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本編(ノーマルエンド)
8、辛い現実
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現実はやっぱり甘くなかった。
――あんたみたいな留年した人間と関わるとこっちまで堕落しそうだし? 友達ごっこやりたいなら、他の人間を探しなよ。というか、その前にきちんと勉強するべきでしょ。
ちらりと隣席のロイドを覗き見る。彼はいたって真面目な態度で教師の説明に耳を傾けていた。先ほどのリディアとのやり取りもまるで気にしていないようだった。
(そうだよね……どんな理由があるにせよ、留年した人間なんて不真面目な生徒だよね。関わりたくないよね……)
事情を知らない者からすればきっとリディアは頭の悪い怠け者に見えるのだろう。グレンやメルヴィンのような問題のある生徒ではなく、普通の生徒であるロイドが指摘したのだ。一気に現実へと引き戻された気がした。
(大人しく勉強に専念しよう……)
二回目の授業だが、やはり忘れているところも多々あった。たしかに友人云々の前に勉強に集中するのが何より優先すべきことだろう。
真面目に授業を受け、良い成績を出す。そうすれば、いつかは周囲も認めてくれるはずだ。今のリディアはそう思うしかなかった。
***
授業も終え、放課後となった。長い一日だった。すでにどっと疲れていたが、まだ今日はすべきことがあった。非常に面倒だが、無視できない相手からの呼び出しであった。
(はぁ……嫌だなぁ……)
周りの生徒は一日の授業から解放され、放課後をどう過ごすかで楽しそうに談笑する雰囲気で満ちていた。
(わたしも帰りたい。今日はせっかくアルバイトもないのに……)
だがうだうだ言っていても仕方がない。さっさと終わらせて帰ろうと立ち上がった。
「あ……」
ちょうど席を立ったロイドと視線がかち合う。
「えっと、また明日」
「……また明日」
そっけなく答えられ、背を向けられた。無視されることはなかった。
(うーん……友達は無理でも、挨拶するくらいはいいのかな……)
今まで人に寄って来られるだけ(しかもそれもグレンとメルヴィンのみ)で、自分から積極的に話しかけたことのないリディアはロイドの反応に戸惑った。
(わたしってば、本当に友達いなかったんだな……)
「おい、リディア!」
悲しみに浸っている暇もなく、聞きたくない声が容赦なく現実へ引き戻す。
「……何か御用でしょうか。グラシア様」
「何か御用じゃねえよ。お前、昼休みどこ行ってたんだよ!」
こっちは散々探し回ったんだぞ! と怒るグレンにリディアは心の中でざまあみろと笑ってやった。それが伝わったかどうかはわからないが、グレンの目がスッと細められる。金色の瞳が射貫くように自分を見つめ、ぞくりと背筋に寒気が走った。
(やばっ……)
「なあ、お前最近調子乗ってねえか?」
「いえ、そんなことありません」
「いや、乗ってるね。別々の学年になったから俺たちとも縁が切れたと思っているだろう?」
思っている。そもそも彼らと縁など繋ぎたくない。身を引こうとしたリディアに逃げるなとグレンが腕を掴んだ。
「前にも言ったが、俺はどこまでもお前を追いかけるからな」
覚悟しとけよ、と言ったグレンの目は今や爛々と輝いていた。怒っているのに、心底楽しみだと笑ってもいた。
「っ……」
怖い。けれどふざけるなという怒りもあって、絶対に言う通りにしてやるかという反発心も生まれた。
「あなたがそのつもりなら、わたしはどこまでも逃げ続けます」
相手の目を真っ直ぐと見て、リディアはきっぱりと言ってやった。グレンは目を見開き、やがて鋭い犬歯をのぞかせてニヤリと笑った。
「そうか。そうこなくっちゃな」
ギリッとリディアの手首を掴み、グレンは行くぞと自分の行きたい場所へ連れて行こうとした。
「いや、何当たり前のように連れて行こうとしているんですか」
「今日お前はもう俺に捕まったんだ。大人しく連行されろ」
「いやいや、無理ですってば!」
用事があるんですよ! と叫べば、グレンがいかにも面倒くさそうに振り返った。
「どうせ大した用事じゃないだろ。無視して俺に付き合え」
「いくらあなたでも、今回はわたしを引き留めることはできませんよ」
生徒会長からの呼び出しなんだから。
――あんたみたいな留年した人間と関わるとこっちまで堕落しそうだし? 友達ごっこやりたいなら、他の人間を探しなよ。というか、その前にきちんと勉強するべきでしょ。
ちらりと隣席のロイドを覗き見る。彼はいたって真面目な態度で教師の説明に耳を傾けていた。先ほどのリディアとのやり取りもまるで気にしていないようだった。
(そうだよね……どんな理由があるにせよ、留年した人間なんて不真面目な生徒だよね。関わりたくないよね……)
事情を知らない者からすればきっとリディアは頭の悪い怠け者に見えるのだろう。グレンやメルヴィンのような問題のある生徒ではなく、普通の生徒であるロイドが指摘したのだ。一気に現実へと引き戻された気がした。
(大人しく勉強に専念しよう……)
二回目の授業だが、やはり忘れているところも多々あった。たしかに友人云々の前に勉強に集中するのが何より優先すべきことだろう。
真面目に授業を受け、良い成績を出す。そうすれば、いつかは周囲も認めてくれるはずだ。今のリディアはそう思うしかなかった。
***
授業も終え、放課後となった。長い一日だった。すでにどっと疲れていたが、まだ今日はすべきことがあった。非常に面倒だが、無視できない相手からの呼び出しであった。
(はぁ……嫌だなぁ……)
周りの生徒は一日の授業から解放され、放課後をどう過ごすかで楽しそうに談笑する雰囲気で満ちていた。
(わたしも帰りたい。今日はせっかくアルバイトもないのに……)
だがうだうだ言っていても仕方がない。さっさと終わらせて帰ろうと立ち上がった。
「あ……」
ちょうど席を立ったロイドと視線がかち合う。
「えっと、また明日」
「……また明日」
そっけなく答えられ、背を向けられた。無視されることはなかった。
(うーん……友達は無理でも、挨拶するくらいはいいのかな……)
今まで人に寄って来られるだけ(しかもそれもグレンとメルヴィンのみ)で、自分から積極的に話しかけたことのないリディアはロイドの反応に戸惑った。
(わたしってば、本当に友達いなかったんだな……)
「おい、リディア!」
悲しみに浸っている暇もなく、聞きたくない声が容赦なく現実へ引き戻す。
「……何か御用でしょうか。グラシア様」
「何か御用じゃねえよ。お前、昼休みどこ行ってたんだよ!」
こっちは散々探し回ったんだぞ! と怒るグレンにリディアは心の中でざまあみろと笑ってやった。それが伝わったかどうかはわからないが、グレンの目がスッと細められる。金色の瞳が射貫くように自分を見つめ、ぞくりと背筋に寒気が走った。
(やばっ……)
「なあ、お前最近調子乗ってねえか?」
「いえ、そんなことありません」
「いや、乗ってるね。別々の学年になったから俺たちとも縁が切れたと思っているだろう?」
思っている。そもそも彼らと縁など繋ぎたくない。身を引こうとしたリディアに逃げるなとグレンが腕を掴んだ。
「前にも言ったが、俺はどこまでもお前を追いかけるからな」
覚悟しとけよ、と言ったグレンの目は今や爛々と輝いていた。怒っているのに、心底楽しみだと笑ってもいた。
「っ……」
怖い。けれどふざけるなという怒りもあって、絶対に言う通りにしてやるかという反発心も生まれた。
「あなたがそのつもりなら、わたしはどこまでも逃げ続けます」
相手の目を真っ直ぐと見て、リディアはきっぱりと言ってやった。グレンは目を見開き、やがて鋭い犬歯をのぞかせてニヤリと笑った。
「そうか。そうこなくっちゃな」
ギリッとリディアの手首を掴み、グレンは行くぞと自分の行きたい場所へ連れて行こうとした。
「いや、何当たり前のように連れて行こうとしているんですか」
「今日お前はもう俺に捕まったんだ。大人しく連行されろ」
「いやいや、無理ですってば!」
用事があるんですよ! と叫べば、グレンがいかにも面倒くさそうに振り返った。
「どうせ大した用事じゃないだろ。無視して俺に付き合え」
「いくらあなたでも、今回はわたしを引き留めることはできませんよ」
生徒会長からの呼び出しなんだから。
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