ナタリーの騎士 ~婚約者の彼女が突然聖女の力に目覚めました~

りつ

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39.敗者の末路

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「彼女はこれからどうなるのですか」

 賓客としてもてなしを受けていたリアンは、宴の席でそうアレクシスにたずねた。

「異端審問にかけられる」

 アレクシスは血のような赤い酒を飲みながら言った。

「異端審問……」

 リアンはディアナの顔を思い出す。アレクシスの言葉に顔を青ざめさせ、衛兵たちに連れて行かれる様は最初の姿とはかけ離れ、同情すら彼の胸に抱かせた。

(アレクシス殿下はやはりディアナのことを聖女と認めていないのか)

「異端審問にかけるのは、教会側の意向だ」
「教会側の?」
「そうだ。神の声を聴くことができるのは神に最も近い者、すなわち聖職者だ。それなのにあの娘はやつらを押しのけて神の意思を聞いたという」

 国王の次において、教会には大きな権力があった。聖女の存在は自分たちの立場を揺るがすものであり、沽券に関わる問題であった。いや、もう面目を潰されたと言っていいかもしれない。

「あの娘がただの反逆を企てた騎士ならば普通に処罰するだけで済んだのだがな」

 半分ほど飲み干したグラスをテーブルに置き、ため息を吐くようにアレクシスは言った。

「カルロス殿下はどうなさるおつもりですか」
「むろん、王城まで引きずり出して俺自らの手であの世へ送ってやる」
「けれど彼は……」

 聖女が捕えられたというのに、カルロスは籠城を続けている。そしてアレクシスは無理に城を落とすような真似はせず、静観している状況だ。もはや相手の切り札であった聖女ディアナも自身の手の内にあるというのに。

(なぜ早く捕えない)

「リアンよ、知っているか? ディアナはカルロスの乳母の娘でな、幼い頃から二人は気心の知れた仲であった」

 ボトルを片手に、溢れんばかりに酒を注いでゆく手元を見ながらリアンはなぜか緊張してくる。自分は聖女の素性を知ろうとしている。

「普通なら城の女官にでもなりそうだが、あの娘は騎士になる道を選んだ。なぜかわかるか?」
「……神の声が聞こえたからですか」
「声が聞こえたのは、騎士になってからだ」

 本当にわからないのか? と聞かれ、リアンは押し黙る。……わかっている。小さな頃からよく知っている相手。王子という辛い境遇に、何か力になってあげたいと思う気持ち。よく、わかる。

「女の騎士だ。当然一筋縄ではいかなかった。屈辱的な思いも、数え切れぬほど味わっただろうよ」

 けれどディアナは逃げなかった。カルロスのために。

「我が愚弟は、一体どんな道を選ぶと思う?」

 おまえならどうする。

「私なら……潔く負けを認めると思います」
「最期まで戦おうとしないのか」
「これ以上の犠牲は出したくないからです」

 何より大切な幼馴染が捕えられたのだ。自分だったらもう戦う意味を見出せない。

「それは正しい選択ではないな、リアン」

 アレクシスは正しくない、ともう一度呟いた。彼ならばそう言うだろうとリアンも思った。彼は騎士ではなく、王であるのだから。

「俺はたとえ最後の一人になろうと、敵へ向かってゆく。それが今まで共についてきてくれた臣下への報い方だ」
「ではカルロス殿下もきっとそうなさるでしょう」

 リアンがそう言えば、アレクシスは意味深長な笑みを浮かべたまま、どうだろうなと呟くのだった。

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