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25. 追いつめられて

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「リアン」

 真夜中の訪問者に、ナタリーが駆け寄ってくる。

「もう、ここへは来ないかと思っていたわ」
「どうして?」
「だって……」

 大変だったでしょう? というナタリーの言葉に、リアンはそんなことないよと微笑んだ。実際は心身ともに疲れ切っていた。夜に忍びこもうとしても、警備が厳重にされており、金を渡してももう以前のように取り合ってくれなかった。

 それでもしつこく頼み続けたリアンに折れたのか、今夜だけだと通してくれたのだ。それもわずかな間だけであるが。

「リアン。大丈夫?」

 ナタリーはそっとリアンの頬に触れてくる。あたたかい温もりがすぐに体に流れ込んで、全身の疲れを癒すようだった。心地よいとリアンはいつまでもその手に触れていたかったが、彼女の手に自分の手を重ねた。

「ナタリー。俺にはいいよ」
「でも」
「いいから、それより、ほら、座ろう」

 部屋の中は、本当に質素で、寝台と机の他には何もなかった。

(まるで牢獄だな……)

「ナタリー。もう少しだけ、我慢してくれ。俺が、」
「ねぇ、リアン。もういいよ」
「は?」

 ナタリーは泣きそうな顔で、首を振る。

「あなたがわたしのためにいろんな人にお願いしているって聞いたわ」
「それは……」
「あなたのおかげで、わたし本当に救われていたの」
「俺は、何もしていない」

 何もできていない。彼女を助けられていない。

「そんなことないよ」

 俯いて、固く手を握りしめるリアンをナタリーは優しく慰めてくれた。

「わたしね、とても嬉しかった。リアンはいつもわたしのことを心配してくれる優しい人なんだって。……でもね、そのせいであなたを悪く言う人もいる」
「そんなの、」

 気にするな、と言いかけたリアンにナタリーは悲しそうに微笑んだ。

「わたしはね、仕方ないんだよ。役目だもの」
「体を壊すまで酷使されることがか?」

 吐き捨てるようにリアンは言った。ナタリーはそうだよと力なく笑った。それがリアンには無性に腹が立って、彼女の細い肩を掴んだ。目を覚ませ、というふうに。

「ナタリー、俺と逃げよう」

 リアンはずっと考えていたことを口にすると、もうこれしかないように思えた。

「ここに居たら、おまえは永遠に搾取される。ただ静かに暮らしたい、っていう最低限の望みも、やつらは許さない」

 だから、とリアンは痩せたナタリーの彼女を抱きしめた。

「俺と一緒に、どこか静かな場所へ逃げよう。ナタリーがもう苦しまなくてもいい、楽園みたいな場所に」

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