」
レナードからは相手をしろと言われたが、何も毎日相手をする必要はないだろう。すでに昼休みも一緒に過ごし、今日のノルマは十分果たしたはず。
(それに今日はバイトの日だ。ただでさえ金欠なんだから、稼げる時に稼がないと!)
偶然ばったりと鉢合わせしないようリディアはこっそり裏門から帰ることにした。こうすればきっと出会うこともないだろう。少なくとも、グレンとメルヴィンの二人には。
「――別の人が倒れていらっしゃる」
草木が生い茂る地面に、この学園の制服を着た男子生徒が仰向けで倒れていた。どうしていつも自分はすんなりと家へ帰ることが許されないのだろうか。
(いや、今はそんなことより!)
「大丈夫ですか!?」
慌てて、リディアは倒れている生徒へと駆け寄った。膝をつき、大声で呼びかける。前髪が風に揺れ、安らかな寝顔に安心するよりも血の気が引いた。
(まさか、もう死んでいる!?)
頭突きする勢いで心臓へ耳を押し当てる。どく、どく、と取りあえず規則的に動いている心臓の音が聞こえてきてリディアはほっと胸をなで下ろす。
「ん……、なに?」
間の抜けた声に、ばっと顔を上げる。
「あの、大丈夫です、か……」
心配する声を途切れさせ、リディアは目を瞠った。目を擦りながら起き上がり、閉じられていた男子生徒の目がゆっくりと開かれる。その色と、リディアの瞳がぶつかった。
「あ……」
呟いたのは少年で、ほんのわずかだが、二人の間に沈黙が落ちた。だが彼が目を覆って俯くと、リディアは我に返り、そっと彼の背中に手を添えた。
「大丈夫ですか。どこか気持ち悪いんですか」
「えっと……うん。大丈夫。猫と遊んでいたら、気持ちよくなってそのまま寝てたみたい」
あはは、と明るく言うものの、彼は顔を上げようとしない。プラチナブロンドと言われる白銀に近い金色の髪をした少年の態度に、リディアはどうしようかと悩んでしまう。
「本当に大丈夫ですか。誰か呼んできましょうか」
リディアが心から心配していることが伝わったのだろう。ようやく彼が顔を上げた。そして安心させるように微笑んだのだった。
「本当に、そこまでしてもらわなくても大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「でも……」
じっと青みがかった緑の瞳を見つめて言えば、彼はやがて恐る恐るといった体で口を開いた。
「キミ、オレのこと怖くないの?」
「怖い?」
「ほら、さっき……」
リディアは一瞬困惑したものの、すぐに相手の目を見つめ返して言った。
「いいえ」
驚きはしたが、怖くはなかった。変わった人だとは思ったけれど。リディアの言葉に少年は目を丸くして、やがて無邪気な笑顔で言った。
「キミ、変わってるね」
(地面で寝てしまうような人に言われたくないな……)
「……寝るなら、ちゃんと寮に帰って寝た方がいいですよ」
それじゃあ、と去ろうとしたリディアの手首をまたするりと彼は捕まえた。振り向いた彼の姿が、日の光に当たってきらりと輝く。
「ねえ、キミの名前を教えて」
「……リディア・ヴァウル、ですけど」
リディア、と彼は繰り返した。
「今度、また会ったら話してもいい?」
「はあ、別に構いませんが……」
それより彼は誰なのだろう。何年生なのだろうか。見たところこの学園の生徒のようだが、背もリディアより低く、どこか幼い顔立ちなので中等部の子かもしれなかった。けれどだとしたらどうしてここに……?
そういった疑問が顔に出ていたのだろう。少年は人懐っこそうな笑みを浮かべて答えてくれた。
「オレの名前はセエレ。この学園に入学したばかりの、一年生だよ」
よろしくね、とセエレは目を細めた。幼い顔立ちがどこか大人びて見え、リディアは不思議な子だと思った。
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