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本編(ノーマルエンド)
7、隣人に助けを求める
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授業終了のチャイムが鳴ると同時にリディアは席を立った。右手には次の授業の教科書。左手には小さめのランチボックス。決して走りはせず、けれどクラスメイトが話しかける隙も与えず(そもそも話し合うほどの間柄ではないが)、教室から脱出する。そしてここからはやや小走りで滅多に人が来ない学園の裏庭へと急いだ。
(絶対にあの二人に捕まってたまるもんか!)
捕まえられる前にどこか別の場所へ逃げればいい。同じクラスだったら不可能な作戦だが、クラスも学年も違う今なら可能なはずだ。
(やった。誰もいない!)
裏庭には自分の他誰もいなかった。手入れされていない草木が生い茂っており、未開の土地に足を踏み入れた気分だった。
自分は自由だ。あの悪魔から見事逃げ切ったぞ!
「お、本当に来たな」
「ほら、僕の言った通りだろう?」
歓喜に震えるリディアの耳に、聞きなれた声が飛び込んできた。嘘だ。青ざめたリディアの肩に手が置かれた。そんなはずがない。無理矢理振り向かされる。あり得ない!
「よお。リディア。こんなところまで俺たちを迎えに来てくれるなんて、ありがとうな」
「あ、わわ……な、ななんで、ここに……」
グレンとメルヴィンがリディアをニヤニヤ、ニコニコしながら見下ろしていた。
「リディアの考えていることなんてお見通しだよ。僕たちと一緒に食事したくないから、きっと授業終了のチャイムと共にどこか別の場所へ避難すると思っていたんだ」
「う、うそ……」
「それでたぶんここに来るだろうと思って先回りしておいたわけ」
残念だったな、とちっともそう思っていない様子でグレンは言った。
「まあ、たまにはここで昼飯するのも悪くないかもな」
「そうだね。たまには食堂の豪華なメニューじゃなくて、庶民が食べるような食事もいいかもね」
二人の視線はリディアが持つランチボックスに注がれていた。彼らは仕方がないからこれで我慢してやると言っているのだ。ひくりとリディアの頬が引きつった。
「じょ、冗談じゃない!」
これは大切な食費を削って持参したものだ。余所の他人に食わせる気などさらさらなかった。ドンと自分よりも大きい男に体当たりするようにしてリディアは突破口を開いた。今度は淑女としてあるまじき行動だとか気にせず全速力で駆け出す。
「追いかけっこか。いいぜ、逃げ切ってみろよ」
「食事前の軽い運動だね。お腹空いてなかったからちょうどいいかも」
ああ、捕まったら今度こそ終わりだ。死ぬ気で走れ。足を止めるな。
(うう、なんでいつもこうなるんだろう!)
自分はただ穏やかな学園生活を送りたいだけだ。それだけなのにどうして!
***
取りあえず人ごみに紛れ、校舎内を駆け回り、リディアは学園の最上階へたどり着いていた。
「くっ……はぁ、はあ……ここまで、くれば……」
大丈夫、と思った矢先、二人分の声が聞こえてきた。
「――あいつ、どこに行ったんだ」
「そうだね……たぶん……から、この辺だと思うんだけど」
(ひぇ……)
全然大丈夫ではなかった。もう逃げ道は屋上へ続く階段しかしない。コツコツと靴音を響かせながら近づいてくる音にリディアは追い詰められていく。
(死角に入って隠れる? いや、そんなのすぐばれるよ……)
絶対絶望の状況に、リディアは泣きそうになった。やっぱり自分はあの悪魔たちからは逃げ延びることはできないのか。平穏な昼休みを過ごしたいというささやかな願いすら叶うことは許されないのか。
(あれ……誰かいる!)
踊り場を曲がり、リディアの目に一人の男子生徒が飛び込んできた。階段の段差に腰掛け、昼食をとっていた彼もリディアを見て目を丸くした。
(あれ、この子、どこかで……あ、隣の席の子だ!)
初日に隣に座っていいかと尋ねてきた眼鏡の男子生徒。その彼がなぜこんなところに? と思うも、格段に近づいてきた足音にどうでもいいと一気に残りの数段を駆け登った。
「ちょっと、あんた……」
とっさに口を開こうとした彼に、しいっと人差し指を当てて沈黙を促す。
「お願いです。どうかわたしを匿って下さい! ここに上ってくる男子生徒に私の存在を知られたくないんです! どうかお願いします!!」
小声で、かつ早口でまくしたてたリディアにポカンとする男子生徒。無理もない。だがもう時間がなかった。リディアは頼みましたよ、とぎりぎり二人から見えない位置へ逃げ込む。
「お、先客がいるじゃん」
間一髪。グレンが男子生徒に声をかけた。
「お前、一年? ここに何の変哲もない地味な女子生徒が来なかったか?」
(お願いします。お願いします。お願いします……)
必死でリディアは願掛けした。生き延びたい。あいつらの手に堕ちたくない。平穏な昼休みを過ごしたい!
「それって、黒い髪に青い目の女子生徒ですか?」
「そうそ。後ろで一つに結んだ、あんまり記憶に残らないタイプの、平々凡々な女」
うるさい。余計なお世話だ。いや、それよりもリディアは男子生徒に自分が売られるのではないかと生きた心地がしなかった。心臓が口から飛び出しそうだ。いや、いっそこのまま飛び出して楽になりたい。
「屋上に行ったんじゃない?」
メルヴィンが面倒なことを付け加える。
「お、じゃあ行ってみるか」
(やめろおおおお……)
リディアは心の中で絶叫した。もう終わりだ!
「……その女子生徒なら、さっき屋上が閉まっているのに気づいて、真っ青な表情で階段を降りて行きましたよ」
リディアは目を見開いた。
「まじ? 行き違いになったのかよ」
「運が彼女に味方したみたいだね。どうする、グレン?」
「こうなったら絶対に捕まえてやる」
行こうぜ、とグレンたちは別の場所へ探しに行った。
「……もういいんじゃないの」
足音が完全に遠ざかったところで男性生徒がリディアに言った。よろよろと這いずるようにして彼女は出てきた。目の前の彼が救世主のように神々しく映った。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
「お礼はいいよ。それより用が済んだんなら、早くどっか行って」
「あの、そうしたいんですけど、ここが一番安全なんで一緒に昼食とっていいですか」
「は?」
正気か、という彼の反応を気にせず、リディアはどっこいしょと隣に腰かけた。無事に危険が過ぎ去り、心地よい空腹が迎えている。今日はお腹いっぱい食べられそうだ。
ランチボックスを開け、サンドイッチを一口齧る。とても美味しい。ただのサンドイッチではない格別な味がした。
遠慮もせずもしゃもしゃとサンドイッチを食していくリディアに彼は呆気にとられていたが、やがて呆れたように言った。
「あんた、意外と図々しいんだね」
ごくんと飲み込み、リディアはきっぱりと答えた。
「そうしないと生きていけませんから」
「……あっそ」
何かを察したように押し黙る男子生徒。しばらくリディアの咀嚼する音だけが響いた。彼はひどく居心地が悪そうであった。
「わたし、リディア・ヴァウルと申します。あなたは初日に話しかけて下さった方ですよね?」
「……ロイド・ハウレス」
「ハウレス様。先ほどは助けて頂きどうもありがとうございました」
「ロイドでいい。その堅苦しい話し方もやめて」
「ですが、ハウレス様は貴族で、わたしは平民ですし……」
平民は貴族を敬う。それがこの学園の、世間の常識であった。
だがロイドはいいからと鬱陶しそうに顔を顰めた。
「平民とか貴族とか、学び舎においてそういう身分差とか関係ないでしょ。だいたい俺は他の生徒と違って、ただのお飾りの貴族だし」
「お飾り?」
どういうことだと首をかしげるリディアにロイドは自嘲するように教えてくれた。
「俺のおふくろは貴族だったんだけど、親父と駆け落ちして、一度実家から追い出されたの。けど爺さんの家が他のやつらに爵位渡したくないからって、俺を跡取りとして呼び戻した。それで俺は入りたくないもない学園に入学させられて、都合のいい駒として今この学校に通っているの。だからお飾り貴族ってわけ」
「なるほど……」
貴族にもいろんな事情があるんだな、とリディアは思った。
(というか意外と話すな……)
普段教室ではだんまりを貫いているので、今しがたペラペラと自分のことを話したロイドにリディアは驚きを隠せなかった。
「でもそんな込み入った話、見ず知らずのわたしに話してよかったんですか」
「これくらい貴族連中の間では有名だし、別にいい。あんた、他に話す相手もいなさそうだし」
「……それもそうですね」
グレンたちとのやり取りを教室で見られて以来、あるいは一年留年したことがばれたからか、リディアは露骨にクラスメイトから距離を置かれている。いや、中には話しかけてくる生徒もいるが、そのほとんどが嫉妬や牽制といった類。あるいはグレンたちとの仲を取り持ってもらおうと期待する者ばかりで、純粋に自分と仲良くなりたいという人間は一人もいなかった。
(わかってはいたけれど、やっぱりきついな……)
せめて一人くらい、気軽に話せる友人が欲しかった。
「この学校に入ってつくづく思いましたけど、やっぱり身分の差って大きいんですね」
「両親や祖先が偉いだけで、自分自身は何にもやってない生徒ばかりなのにな」
ちらりとリディアはロイドを見た。出自が訳ありなせいか、彼はあまり貴族に対してよい印象を持っていないようだ。
(もしかしたら、友達になれるかもしれない……)
思えば彼はリディアが留年したクラスで初めて話しかけてくれた人だ。そしてあの悪魔たちからも助けてくれた。これはもう何かの縁だろう。リディアはそう思った。
「あ、あの!」
突然大きな声を出したリディアにロイドが目を丸くする。
「びっくりした。何、急に」
「わ、わたしと友達になってくれませんか?」
「嫌だけど」
即答だった。考えることすら、彼はしなかった。思いっきり迷惑そうな顔をされた。
「他の連中は鬱陶しいくらい人とつるむけど、俺は人と馴れ合うのあんまり好きじゃない」
それに、とロイドは固まったリディアを置き去りにして立ち上がった。
「あんたみたいな留年した人間と関わるとこっちまで堕落しそうだし? 友達ごっこやりたいなら、他の人間を探しなよ。というか、その前にきちんと勉強するべきでしょ」
(絶対にあの二人に捕まってたまるもんか!)
捕まえられる前にどこか別の場所へ逃げればいい。同じクラスだったら不可能な作戦だが、クラスも学年も違う今なら可能なはずだ。
(やった。誰もいない!)
裏庭には自分の他誰もいなかった。手入れされていない草木が生い茂っており、未開の土地に足を踏み入れた気分だった。
自分は自由だ。あの悪魔から見事逃げ切ったぞ!
「お、本当に来たな」
「ほら、僕の言った通りだろう?」
歓喜に震えるリディアの耳に、聞きなれた声が飛び込んできた。嘘だ。青ざめたリディアの肩に手が置かれた。そんなはずがない。無理矢理振り向かされる。あり得ない!
「よお。リディア。こんなところまで俺たちを迎えに来てくれるなんて、ありがとうな」
「あ、わわ……な、ななんで、ここに……」
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「リディアの考えていることなんてお見通しだよ。僕たちと一緒に食事したくないから、きっと授業終了のチャイムと共にどこか別の場所へ避難すると思っていたんだ」
「う、うそ……」
「それでたぶんここに来るだろうと思って先回りしておいたわけ」
残念だったな、とちっともそう思っていない様子でグレンは言った。
「まあ、たまにはここで昼飯するのも悪くないかもな」
「そうだね。たまには食堂の豪華なメニューじゃなくて、庶民が食べるような食事もいいかもね」
二人の視線はリディアが持つランチボックスに注がれていた。彼らは仕方がないからこれで我慢してやると言っているのだ。ひくりとリディアの頬が引きつった。
「じょ、冗談じゃない!」
これは大切な食費を削って持参したものだ。余所の他人に食わせる気などさらさらなかった。ドンと自分よりも大きい男に体当たりするようにしてリディアは突破口を開いた。今度は淑女としてあるまじき行動だとか気にせず全速力で駆け出す。
「追いかけっこか。いいぜ、逃げ切ってみろよ」
「食事前の軽い運動だね。お腹空いてなかったからちょうどいいかも」
ああ、捕まったら今度こそ終わりだ。死ぬ気で走れ。足を止めるな。
(うう、なんでいつもこうなるんだろう!)
自分はただ穏やかな学園生活を送りたいだけだ。それだけなのにどうして!
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「くっ……はぁ、はあ……ここまで、くれば……」
大丈夫、と思った矢先、二人分の声が聞こえてきた。
「――あいつ、どこに行ったんだ」
「そうだね……たぶん……から、この辺だと思うんだけど」
(ひぇ……)
全然大丈夫ではなかった。もう逃げ道は屋上へ続く階段しかしない。コツコツと靴音を響かせながら近づいてくる音にリディアは追い詰められていく。
(死角に入って隠れる? いや、そんなのすぐばれるよ……)
絶対絶望の状況に、リディアは泣きそうになった。やっぱり自分はあの悪魔たちからは逃げ延びることはできないのか。平穏な昼休みを過ごしたいというささやかな願いすら叶うことは許されないのか。
(あれ……誰かいる!)
踊り場を曲がり、リディアの目に一人の男子生徒が飛び込んできた。階段の段差に腰掛け、昼食をとっていた彼もリディアを見て目を丸くした。
(あれ、この子、どこかで……あ、隣の席の子だ!)
初日に隣に座っていいかと尋ねてきた眼鏡の男子生徒。その彼がなぜこんなところに? と思うも、格段に近づいてきた足音にどうでもいいと一気に残りの数段を駆け登った。
「ちょっと、あんた……」
とっさに口を開こうとした彼に、しいっと人差し指を当てて沈黙を促す。
「お願いです。どうかわたしを匿って下さい! ここに上ってくる男子生徒に私の存在を知られたくないんです! どうかお願いします!!」
小声で、かつ早口でまくしたてたリディアにポカンとする男子生徒。無理もない。だがもう時間がなかった。リディアは頼みましたよ、とぎりぎり二人から見えない位置へ逃げ込む。
「お、先客がいるじゃん」
間一髪。グレンが男子生徒に声をかけた。
「お前、一年? ここに何の変哲もない地味な女子生徒が来なかったか?」
(お願いします。お願いします。お願いします……)
必死でリディアは願掛けした。生き延びたい。あいつらの手に堕ちたくない。平穏な昼休みを過ごしたい!
「それって、黒い髪に青い目の女子生徒ですか?」
「そうそ。後ろで一つに結んだ、あんまり記憶に残らないタイプの、平々凡々な女」
うるさい。余計なお世話だ。いや、それよりもリディアは男子生徒に自分が売られるのではないかと生きた心地がしなかった。心臓が口から飛び出しそうだ。いや、いっそこのまま飛び出して楽になりたい。
「屋上に行ったんじゃない?」
メルヴィンが面倒なことを付け加える。
「お、じゃあ行ってみるか」
(やめろおおおお……)
リディアは心の中で絶叫した。もう終わりだ!
「……その女子生徒なら、さっき屋上が閉まっているのに気づいて、真っ青な表情で階段を降りて行きましたよ」
リディアは目を見開いた。
「まじ? 行き違いになったのかよ」
「運が彼女に味方したみたいだね。どうする、グレン?」
「こうなったら絶対に捕まえてやる」
行こうぜ、とグレンたちは別の場所へ探しに行った。
「……もういいんじゃないの」
足音が完全に遠ざかったところで男性生徒がリディアに言った。よろよろと這いずるようにして彼女は出てきた。目の前の彼が救世主のように神々しく映った。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
「お礼はいいよ。それより用が済んだんなら、早くどっか行って」
「あの、そうしたいんですけど、ここが一番安全なんで一緒に昼食とっていいですか」
「は?」
正気か、という彼の反応を気にせず、リディアはどっこいしょと隣に腰かけた。無事に危険が過ぎ去り、心地よい空腹が迎えている。今日はお腹いっぱい食べられそうだ。
ランチボックスを開け、サンドイッチを一口齧る。とても美味しい。ただのサンドイッチではない格別な味がした。
遠慮もせずもしゃもしゃとサンドイッチを食していくリディアに彼は呆気にとられていたが、やがて呆れたように言った。
「あんた、意外と図々しいんだね」
ごくんと飲み込み、リディアはきっぱりと答えた。
「そうしないと生きていけませんから」
「……あっそ」
何かを察したように押し黙る男子生徒。しばらくリディアの咀嚼する音だけが響いた。彼はひどく居心地が悪そうであった。
「わたし、リディア・ヴァウルと申します。あなたは初日に話しかけて下さった方ですよね?」
「……ロイド・ハウレス」
「ハウレス様。先ほどは助けて頂きどうもありがとうございました」
「ロイドでいい。その堅苦しい話し方もやめて」
「ですが、ハウレス様は貴族で、わたしは平民ですし……」
平民は貴族を敬う。それがこの学園の、世間の常識であった。
だがロイドはいいからと鬱陶しそうに顔を顰めた。
「平民とか貴族とか、学び舎においてそういう身分差とか関係ないでしょ。だいたい俺は他の生徒と違って、ただのお飾りの貴族だし」
「お飾り?」
どういうことだと首をかしげるリディアにロイドは自嘲するように教えてくれた。
「俺のおふくろは貴族だったんだけど、親父と駆け落ちして、一度実家から追い出されたの。けど爺さんの家が他のやつらに爵位渡したくないからって、俺を跡取りとして呼び戻した。それで俺は入りたくないもない学園に入学させられて、都合のいい駒として今この学校に通っているの。だからお飾り貴族ってわけ」
「なるほど……」
貴族にもいろんな事情があるんだな、とリディアは思った。
(というか意外と話すな……)
普段教室ではだんまりを貫いているので、今しがたペラペラと自分のことを話したロイドにリディアは驚きを隠せなかった。
「でもそんな込み入った話、見ず知らずのわたしに話してよかったんですか」
「これくらい貴族連中の間では有名だし、別にいい。あんた、他に話す相手もいなさそうだし」
「……それもそうですね」
グレンたちとのやり取りを教室で見られて以来、あるいは一年留年したことがばれたからか、リディアは露骨にクラスメイトから距離を置かれている。いや、中には話しかけてくる生徒もいるが、そのほとんどが嫉妬や牽制といった類。あるいはグレンたちとの仲を取り持ってもらおうと期待する者ばかりで、純粋に自分と仲良くなりたいという人間は一人もいなかった。
(わかってはいたけれど、やっぱりきついな……)
せめて一人くらい、気軽に話せる友人が欲しかった。
「この学校に入ってつくづく思いましたけど、やっぱり身分の差って大きいんですね」
「両親や祖先が偉いだけで、自分自身は何にもやってない生徒ばかりなのにな」
ちらりとリディアはロイドを見た。出自が訳ありなせいか、彼はあまり貴族に対してよい印象を持っていないようだ。
(もしかしたら、友達になれるかもしれない……)
思えば彼はリディアが留年したクラスで初めて話しかけてくれた人だ。そしてあの悪魔たちからも助けてくれた。これはもう何かの縁だろう。リディアはそう思った。
「あ、あの!」
突然大きな声を出したリディアにロイドが目を丸くする。
「びっくりした。何、急に」
「わ、わたしと友達になってくれませんか?」
「嫌だけど」
即答だった。考えることすら、彼はしなかった。思いっきり迷惑そうな顔をされた。
「他の連中は鬱陶しいくらい人とつるむけど、俺は人と馴れ合うのあんまり好きじゃない」
それに、とロイドは固まったリディアを置き去りにして立ち上がった。
「あんたみたいな留年した人間と関わるとこっちまで堕落しそうだし? 友達ごっこやりたいなら、他の人間を探しなよ。というか、その前にきちんと勉強するべきでしょ」
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