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33、蜜月、みたいな*
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それから二人は互いを名前で呼ぶようになった。しかしブランシュの方はまだ躊躇いがどこかにあり、ぎこちない呼び方になって、結局「あなた」とか二人称で呼ぶ方へ逃げてしまうことがある。
そうすると、マティアスからの仕置きがある。
「また、名前を呼んでくれませんでしたね」
「ぁっ、ちがっ、ゃんっ……」
夜の寝台で、互いに裸になって、マティアスがブランシュを汲み敷いて、剛直を蜜壺に突き刺して、ぬちゃぬちゃと粘着質な音を立て、結合部からたくさん蜜を溢れさせながら、耳元で責めるように囁いてくる。
「何が、違うんですか」
「あんっ、ごめ、んっ、なさいっ、気をつけるからっ」
耳朶を軽く噛まれ、彼女はびくんと腰を反らした。
「ブランシュは、本当に耳が弱いのですね。私のこれで突かれるより」
「ぅんんっ――」
ぐぷっと音を立てて雄茎が引かれたかと思うと、また一気に奥まで挿入される。ブランシュは声にならない悲鳴を上げて、記憶を失ったことも、王女という身分も、何もかもすべて忘れて、マティアスが与える快感に溺れた。
はぁ、はぁ、と乱れた呼吸で胸を大きく上下させて、蕩けた顔を晒すブランシュにマティアスが上から覗き込む。
「ブランシュ。気持ちがいいですか」
「ええ……とても……こわいくらい……」
ブランシュの答えに満足したようにマティアスは額やこめかみに口づけし、唇へと重ねた。特に抵抗することなく、彼女は口を開いて、マティアスを招き入れる。互いに舌を絡ませ、その心地よさにうっとりと微笑んだ。
「マティアス……」
彼の名前を呼ぶと、ブランシュの中にある彼のものが大きく、その存在を主張してくる。今おまえを支配しているのは自分だというように。
(そう。わたくしは、彼のもの……)
望んでいた。彼にこうして抱かれることをずっと――
(違う)
それは今のブランシュではない。呑み込まれそうになって、慌ててブランシュは自分を取り戻そうとする。
「ブランシュ。閨事の最中に考え事ですか」
「えっ? ……あっ、だめっ、いったばかりだから、うごかないでっ、あぁっん……」
また抽挿を始められ、ブランシュはマティアスに翻弄される。仕置きをされる時は前戯が長く、こちらが泣いて頼むまで挿入してくれない。そして繋がったら、またそこから気の遠くなるほどしつこく、一度達してもねちっこく弄られる。
「はぁっ、マティアス、もう、わたくしっ……」
「ええ、何度でもいってください。何度でも、私が導いて差し上げます、からっ」
「ああぁっ――」
ブランシュはもう、マティアスの身体以外では満足できないだろう。この男でなければ、自分は言葉にできないほどの心地よさを、頭が真っ白になるほどの悦楽を味わえない。
(わたくしは、もう……)
「はぁ、ブランシュ……ブランシュ……」
気も狂いそうな声で呼ばれると、こちらまでおかしくなる。もう無理だと思いながらも、まだ彼を求めようとする。何度同じことの繰り返しでも、力尽きて果てても、尽きることのない欲望が湧き上がって応えてしまう。
ブランシュはもう、マティアスのことしか考えられなかった。
まるで蜜月かのように二人は体を重ね、一緒に過ごした。マティアスはいつも平然とした様子で接してきたが、ブランシュの方はなんだか落ち着かず、たまに彼がじっと自分を見ていることに気づくと、彼女の方がひどく動揺する有様であった。
「陛下から、そろそろ帰って来るよう手紙が届いたわ」
王家の紋章が押された封を受け取り、マティアスも中へ目を通す。
「心身ともに健康になられたら、と書かれてあります」
「もう十分、なったでしょう」
マティアスの何か言いたげな視線に、ブランシュは何か、と尋ねる。
「もう、異性と会っても、怖くはありませんか」
「……怖い、という気持ちはまだあるかもしれないけれど、会っても大丈夫よ」
本当ですか、と彼は再度確かめてくる。何かあったらと、心配しているのだろう。ブランシュはしっかりと頷いた。
「わたくしは大丈夫よ、マティアス」
いつまでもここに閉じ籠っているわけにはいくまい。
「あなたの妻として生きることを、陛下にもお伝えしなければなりません」
「……そうですね」
少し、マティアスが寂しそうに見えたのでブランシュは不思議に思う。
「まだ帰りたくないの?」
「ええ。……正直、名残惜しく思います」
「あなたのことだから、家のことが気になって早く帰りたいと思っていたけれど……ひょっとして、仕事をするのが嫌になったとか?」
真面目な人間だと思っていたが、休みをもらえて本当はそうじゃないとわかったのか。ブランシュが興味深そうに問えば、マティアスは何とも言えない表情をする。
「なぁに、その顔は」
「いいえ。貴女は興味がないことには、本当に鈍く、残酷な方なんだと思いまして」
「ええ?」
どういうことだと尋ねても、マティアスは自分で考えてくださいと最後まで答えを教えてくれなかった。
そうすると、マティアスからの仕置きがある。
「また、名前を呼んでくれませんでしたね」
「ぁっ、ちがっ、ゃんっ……」
夜の寝台で、互いに裸になって、マティアスがブランシュを汲み敷いて、剛直を蜜壺に突き刺して、ぬちゃぬちゃと粘着質な音を立て、結合部からたくさん蜜を溢れさせながら、耳元で責めるように囁いてくる。
「何が、違うんですか」
「あんっ、ごめ、んっ、なさいっ、気をつけるからっ」
耳朶を軽く噛まれ、彼女はびくんと腰を反らした。
「ブランシュは、本当に耳が弱いのですね。私のこれで突かれるより」
「ぅんんっ――」
ぐぷっと音を立てて雄茎が引かれたかと思うと、また一気に奥まで挿入される。ブランシュは声にならない悲鳴を上げて、記憶を失ったことも、王女という身分も、何もかもすべて忘れて、マティアスが与える快感に溺れた。
はぁ、はぁ、と乱れた呼吸で胸を大きく上下させて、蕩けた顔を晒すブランシュにマティアスが上から覗き込む。
「ブランシュ。気持ちがいいですか」
「ええ……とても……こわいくらい……」
ブランシュの答えに満足したようにマティアスは額やこめかみに口づけし、唇へと重ねた。特に抵抗することなく、彼女は口を開いて、マティアスを招き入れる。互いに舌を絡ませ、その心地よさにうっとりと微笑んだ。
「マティアス……」
彼の名前を呼ぶと、ブランシュの中にある彼のものが大きく、その存在を主張してくる。今おまえを支配しているのは自分だというように。
(そう。わたくしは、彼のもの……)
望んでいた。彼にこうして抱かれることをずっと――
(違う)
それは今のブランシュではない。呑み込まれそうになって、慌ててブランシュは自分を取り戻そうとする。
「ブランシュ。閨事の最中に考え事ですか」
「えっ? ……あっ、だめっ、いったばかりだから、うごかないでっ、あぁっん……」
また抽挿を始められ、ブランシュはマティアスに翻弄される。仕置きをされる時は前戯が長く、こちらが泣いて頼むまで挿入してくれない。そして繋がったら、またそこから気の遠くなるほどしつこく、一度達してもねちっこく弄られる。
「はぁっ、マティアス、もう、わたくしっ……」
「ええ、何度でもいってください。何度でも、私が導いて差し上げます、からっ」
「ああぁっ――」
ブランシュはもう、マティアスの身体以外では満足できないだろう。この男でなければ、自分は言葉にできないほどの心地よさを、頭が真っ白になるほどの悦楽を味わえない。
(わたくしは、もう……)
「はぁ、ブランシュ……ブランシュ……」
気も狂いそうな声で呼ばれると、こちらまでおかしくなる。もう無理だと思いながらも、まだ彼を求めようとする。何度同じことの繰り返しでも、力尽きて果てても、尽きることのない欲望が湧き上がって応えてしまう。
ブランシュはもう、マティアスのことしか考えられなかった。
まるで蜜月かのように二人は体を重ね、一緒に過ごした。マティアスはいつも平然とした様子で接してきたが、ブランシュの方はなんだか落ち着かず、たまに彼がじっと自分を見ていることに気づくと、彼女の方がひどく動揺する有様であった。
「陛下から、そろそろ帰って来るよう手紙が届いたわ」
王家の紋章が押された封を受け取り、マティアスも中へ目を通す。
「心身ともに健康になられたら、と書かれてあります」
「もう十分、なったでしょう」
マティアスの何か言いたげな視線に、ブランシュは何か、と尋ねる。
「もう、異性と会っても、怖くはありませんか」
「……怖い、という気持ちはまだあるかもしれないけれど、会っても大丈夫よ」
本当ですか、と彼は再度確かめてくる。何かあったらと、心配しているのだろう。ブランシュはしっかりと頷いた。
「わたくしは大丈夫よ、マティアス」
いつまでもここに閉じ籠っているわけにはいくまい。
「あなたの妻として生きることを、陛下にもお伝えしなければなりません」
「……そうですね」
少し、マティアスが寂しそうに見えたのでブランシュは不思議に思う。
「まだ帰りたくないの?」
「ええ。……正直、名残惜しく思います」
「あなたのことだから、家のことが気になって早く帰りたいと思っていたけれど……ひょっとして、仕事をするのが嫌になったとか?」
真面目な人間だと思っていたが、休みをもらえて本当はそうじゃないとわかったのか。ブランシュが興味深そうに問えば、マティアスは何とも言えない表情をする。
「なぁに、その顔は」
「いいえ。貴女は興味がないことには、本当に鈍く、残酷な方なんだと思いまして」
「ええ?」
どういうことだと尋ねても、マティアスは自分で考えてくださいと最後まで答えを教えてくれなかった。
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