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47、罪悪感から*
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結婚しても、オズワルドが優先するのはシェイラだった。マティルダの言葉で彼女が悲しそうな顔をしたら、たとえ己の妻であっても疑わなければならない。
「はい、わかりました」
「ごめんなさい。これからは気をつけますわ」
理不尽で、一体どちらの味方なのだと言いたくなる夫の態度にも、マティルダは愚痴一つ漏らさず、従順に受け入れた。そんな彼女の態度にオズワルドはますます罪悪感を募らせる。
まだ子どもだと思っていたマティルダは、決して馬鹿ではなかった。温室のことを口にされて思わず眉をひそめてしまった自分の一瞬の変化を見逃さなかった。そしてその後温室の話題には一切触れず、実際に近づくこともしなかった。
おそらく彼女は自分とシェイラの関係に気づいている。一緒に暮らしているのだ。気づかないはずがない。
(いっそ怒ってくれればいいのに)
そうすれば、離婚することもできる。離れに追いやられて、ろくに相手もしない夫などこちらから願い下げだと実家に泣きつけばいい。娘可愛さに男爵は腹を立て、王家に離婚を申し立て……自分は何もかも捨てるはめになる。
それでもいいと思った。いっそそうなってほしい。それがこれまで裏切りを重ねてきた自分への罰だ。
――だが、マティルダが実家に泣きつくことはしなかった。むしろ与えられた環境に適応して、悠々自適に暮らし始めているようにさえ見えた。
(きみは何を考えている)
拾った子犬をせっせと可愛がっているマティルダの姿を眺めながら、オズワルドはふと怯えにも似た感情を抱くのだった。
そんな生活ががらりと変わったのは、マティルダが飼っていた犬たちに噛まれたことがきっかけだった。シェイラが犬を連れて離れの敷地内に入ったということを知り、さすがのオズワルドも苦言を呈した。
「どうしてそんなわざわざ危ない真似をしたんだ」
「ごめんなさい……なにか、会話のきっかになると思って……」
犬たちはオズワルドとシェイラによく懐いているから、暴走しないと思ったのだろう。だがそれは他の人間には当てはまらず、過去兄に怪我をさせたことを踏まえれば、やはり軽率な振る舞いであった。噛まれて死ぬ可能性だってあるのだ。
「オズワルド。私、マティルダに謝りたいわ」
「……もう少し時間を置いた方がいいと思うが」
「お願い。一言だけでいいの」
シェイラはそう頼んでマティルダに謝りに行ったが、すげなく追い返されたそうだ。落ち込んでいたので慰めはしたが、マティルダの態度も理解できた。
今度ばかりは彼女も許せないようで、夫である自分を部屋へ入れようとしなかった。
(そろそろ、限界かもしれない……)
もともと無理だったのだ。愛してもいないのに結婚するなんて。今回のことがなかったとしても、いつか必ず似たようなことが起こったはずだ。
(離婚しよう)
もっと早くそうするべきだった。そもそも結婚してはいけなかった。マティルダにも本当に悪いことをした。せめて処女であることが救いかもしれない。自分のような男ではなく、彼女のことを本当に愛している男性と再婚し直すべきだ。咎は全て自分にある。世間にも自分のせいだ、彼女は何も悪くないと説明する。
そう彼は提案するつもりだった。
「わたしを旦那様の本当の妻にしてください」
しかしマティルダはオズワルドに抱かれることを望んだ。
わけがわからなかった。他の女を愛している男など毛嫌いするはずだ。抱かれるなど、言語道断で嫌に決まっている。なのにどうして……
(無理だ……)
愛することなどできるはずがない。どんなに想いが届かなくても、自分が愛しているのはシェイラだけだから……
「これ以上、どうかわたしを惨めな気持ちにさせないでください」
オズワルドはマティルダの瞳に折れた。
罪悪感で彼女を抱いた。
シェイラの他にも、女性を抱いたことはあった。だがそれはすべて商売女であり、シェイラを抱くようになってからは彼女だけに身を捧げてきた。またシェイラに関してもすでに義兄によって快楽を教え込まれていたから、処女を抱くのはマティルダが初めてであった。
「ぅ、あ、いたい……」
ぎこちなく、まだ固い蕾はなかなか解れず、暴いていくたびに緊張を強いた。たった一回で快楽など得られるはずもなく、男性器は凶器となってマティルダの中を蹂躙する。摩擦によってもたらされるのはただただ痛みでしかなく、彼女は声すら出ないのかぎゅっと目を瞑り、息さえ止めようとしていた。
オズワルドもまた、初めて味わう処女の締め付けに息を呑んだ。
(すまない、シェイラ……)
彼女を裏切ってしまった。申し訳ないという気持ちも、きつく陰茎が締めつけられたことで掻き消える。だが中には出したくないとすんでのところで引き抜いて外へ出した。
(ああ……)
血が混じっているのを目にして、オズワルドはシェイラ以外の女を抱いてしまったことを思い知らされる。
マティルダはぐったりと目を瞑っていた。だがオズワルドの言葉に目を開いて、あまつさえ「ありがとうございます」とお礼まで言ってきたので、彼は何とも言えない気持ちになる。そして自分が逃げ出せない一歩を踏み出してしまった気がした。
「はい、わかりました」
「ごめんなさい。これからは気をつけますわ」
理不尽で、一体どちらの味方なのだと言いたくなる夫の態度にも、マティルダは愚痴一つ漏らさず、従順に受け入れた。そんな彼女の態度にオズワルドはますます罪悪感を募らせる。
まだ子どもだと思っていたマティルダは、決して馬鹿ではなかった。温室のことを口にされて思わず眉をひそめてしまった自分の一瞬の変化を見逃さなかった。そしてその後温室の話題には一切触れず、実際に近づくこともしなかった。
おそらく彼女は自分とシェイラの関係に気づいている。一緒に暮らしているのだ。気づかないはずがない。
(いっそ怒ってくれればいいのに)
そうすれば、離婚することもできる。離れに追いやられて、ろくに相手もしない夫などこちらから願い下げだと実家に泣きつけばいい。娘可愛さに男爵は腹を立て、王家に離婚を申し立て……自分は何もかも捨てるはめになる。
それでもいいと思った。いっそそうなってほしい。それがこれまで裏切りを重ねてきた自分への罰だ。
――だが、マティルダが実家に泣きつくことはしなかった。むしろ与えられた環境に適応して、悠々自適に暮らし始めているようにさえ見えた。
(きみは何を考えている)
拾った子犬をせっせと可愛がっているマティルダの姿を眺めながら、オズワルドはふと怯えにも似た感情を抱くのだった。
そんな生活ががらりと変わったのは、マティルダが飼っていた犬たちに噛まれたことがきっかけだった。シェイラが犬を連れて離れの敷地内に入ったということを知り、さすがのオズワルドも苦言を呈した。
「どうしてそんなわざわざ危ない真似をしたんだ」
「ごめんなさい……なにか、会話のきっかになると思って……」
犬たちはオズワルドとシェイラによく懐いているから、暴走しないと思ったのだろう。だがそれは他の人間には当てはまらず、過去兄に怪我をさせたことを踏まえれば、やはり軽率な振る舞いであった。噛まれて死ぬ可能性だってあるのだ。
「オズワルド。私、マティルダに謝りたいわ」
「……もう少し時間を置いた方がいいと思うが」
「お願い。一言だけでいいの」
シェイラはそう頼んでマティルダに謝りに行ったが、すげなく追い返されたそうだ。落ち込んでいたので慰めはしたが、マティルダの態度も理解できた。
今度ばかりは彼女も許せないようで、夫である自分を部屋へ入れようとしなかった。
(そろそろ、限界かもしれない……)
もともと無理だったのだ。愛してもいないのに結婚するなんて。今回のことがなかったとしても、いつか必ず似たようなことが起こったはずだ。
(離婚しよう)
もっと早くそうするべきだった。そもそも結婚してはいけなかった。マティルダにも本当に悪いことをした。せめて処女であることが救いかもしれない。自分のような男ではなく、彼女のことを本当に愛している男性と再婚し直すべきだ。咎は全て自分にある。世間にも自分のせいだ、彼女は何も悪くないと説明する。
そう彼は提案するつもりだった。
「わたしを旦那様の本当の妻にしてください」
しかしマティルダはオズワルドに抱かれることを望んだ。
わけがわからなかった。他の女を愛している男など毛嫌いするはずだ。抱かれるなど、言語道断で嫌に決まっている。なのにどうして……
(無理だ……)
愛することなどできるはずがない。どんなに想いが届かなくても、自分が愛しているのはシェイラだけだから……
「これ以上、どうかわたしを惨めな気持ちにさせないでください」
オズワルドはマティルダの瞳に折れた。
罪悪感で彼女を抱いた。
シェイラの他にも、女性を抱いたことはあった。だがそれはすべて商売女であり、シェイラを抱くようになってからは彼女だけに身を捧げてきた。またシェイラに関してもすでに義兄によって快楽を教え込まれていたから、処女を抱くのはマティルダが初めてであった。
「ぅ、あ、いたい……」
ぎこちなく、まだ固い蕾はなかなか解れず、暴いていくたびに緊張を強いた。たった一回で快楽など得られるはずもなく、男性器は凶器となってマティルダの中を蹂躙する。摩擦によってもたらされるのはただただ痛みでしかなく、彼女は声すら出ないのかぎゅっと目を瞑り、息さえ止めようとしていた。
オズワルドもまた、初めて味わう処女の締め付けに息を呑んだ。
(すまない、シェイラ……)
彼女を裏切ってしまった。申し訳ないという気持ちも、きつく陰茎が締めつけられたことで掻き消える。だが中には出したくないとすんでのところで引き抜いて外へ出した。
(ああ……)
血が混じっているのを目にして、オズワルドはシェイラ以外の女を抱いてしまったことを思い知らされる。
マティルダはぐったりと目を瞑っていた。だがオズワルドの言葉に目を開いて、あまつさえ「ありがとうございます」とお礼まで言ってきたので、彼は何とも言えない気持ちになる。そして自分が逃げ出せない一歩を踏み出してしまった気がした。
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