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1、目覚め

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 息苦しさを覚え、彼女はふと目を覚ました。瞼が重く、ゆっくりとしか開けられなかったけれど。

(ここは……)

 近くに髪の毛を後ろで一纏めにした女性がおり、驚愕の眼差しで自分を見つめたかと思うと、甲高い声で叫んで、逃げるように部屋を出て行った。まるで幽霊でも見た反応だと思っていると、ドタドタ騒々しい足音が聴こえてくる。

 バンッと扉が開かれたかと思うと、白い髭を蓄え、疲れ切った表情の老人が、それでも目だけは爛々と輝かせながらこちらへズカズカ歩いてくる。ずいっと無遠慮に覗き込んでくる顔に、不躾さを感じつつ、それでも身体が鉛のように重く、ぼんやりと見つめ返した。

「おお、ブランシュ! 目を覚ましたか!」

 落ち窪んだ眼球を潤ませたかと思うと、老人は大粒の涙を零し始める。
 どうしてこの人はこんなに泣いているのだろう。

(それにブランシュって……)

 いまいちよく回らない頭で、男性を見ている間にも、部屋にはぞくぞくと人が集まってくる。

 しかし彼らは目の前の号泣している男性と違って、どこか困惑したような、まさか目を覚ますなんて思いもしなかったという顔をしていた。いや、それならばまだいい方だ。

「目を、覚ましたのだな」

 大勢の人間を従え、吐き捨てるように言った男性――老人とどこか似通った雰囲気を持つ顔は今この状況を憎んでいるようにすら見えた。

(一体どういうことなの……)

 異様な空間であった。

 そんな中、また部屋へと訪れる男がいた。足音を立てず、物静かな登場であったが、みなが一斉にそちらへ視線を向ける。

 青年とも見える男性は白銀の髪に、冬の空を思わせる青の瞳をした、人形のように整った顔立ちをしていたが、能面のような表情を浮かべており、どこか不気味でもあった。彼女は男の顔を見て、なぜか心臓が忙しなく動き、そして身震いした。

 彼はこの部屋にいる誰よりも自分に敵意を抱いている。

(やだ、来ないで……)

 身の危険を感じ、起き上がろうとするも、身体は思うように動いてくれず、ヘッドボートに頭を擦りつけるかたちにしかならなかった。

「お目覚めになられたのですね、王女殿下」

(王女殿下?)

 それはまさか、自分のことを指しているのだろうか。

(いいえ、そもそもわたくしは……)

「貴女が私の屋敷で自殺を図ろうと聞かされた時は、息の根が止まりそうになりました」

 その言葉に彼女の方が呼吸が止まりそうになった。

(自殺? わたくしは、死のうとしたということ……?)

「王女殿下。なぜ死のうとしたのですか。まだ気に入らないことがあるのですか。私を無事に手に入れて、満足でしょう? それなのにまだ、」

 青年の声は抑えられていたが、隠しきれない激情が込められていた。目をカッと開き、こちらへ伸ばされる手は、まるで自分を捕えるようにも見え、パニックに陥った彼女はか細い悲鳴を上げていた。

「殿下……?」
「あなたは、誰ですか」

 彼女の言葉に、青年が瞠目した。周りもまた、息を呑む。老人によく似て、彼女を睨んでいた男が一歩踏み出し、きつい口調で述べた。

「ブランシュ。冗談はやめろ」

 彼女は怯えた表情を浮かべつつ、ゆるく首を振った。

「あなた方は一体誰です? ブランシュというのは、一体誰ですか?」

 自分は一体誰なのだ。

「あなたは、誰?」

 もう一度繰り返された言葉に、目の前の男性は呆然としたように自分を見つめ返した。

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