9 / 72
本編(ノーマルエンド)
9、学園の権力者
しおりを挟む バルテルが持ち込んだ酒で盛り上がる古龍シェンは、酔うに従って外見が変化した。頭の上にツノが飛び出し、続いて肌に鱗が現れる。最終的には長い尻尾が揺れ始めた。バルテルの話だと、酔い潰れたら龍に戻るそうだ。
本体が龍なので、正体不明になると元の姿になるのだ。その辺は魔族にも似たようなのが居たから分かる。
「ところで、ツノ……じゃなくて、えっとシドウ殿」
シェンは多少怪しい呂律で僕を呼んだ。両手で干し肉を掴んで齧る琥珀の膝の上に転がる僕は、『なんですか』と尋ねた。声を出さないと聞いてるか、分からないだろうし。
「当代の魔王殿が勇者に倒されたとすると、数十年は動かぬであろう。なぜベリアルが彷徨いておるのか」
ああ、なるほど。普段なら魔王が斃れると数十年は閉じこもって回復に魔力を注ぐ。その間は他の魔族も大きな動きはしない。なぜなら魔王はひとつのシステムだった。魔族の魔力は魔王の能力に比例する。魔王が玉座にいなければ、その間は魔族の能力が格段に落ちるのだ。
掻い摘んでその話をすると、シェンは驚いた様子で目を見開いた。あれ? これって周知の事実で秘密じゃないよな?
「そのような事情、初めて聞いたぞ」
『そう、なのか? 皆知ってると思ってた』
素で返した僕の右側で、バルテルが唸る。
「それであの魔族、ベリアルだったか。あいつも強気に出られなかったのか」
威嚇はしたが、最終的には契約を持ち出した。つまり森人の集落を相手取って戦うのは不利で、今後に差し支えると判断したのだろう。
「バルテル、魔族を滅ぼすぞ」
「そうだな。盟約を破ろうとしたことだし、琥珀に危害が及ぶ。何より、こんなチャンスは二度とない」
魔族……そんなに嫌われてたんだ。好かれる要素は見当たらないけど、滅ぼすほど憎まれてるとは知らなかった。
「他に何か情報はないか」
『逆に質問してよ、答えるから』
僕としては琥珀が最優先だ。数百年に及ぶ孤独を癒してくれたし、僕を初めて人扱いした友達だった。幼子だから、今後は彼の成長を助ける庇護者でありたい。持っている知識や知恵が役立つなら、大いに活用して琥珀を守ってくれ。
「魔王に他に弱点はあるか」
『今の魔王は数十回の再生に耐えたから、もう交代時期だと思う。もしかしたらツノが折れたのも、そういう事情だったりして』
今まで魔王の頭上にいて、何度か攻撃を当てられたこともある。だが一度も折れなかった。先が欠けたことはあったけど、あれもついこの間の話だ。弱体化している可能性があった。数十回も再生と破壊を繰り返せば、強靭な魔族の体も脆くなるはずだ。
「なるほどな……」
考えられる。鍛治を行う森人バルテルは、己の経験に照らして納得した。
「新しい魔王が誕生する条件を知ってるか?」
『確か、魔力量だっけ』
今の魔王を凌ぐ魔力を持つ、魔族が魔王を消滅させることで、次の王が生まれる。戦いは魔力をぶつけ合うシンプルな戦いで、故に魔力量だけが重要視された。技術や魔法の扱い方は要らない。
「そうだ。ならば、ツノのシドウ殿を持つコハクが次の魔王だな」
シェンはにやりと笑った後、後ろにぐらりと倒れた。いびきをかいて寝ている。酔いが限界に達したらしい。
「おい、逃げるぞ」
まだ肉を齧る琥珀を急かしたバルテルは酒瓶を掴み、反対の手で琥珀の手を握って走り出した。右手に肉を持つ琥珀が伸ばした左手に掴まれ、僕もかろうじて一緒に離脱する。
ぐがぁああ! 大きな寝言が響いたと同時、洞窟の半分を埋める巨大龍が出現した。完全に酔うと元に戻るって、本当だったんだな。
本体が龍なので、正体不明になると元の姿になるのだ。その辺は魔族にも似たようなのが居たから分かる。
「ところで、ツノ……じゃなくて、えっとシドウ殿」
シェンは多少怪しい呂律で僕を呼んだ。両手で干し肉を掴んで齧る琥珀の膝の上に転がる僕は、『なんですか』と尋ねた。声を出さないと聞いてるか、分からないだろうし。
「当代の魔王殿が勇者に倒されたとすると、数十年は動かぬであろう。なぜベリアルが彷徨いておるのか」
ああ、なるほど。普段なら魔王が斃れると数十年は閉じこもって回復に魔力を注ぐ。その間は他の魔族も大きな動きはしない。なぜなら魔王はひとつのシステムだった。魔族の魔力は魔王の能力に比例する。魔王が玉座にいなければ、その間は魔族の能力が格段に落ちるのだ。
掻い摘んでその話をすると、シェンは驚いた様子で目を見開いた。あれ? これって周知の事実で秘密じゃないよな?
「そのような事情、初めて聞いたぞ」
『そう、なのか? 皆知ってると思ってた』
素で返した僕の右側で、バルテルが唸る。
「それであの魔族、ベリアルだったか。あいつも強気に出られなかったのか」
威嚇はしたが、最終的には契約を持ち出した。つまり森人の集落を相手取って戦うのは不利で、今後に差し支えると判断したのだろう。
「バルテル、魔族を滅ぼすぞ」
「そうだな。盟約を破ろうとしたことだし、琥珀に危害が及ぶ。何より、こんなチャンスは二度とない」
魔族……そんなに嫌われてたんだ。好かれる要素は見当たらないけど、滅ぼすほど憎まれてるとは知らなかった。
「他に何か情報はないか」
『逆に質問してよ、答えるから』
僕としては琥珀が最優先だ。数百年に及ぶ孤独を癒してくれたし、僕を初めて人扱いした友達だった。幼子だから、今後は彼の成長を助ける庇護者でありたい。持っている知識や知恵が役立つなら、大いに活用して琥珀を守ってくれ。
「魔王に他に弱点はあるか」
『今の魔王は数十回の再生に耐えたから、もう交代時期だと思う。もしかしたらツノが折れたのも、そういう事情だったりして』
今まで魔王の頭上にいて、何度か攻撃を当てられたこともある。だが一度も折れなかった。先が欠けたことはあったけど、あれもついこの間の話だ。弱体化している可能性があった。数十回も再生と破壊を繰り返せば、強靭な魔族の体も脆くなるはずだ。
「なるほどな……」
考えられる。鍛治を行う森人バルテルは、己の経験に照らして納得した。
「新しい魔王が誕生する条件を知ってるか?」
『確か、魔力量だっけ』
今の魔王を凌ぐ魔力を持つ、魔族が魔王を消滅させることで、次の王が生まれる。戦いは魔力をぶつけ合うシンプルな戦いで、故に魔力量だけが重要視された。技術や魔法の扱い方は要らない。
「そうだ。ならば、ツノのシドウ殿を持つコハクが次の魔王だな」
シェンはにやりと笑った後、後ろにぐらりと倒れた。いびきをかいて寝ている。酔いが限界に達したらしい。
「おい、逃げるぞ」
まだ肉を齧る琥珀を急かしたバルテルは酒瓶を掴み、反対の手で琥珀の手を握って走り出した。右手に肉を持つ琥珀が伸ばした左手に掴まれ、僕もかろうじて一緒に離脱する。
ぐがぁああ! 大きな寝言が響いたと同時、洞窟の半分を埋める巨大龍が出現した。完全に酔うと元に戻るって、本当だったんだな。
20
お気に入りに追加
205
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。

あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる