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67.決断の夜

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 宿舎の方へ戻る途中、名を呼ばれた。暗闇に紛れ、柱の影から出てきた男は笑みを浮かべており、リアンはここではなんだからと男が普段仕事する部屋へと引き換えした。

「――見事仕組まれましたね」

 二人きりになるやいなや、ジョナスはそう切り出した。薄暗い室内に蝋燭を灯し、リアンは揺らめく炎を見ながらそうだなと頷いた。

「国王を懐柔し、重臣たちにも都合のいいことを吐き捨てて納得させたわけだ」

 いつになく棘のある言葉にジョナスはうっそりと笑う。

「全員が全員、彼らのやり方に納得しているわけではありませんよ」
「反対する人間は確かにいると?」
「ええ。特に若い世代。彼らは民のことを考えず享楽に耽っている上の連中に、このままこの国の行く末を任せていいものかと燻った思いを抱えています」

 それと……とジョナスは続ける。

「聖女を絶対視する教会の人間ですね」
「……」
「聖女の力は教会からすれば奇跡であり、他国へおいそれとやるには恐れ多い、禁忌のようなものですから。我が国で囲って、丁重に扱うべきだと考えている者がほとんどです」

 ラシア国の教会はユグリットのように王家と対等と言える関係ではない。けれど聖女ナタリーの出現によってその均衡が崩れる可能性は大いに秘めていた。

「彼女は外の世界へ足を運び、全員とは言えませんが、病や怪我で苦しむ人間を癒した。それは少しずつ噂となって、篤い信仰心となってゆく……民を省みようとしない王家と比べてどちらに心が傾くか……」

 リアンはしばらく黙り込み、やがてジョナスの名を呼んだ。

「次の王は誰にする」
「当てはありますよ」

 リアンはまた口を噤み、けれど覚悟を決めてジョナスの顔を見た。彼はわかっているというように頷いた。

 それが互いの了承を得た確認であり、引き返せない運命を辿ることを決断した瞬間でもあった。

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