記憶を失った悪女は、無理矢理結婚させた夫と離縁したい。

りつ

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「あなたはわたくしを嫌っていないとだめなの。許したりしたら、きっとあなた自身が辛くなる……!」
「ブランシュ……」

 マティアスは呆然とブランシュの告白を聞いていたが、俯いて涙を流すブランシュの顔をもう一度上げさせ、唇を優しく押し当てた。

「公爵、んっ」

 もう一度、今度は下唇を優しく食まれ、口を開けるように舌で突かれる。ブランシュが拒もうとすれば、下の口を弄っていた指が一点を掠める。

「ぁっ」

 上の口が開いて、舌が差し込まれる。くぐもった声をあげながら、彼の胸を推して突き放そうとするけれど、後ろで括っていた髪を梳かれ、より深く咥内を貪られる。

 上も下も翻弄され、ブランシュの抵抗は長く続かず、身体を何度か小刻みに震わせ、気づけばぐったりと寝台に仰向けにさせられていた。マティアスは濡れたシャツやズボンを脱ぎ捨て、ぎしりと音を立ててブランシュに覆い被さってくる。

 雨で濡れて冷えていた身体が触れ合い、そこから熱が生まれてくるように感じた。彼は呼吸を荒くさせながら、ブランシュの臀部を開くように撫でまわし、乳房を揉んで、すでに硬くなっていた蕾を舌で転がした。

「はぁ、こうしゃく……」
「名前を呼んでください」

 ブランシュはその言葉に口を閉ざす。マティアスがもどかしげに肌を押し付ける。

「呼んで、ブランシュ」
「……」
「ブランシュ」

 マティアス、とブランシュは譫言のように口にした。

「もう一度言って」
「……マティアス」
「もっと」
「マティアス、マティアスっ、んっ、……マティアス、あぁっん……!」

 ぶちゅっ、と花芽を強く押しつぶされ、ブランシュはまたはしたない声をあげた。

「あぁ、ブランシュ……」

 彼は痛いほど張りつめた屹立をぐずぐずに溶けきった蜜口に押し付けながら、ブランシュと舌を絡ませる。焦点の合わない目は、互いの存在だけを映し、渇望していた。

「んぅっ、マティアス、はぁ、ん……マティアス……!」

 花芽が擦れ、蜜壺が足りないときゅうきゅう切なく疼く。ブランシュの瞳は、ねだるようにマティアスに訴えかけていた。

「はぁ、ブランシュ。何が欲しいんですか」
「ぁっ、だめっ、だめっ」

 言ったらだめだ。言ったら戻れなくなる。

 残った理性でブランシュは懸命に抗おうとする。記憶を失う前のブランシュと同じになりたくなかった。ブランシュはブランシュでいたかった。

「言ってくれ、ブランシュ。貴女は私にどうして欲しいんだ……!」

 くしゃりと顔を歪め、マティアスが泣きそうな声で言った。

(あ……)

 彼のその顔に、彼女は答えていた。

「わたくしは、あなたが欲しい」

 二人の視線が交わり、時が止まったように感じた。

「マティアスが好き……記憶を失くしても、わたくしはあなたが愛おしいの」

 ――ああ、とうとう言ってしまった。彼女と同じになってしまった。

「そうか……貴女は、私が好きなんだな」

 彼がブランシュの前髪を掻き分け、潤んだ目を覗き込んでくる。もう、止められない。止まらなかった。堰を切ったように溢れ出す。

「ええ。すき……ごめんなさい。すきなの。どうしようもなくあなたが、あぁっ……!」

 一気に剛直が突き入れられた。散々焦らされていたからか、中はうねるようにきつく締まり、迎え入れるように雄茎は扱かれ、媚肉に包まれて奥へ奥へと誘われる。マティアスはふー、ふーっと荒い息を吐き出しながらブランシュの中を突き進む。

「はぁ、はぁ、ん、あぁっ……」

 凍えるように寒かったのに、今は二人とも燃えるように熱くて、ブランシュの肌はしっとりと汗ばんで、マティアスの額からもぽたぽたと滴が落ちていく。

(マティアス……マティアス……)

 ブランシュはマティアスと一つになれて、言葉にできない想いでいっぱいだった。歓喜に震える心に反応するように身体が彼を受け入れ、もっと深く繋がりたいと望んでいる。

「んっ、ぁっ……あぁっ、マティアス……!」

 亀頭でどこを突かれても、苦しいほど男根が硬くその存在を主張しても、気持ちが良くて、淫水がどっと溢れ、ぐちゅ、ずちゅっという粘着質な淫音を立てていく。

 ブランシュは尻をわずかに浮かせ、もっと欲しいというように自ら彼のものをねだり、細い脚を彼の腰に絡ませた。そうするとマティアスが悩ましげな表情で名前を呟き、激しく腰を動かしてくる。容赦なく粘膜が擦られ、最奥が開いて、彼の激しい切迫感が伝わってくる。

「はぁ、はぁ、ブランシュ、ブランシュ……!」
「うっ、あっ、あっ、マティア、ぁっ、ぁあっ、んんっ――!」

 熱い飛沫が放たれる。ブランシュの中に注がれていく。

「ぁ、はぁ、はぁ……マティアス、なかに……」

 今までは必ず外へ出していたので、ブランシュは掻きださないと、とマティアスに伝えようとしたが、彼女を黙らせるように、マティアスは陰茎を動かし、口を塞いできた。押しのけようとしても、快楽に堕ちた身体はまるで力が入らない。

「んっ、はぁ、マティアス、だめ、んふぅっ」

 何も言うな、というように彼の目はブランシュを見つめ、口づけを繰り返す。舌が触れて、ねっとりと絡み合い、吸われて離れていくと、銀の糸が引いていた。キスと一緒に胸を揉まれるのが気持ちいい。彼の身体で蕾が押しつぶされ、擦れるのもよかった。

 ブランシュのほっそりとした肢体はマティアスの身体に包まれ、蹂躙されるように組み敷かれ、腰を反らせ、彼の背中に手足を巻きつけさせた。

「ぁんっ、あっ、またっ、んぅっ……」

 何度達しても、足りなかった。何度でも、マティアスはブランシュを高みへ昇らせ、彼女もまた一緒に昇りつめることを繰り返した。

 今までブランシュを嘲笑するような言葉や嫌味をかけていたマティアスが、今はただ荒々しく息を吐き出し、切なげにブランシュの名前を呼ぶ声以外、何も言わず、彼女を貪り、精を注いでいく。ぎしぎしと古い寝台が軋む音、激しい雨音と雷鳴が轟く音にかき消されるように、二人の声は互いの他、誰にも聞こえない。

 まるで世界で二人きりになってしまったかのような感じがして、心細く、けれど余計にマティアスの存在が愛おしく、彼をもっと求め、やがて身体が一つに溶けていくように、ブランシュはマティアスの腕の中で気を失った。

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