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17、新たな国王

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 ブランシュの父親が亡くなったことで、次の王には当然息子のジョシュアが即位した。新しい国王は臣下たちの祝福を受け、その若さと美貌は民衆から素晴らしい治世を期待された。

「舞踏会、ですか……」
「そうだ。父が亡くなり、暗い雰囲気が漂っているからな。気持ちを新たにするためにも、大々的に執り行う予定だ」

 年老いた王の死を悼むのは、ほんのわずかなひと時であったように思う。それでも王宮に残るわずかな憂いも、ジョシュアは取り除きたいと考えているらしい。あるいは、父の思い出を語り、これからは自分がその意思を受け継いでいく、という方向で進めたいのかもしれない。

「おまえも、今回は参加しなさい」
「わたくしも、ですか……?」

 自分には関係ないことだと思っていたブランシュは戸惑ったようにジョシュアを見つめ返す。

「そうだ。おまえもすでに結婚した身とはいえ、父上の娘なのだから」
「でも、わたくしは……」

 あまり参加したくない、と心の中で呟く。

 国王が開催する舞踏会なのだから大勢の人間が参加するだろう。その中で自分の存在は否が応でも注目される。記憶を失ったことがどこまでの人間に知れ渡っているかは知らないが、自殺まがいの騒ぎやマティアスとの関係、そしてこれまでの王女の振る舞いについては、きっと何か言われる。

 その中に飛び込んでいく勇気は、父を亡くしたばかりのブランシュにはなかった。

「今回は、欠席してはいけないでしょうか」
「……ブランシュ。これは上に立つ者としての、役目だ。きちんと出席しなさい」

 命じられれば、彼女が逆らうことはできなかった。

「マティアスがそばについていてくれるだろうから、何かあったら彼を頼りなさい」

 公爵の名を出され、ブランシュはよりいっそう気持ちが沈んだ。彼はあの晩、涙を流すブランシュを抱きしめ、一晩中そばに寄り添ってくれた。それからは無理に抱くことはせず、ただ昼間にだけ、様子を見るかのように部屋へ訪れる。

 気を遣われている。

(あんなに酷いことをしたというのに……)

 もう演技だとは、思わないのだろうか。いっそそう思って突き放してくれた方が、まだ楽なような気がして、けれど確かにあの夜彼に抱きしめられて救われたのも事実だったので、ひどく複雑な心中であった。

(せめてあまり迷惑をかけないよう、じっとしていましょう……)

 以前は片時もマティアスを離さず自分のそばに控えさせ、ダンスも彼とばかり踊っていたことを聞かされたブランシュはそう誓うのだった。


 舞踏会当日。相応しい正装をさせられて、その時点ですでにブランシュは疲れ果ててしまった。

「姫様。とてもよくお似合いですわ」

 侍女たちがうっとりとブランシュを眺め、自分たちの出来栄えに惚れ惚れとしていた。

(知らない人みたい……)

 鏡に映し出された女性は、あの肖像画の女性とよく似ていた。金色の中に赤みのある色が混じったストロベリーブロンドはうなじが見える形でまとめ上げられ、白い首筋と、頼りなさげな肩の線を露わにしていた。手足も長くて、腰回りもほっそりとしているが、胸元は豊かで、襟ぐりが深くても顔立ちのおかげで下品には見えず、儚げな雰囲気を醸し出していた。

(本当に、容姿だけはいいのね……)

 中身は悪魔みたいな性格をしていたというのに。

「姫様。ルメール公爵がお見えですわ」
「え」

 ブランシュは驚いた。てっきり会場でのエスコートだけだと思っていたから、わざわざ部屋にまで迎えに来るとは予想だにしていなかったのだ。

「ちょ、ちょっと待って。まだわたくし、心の準備が――」

 主人の制止も遅く、マティアスが部屋へ入ってくる。彼はブランシュの姿を見ると、目を瞠って、黙り込んだ。

 一方ブランシュも、公爵の正装姿に目を奪われた。もともと彼の見目の良さは日頃から顔を見るたびに認識してきたが、今日はいっそうその美貌を際立たせていた。

 呆けたように互いを見つめていた二人だが、やがてマティアスがハッとしたように顔を逸らしたことで、一気に現実へと引き戻された気がした。

「準備は、よろしいでしょうか」
「え、ええ……」

 まるで付き合い始めたばかりの恋人のようなぎこちなさを纏いながら、ブランシュたちは舞踏会が開かれる広間へと向かうのだった。


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