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本編(ノーマルエンド)
23、復讐の矛先
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セエレとはこれからも友人関係を続けることになり、空き教室にまた来てよと言われた。グレンたちのこともあるのでこれまでのように頻繁に通うのは難しいと言うと、ほんの少しでもいいからと必死に請われ、リディアがわかったと頷くと絶対だよとかたく約束させられた。
それから昼休みはグレンたちと食堂、放課後はアルバイト、生徒会の仕事、空いた時間でセエレに会いに行って、時にはグレンたちに連れ回されて……
「はぁ……」
「朝からでっかいため息だね」
隣席のロイド・ハウレスが呆れたように言った。授業の予習中だったのか手元には教科書が開いており、こういうところで差が出るのかな、とぼんやり思った。何も返事をしないリディアをロイドが訝しげに見つめ、慌てて返事をする。
「ああ。すみません。数日前の疲れとこれからのことを考えると、非常に憂鬱でして……」
「あんたの周りにいる人間って本当にろくなやついないよね」
まあ、否定はできない。
「でも、先日のはたまたまですよ。あんな騒ぎが頻繁に起こっていたら、こちらの身が持ちませんから」
あはは、とリディアはわざと元気に笑い飛ばす。一年前の悪夢が甦りそうになったが、即座に封印した。あんな地獄、二度とあってたまるか。
「甘い」
楽観視するリディアに、ロイドはスッと目を細めた。そうすると切れ長の目がさらに鋭さを増し、リディアはゴクリと唾を飲み込んだ。ついでに眼鏡もくいっと彼は人差し指で押し上げていた。
「あのピンク頭。あれで大人しくなるとは俺には絶対思えないね」
「ピンク頭って……マリアン様のことですか? まさか。先日あれだけ殿下の前で恥ずかしい思いをさせられたんですよ。わたしだったら人前に出るのも嫌ですよ」
「あんたみたいな小心者はそもそもこの国の王子にそんな行動とらないでしょ。プライドが高くて何でも手に入るお嬢様だったからどんな男でも自分に靡くって勘違いして、あんな厚かましい行動がとれたの」
授業開始のチャイムがなったが、リディアにはまるで不吉な鐘の音に聞こえた。
「そんな人間に恥をかかせた。お高くまとっていたプライドは当然ズタズタに切り裂かれ、これ以上ない屈辱を味わった。当然このまま黙っているものかと、あの女は復讐を誓うだろうね」
「ふ、復讐!?」
そんな大げさな。
(あのマリアン様に限ってそんなこと……)
「いいや、する。絶対。誓ってもいい。そして復讐のターゲットはあんただよ」
「わ、わたし!?」
なぜ。復讐するならグレンやメルヴィン、セエレ、レナードと他にもたくさん候補者がいるじゃないか。
「そりゃ男も憎いだろうけど、女の敵は女だよ。あんたしかいないさ」
「……」
ガラリと扉が開けられ、先生が入ってきた。ロイドは前を向きながら、青ざめたリディアに気をつけなよといつものそっけない声で忠告したのだった。
***
(――気をつけなよって言われても……)
ロイドの意見はいささか突飛すぎる気もした。いくら彼女がリディアを気に食わないからといって、復讐など子どもじみた逆恨みをマリアンがするだろうか。彼女はレライエ侯爵家の娘だ。軽率な自分の行動が、家の品位を下げるくらい理解しているはずだ。
(そうだよ。今までは復学したばかりで、少し浮かれていただけなんだよ)
そうだ。そうだ。何も心配する必要はない。
そう言い聞かせて大丈夫だったことなど、ほとんどなかったのだが、リディアは気にしないことにした。
それにマリアンという友人を失ってしまった事実の方が、今のリディアには堪えた。たとえマリアンが内心嫌々自分に付き合ってくれていたとはいえ、彼女と過ごした時間は、これまでろくな思い出がないリディアの学園生活を薔薇色に変えたのだ。憎み切れない情がマリアンに対して残っていた。
(それにわたしが憎みたいと思う相手はどちらかというと……)
「おいリディア。お前またそれだけしか食わねえのか」
「もう少し食べた方がいいんじゃない? 貧相な身体がさらに貧相になってしまうよ」
両側から代わる代わるに嫌味を言われ、リディアはぶすりとじゃがいもをフォークで突き刺した。
昼休みになった途端、グレンとメルヴィンが揃ってリディアを迎えに現れた。このところずっとこの調子だ。昼休みだけに限らず、放課後まであちこちに連れ回されるのでそろそろ精神がおかしくなりそうだった。
「ほら。これも食え」
グレンがリディアの皿に自分の分の分厚い肉を一切れ寄こしてきた。肉汁たっぷりの、見るからにカロリーの高そうなボリュームだ。リディアの疲れた胃には、とても入りそうになかった。
「いえ、わたしは……」
「じゃあ僕はデザートの方をあげるよ」
そう言って今度はメルヴィンがチョコレートケーキが載った皿を置いてきた。見てるだけで胸焼けしそうな甘さを運んできてうっ、とリディアは口元を押さえた。
「あの、本当にお腹いっぱいなので、お気持ちだけ頂いておきます」
「あ? 俺が食えって言ってるのに断るのか」
「そうだよ。せっかくきみのためと思ってあげたのに」
「……いただきます」
リディアがそう言えば、二人は満足そうに笑みを浮かべる。
(はあ。せっかく解放されたと思ったのにまた逆戻りか……)
今さらだがマリアンは一体何を考えてこの二人と食事をしようなど思ったのか。基本自分のことばかりしか考えていない男たちのどこがいいというのか。
「こんにちは、リディアさん」
ひいひい胃が悲鳴をあげながらも何とか食べ終わり、押し流すように水を飲んでいたリディアはその声に突然むせた。ゴホゴホとみっともなく咳をしてしまい、グレンたちから呆れた視線を向けられる。だがそんなことはどうでもよかった。
「マ、マリアン様。ど、どうしてここに」
「あら。わたくしにはここで食事をする権利すらないのかしら」
ふん、とマリアンの態度はどこか刺々しい。もはや以前のような親しみは欠片も残っていなかった。トレイをリディアの前に置き、目の前の席にマリアンは座った。え、え、と事態が飲み込めないリディアをよそに、マリアンがにっこりとグレンとメルヴィンに微笑みかける。
「グレン様。メルヴィン様。わたくしもここでお食事させてもらいますわ」
「あんたもしつこいな」
「まあまあ、グレン。今日は暑苦しい彼らもいないようだし、一緒に食事くらいしてあげようよ」
マリアンを庇っているようで、メルヴィンの言い方は完全に上からであった。
「そういえば、いつもひっつき虫みたいにくっついていたやつらがいねえな。どうしたんだ?」
「……彼らは今日忙しいみたいなんです」
「ほう」
「そうなんだぁ」
(たぶんレナード殿下の言った通り、頭が冷えたんだろうな……)
自分の婚約者をないがしろにして他の女性に走る行為は、あまりにも愚かで危険なことだと、彼らはマリアンに近づくことをやめたのだ。
男子生徒や彼らの婚約者からすればこれでよかったのだと言えるが、代わりにマリアンは一人ぼっちになってしまったようだ。本来なら同性の友人が一人くらいいてもいいはずだが――
「マリアン嬢には友達がいないの?」
(うわ……)
聞きにくいことでも、メルヴィンはさらりと笑顔で尋ねた。マリアンの頬が引き攣る。
「わ、わたくしは一年の時に休みがちでしたから、なかなか難しいんですの」
「でも普通は一人くらいできるだろ。家柄目当てとか、引き立て役とか」
「そうだよね。表面上の付き合いくらいは貴族の令嬢としてあるもんだよね」
「男のお友達はたくさんいたみたいけど、女と話しているとこは見たことないな。そういえば」
「そ、それは……」
「別に一人だっていいじゃないですか」
リディアがそう言うと、グレンたち三人が揃ってこちらを見た。それに怯みそうになるも、リディアはぐっと右手を握りしめた。女性一人に対して男性二人が責めたてるのは見ていて気分がよくなかった。
「家柄とか他人を引き立てるために付き合うなんて、そんなの本当の友達じゃありませんよ。わたしだったら一人でいた方がずっと気楽に過ごせます」
貴族の付き合い方がどういうものかはわからないが、自分の損得ばかりを考えた利害関係など虚しいだけだ、というのがリディアの本音であった。
「少しの付き合いしかありませんが、マリアン様は優しい方です。焦らずともきっとすぐに心から許し合えるご友人が見つかりますよ」
マリアンは目を真ん丸にしてリディアを見つめていた。
(マリアン様。わたしはあなたの味方ですよ!)
自分の両隣の二人と違って。
(だからどうか目を覚ましてください! こんな二人と仲良くなりたいだなんて馬鹿げたこと!)
「おいリディア。少しの付き合いってどういうことだよ。お前、この女とも隠れて会ってたのか?」
ぎゅっとグレンに頬を抓られる。
「そういえば、先日きみに抱き着いた少年は誰なんだい?」
「あ! 思い出した。あの青い髪のやつ、どっかで見たことあるって思ったら逃げたお前を探してる時に階段で見かけたやつだ。お前、ひょっとしてあの時匿ってもらったのか!?」
どうなんだ、とますます頬を抓られる。畳みかけるように尋ねられ、頭が混乱するも、とりあえずその手を放せとグレンの手を払い落とした。
「わたしが誰と仲良くなろうが、お二人には関係ないことです。放っておいて下さい」
きっぱり言ってやった。払い落とされた手を見つめていたグレンが顔を上げる。真顔だ。怖い。……だが負けるものか。
(く、くるならこい……!)
「……なあ、メルヴィン。やっぱり俺たちもあと一年留年すればよかったな」
「は?」
「そうだね、グレン。来年はそうしようか」
「な、なに馬鹿なこと言ってるんですか」
一年留年するなんて冗談でも言わないでほしい。
「冗談じゃねえよ。先輩になったらお前でもっと遊べるかもって思ったけど、やっぱ時間帯合わねえし、お前は勝手に知らねえやつとは仲良くなるし、面白くないことばっかだわ」
「そうだね。先輩と後輩ごっこも楽しいけど、やっぱり同じ学年の、同級生ってポジションが一番美味しいよね」
「い、意味がわかりません」
リディアからすれば地獄のポジションだ。絶対に嫌だ。
「いいや。もう決めた。来年はそうする」
「うん。叔父上とグレンの父上に頼み込めばどうにかなるよ」
(待て待て待て。頼み込んだらどうにかなるじゃない。そんなこと頼むな!)
「二人とも、もう一度よく考え――」
「いい加減にして下さい」
それから昼休みはグレンたちと食堂、放課後はアルバイト、生徒会の仕事、空いた時間でセエレに会いに行って、時にはグレンたちに連れ回されて……
「はぁ……」
「朝からでっかいため息だね」
隣席のロイド・ハウレスが呆れたように言った。授業の予習中だったのか手元には教科書が開いており、こういうところで差が出るのかな、とぼんやり思った。何も返事をしないリディアをロイドが訝しげに見つめ、慌てて返事をする。
「ああ。すみません。数日前の疲れとこれからのことを考えると、非常に憂鬱でして……」
「あんたの周りにいる人間って本当にろくなやついないよね」
まあ、否定はできない。
「でも、先日のはたまたまですよ。あんな騒ぎが頻繁に起こっていたら、こちらの身が持ちませんから」
あはは、とリディアはわざと元気に笑い飛ばす。一年前の悪夢が甦りそうになったが、即座に封印した。あんな地獄、二度とあってたまるか。
「甘い」
楽観視するリディアに、ロイドはスッと目を細めた。そうすると切れ長の目がさらに鋭さを増し、リディアはゴクリと唾を飲み込んだ。ついでに眼鏡もくいっと彼は人差し指で押し上げていた。
「あのピンク頭。あれで大人しくなるとは俺には絶対思えないね」
「ピンク頭って……マリアン様のことですか? まさか。先日あれだけ殿下の前で恥ずかしい思いをさせられたんですよ。わたしだったら人前に出るのも嫌ですよ」
「あんたみたいな小心者はそもそもこの国の王子にそんな行動とらないでしょ。プライドが高くて何でも手に入るお嬢様だったからどんな男でも自分に靡くって勘違いして、あんな厚かましい行動がとれたの」
授業開始のチャイムがなったが、リディアにはまるで不吉な鐘の音に聞こえた。
「そんな人間に恥をかかせた。お高くまとっていたプライドは当然ズタズタに切り裂かれ、これ以上ない屈辱を味わった。当然このまま黙っているものかと、あの女は復讐を誓うだろうね」
「ふ、復讐!?」
そんな大げさな。
(あのマリアン様に限ってそんなこと……)
「いいや、する。絶対。誓ってもいい。そして復讐のターゲットはあんただよ」
「わ、わたし!?」
なぜ。復讐するならグレンやメルヴィン、セエレ、レナードと他にもたくさん候補者がいるじゃないか。
「そりゃ男も憎いだろうけど、女の敵は女だよ。あんたしかいないさ」
「……」
ガラリと扉が開けられ、先生が入ってきた。ロイドは前を向きながら、青ざめたリディアに気をつけなよといつものそっけない声で忠告したのだった。
***
(――気をつけなよって言われても……)
ロイドの意見はいささか突飛すぎる気もした。いくら彼女がリディアを気に食わないからといって、復讐など子どもじみた逆恨みをマリアンがするだろうか。彼女はレライエ侯爵家の娘だ。軽率な自分の行動が、家の品位を下げるくらい理解しているはずだ。
(そうだよ。今までは復学したばかりで、少し浮かれていただけなんだよ)
そうだ。そうだ。何も心配する必要はない。
そう言い聞かせて大丈夫だったことなど、ほとんどなかったのだが、リディアは気にしないことにした。
それにマリアンという友人を失ってしまった事実の方が、今のリディアには堪えた。たとえマリアンが内心嫌々自分に付き合ってくれていたとはいえ、彼女と過ごした時間は、これまでろくな思い出がないリディアの学園生活を薔薇色に変えたのだ。憎み切れない情がマリアンに対して残っていた。
(それにわたしが憎みたいと思う相手はどちらかというと……)
「おいリディア。お前またそれだけしか食わねえのか」
「もう少し食べた方がいいんじゃない? 貧相な身体がさらに貧相になってしまうよ」
両側から代わる代わるに嫌味を言われ、リディアはぶすりとじゃがいもをフォークで突き刺した。
昼休みになった途端、グレンとメルヴィンが揃ってリディアを迎えに現れた。このところずっとこの調子だ。昼休みだけに限らず、放課後まであちこちに連れ回されるのでそろそろ精神がおかしくなりそうだった。
「ほら。これも食え」
グレンがリディアの皿に自分の分の分厚い肉を一切れ寄こしてきた。肉汁たっぷりの、見るからにカロリーの高そうなボリュームだ。リディアの疲れた胃には、とても入りそうになかった。
「いえ、わたしは……」
「じゃあ僕はデザートの方をあげるよ」
そう言って今度はメルヴィンがチョコレートケーキが載った皿を置いてきた。見てるだけで胸焼けしそうな甘さを運んできてうっ、とリディアは口元を押さえた。
「あの、本当にお腹いっぱいなので、お気持ちだけ頂いておきます」
「あ? 俺が食えって言ってるのに断るのか」
「そうだよ。せっかくきみのためと思ってあげたのに」
「……いただきます」
リディアがそう言えば、二人は満足そうに笑みを浮かべる。
(はあ。せっかく解放されたと思ったのにまた逆戻りか……)
今さらだがマリアンは一体何を考えてこの二人と食事をしようなど思ったのか。基本自分のことばかりしか考えていない男たちのどこがいいというのか。
「こんにちは、リディアさん」
ひいひい胃が悲鳴をあげながらも何とか食べ終わり、押し流すように水を飲んでいたリディアはその声に突然むせた。ゴホゴホとみっともなく咳をしてしまい、グレンたちから呆れた視線を向けられる。だがそんなことはどうでもよかった。
「マ、マリアン様。ど、どうしてここに」
「あら。わたくしにはここで食事をする権利すらないのかしら」
ふん、とマリアンの態度はどこか刺々しい。もはや以前のような親しみは欠片も残っていなかった。トレイをリディアの前に置き、目の前の席にマリアンは座った。え、え、と事態が飲み込めないリディアをよそに、マリアンがにっこりとグレンとメルヴィンに微笑みかける。
「グレン様。メルヴィン様。わたくしもここでお食事させてもらいますわ」
「あんたもしつこいな」
「まあまあ、グレン。今日は暑苦しい彼らもいないようだし、一緒に食事くらいしてあげようよ」
マリアンを庇っているようで、メルヴィンの言い方は完全に上からであった。
「そういえば、いつもひっつき虫みたいにくっついていたやつらがいねえな。どうしたんだ?」
「……彼らは今日忙しいみたいなんです」
「ほう」
「そうなんだぁ」
(たぶんレナード殿下の言った通り、頭が冷えたんだろうな……)
自分の婚約者をないがしろにして他の女性に走る行為は、あまりにも愚かで危険なことだと、彼らはマリアンに近づくことをやめたのだ。
男子生徒や彼らの婚約者からすればこれでよかったのだと言えるが、代わりにマリアンは一人ぼっちになってしまったようだ。本来なら同性の友人が一人くらいいてもいいはずだが――
「マリアン嬢には友達がいないの?」
(うわ……)
聞きにくいことでも、メルヴィンはさらりと笑顔で尋ねた。マリアンの頬が引き攣る。
「わ、わたくしは一年の時に休みがちでしたから、なかなか難しいんですの」
「でも普通は一人くらいできるだろ。家柄目当てとか、引き立て役とか」
「そうだよね。表面上の付き合いくらいは貴族の令嬢としてあるもんだよね」
「男のお友達はたくさんいたみたいけど、女と話しているとこは見たことないな。そういえば」
「そ、それは……」
「別に一人だっていいじゃないですか」
リディアがそう言うと、グレンたち三人が揃ってこちらを見た。それに怯みそうになるも、リディアはぐっと右手を握りしめた。女性一人に対して男性二人が責めたてるのは見ていて気分がよくなかった。
「家柄とか他人を引き立てるために付き合うなんて、そんなの本当の友達じゃありませんよ。わたしだったら一人でいた方がずっと気楽に過ごせます」
貴族の付き合い方がどういうものかはわからないが、自分の損得ばかりを考えた利害関係など虚しいだけだ、というのがリディアの本音であった。
「少しの付き合いしかありませんが、マリアン様は優しい方です。焦らずともきっとすぐに心から許し合えるご友人が見つかりますよ」
マリアンは目を真ん丸にしてリディアを見つめていた。
(マリアン様。わたしはあなたの味方ですよ!)
自分の両隣の二人と違って。
(だからどうか目を覚ましてください! こんな二人と仲良くなりたいだなんて馬鹿げたこと!)
「おいリディア。少しの付き合いってどういうことだよ。お前、この女とも隠れて会ってたのか?」
ぎゅっとグレンに頬を抓られる。
「そういえば、先日きみに抱き着いた少年は誰なんだい?」
「あ! 思い出した。あの青い髪のやつ、どっかで見たことあるって思ったら逃げたお前を探してる時に階段で見かけたやつだ。お前、ひょっとしてあの時匿ってもらったのか!?」
どうなんだ、とますます頬を抓られる。畳みかけるように尋ねられ、頭が混乱するも、とりあえずその手を放せとグレンの手を払い落とした。
「わたしが誰と仲良くなろうが、お二人には関係ないことです。放っておいて下さい」
きっぱり言ってやった。払い落とされた手を見つめていたグレンが顔を上げる。真顔だ。怖い。……だが負けるものか。
(く、くるならこい……!)
「……なあ、メルヴィン。やっぱり俺たちもあと一年留年すればよかったな」
「は?」
「そうだね、グレン。来年はそうしようか」
「な、なに馬鹿なこと言ってるんですか」
一年留年するなんて冗談でも言わないでほしい。
「冗談じゃねえよ。先輩になったらお前でもっと遊べるかもって思ったけど、やっぱ時間帯合わねえし、お前は勝手に知らねえやつとは仲良くなるし、面白くないことばっかだわ」
「そうだね。先輩と後輩ごっこも楽しいけど、やっぱり同じ学年の、同級生ってポジションが一番美味しいよね」
「い、意味がわかりません」
リディアからすれば地獄のポジションだ。絶対に嫌だ。
「いいや。もう決めた。来年はそうする」
「うん。叔父上とグレンの父上に頼み込めばどうにかなるよ」
(待て待て待て。頼み込んだらどうにかなるじゃない。そんなこと頼むな!)
「二人とも、もう一度よく考え――」
「いい加減にして下さい」
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