悪女は愛する人を手放さない。

りつ

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19、乱れて*

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 マティルダは快感を得るのに夢中で、扉をそっと開けて誰かが入ってきたことに気づかなかった。たとえ気づいても、ポーリーだと思っただろう。

 まさかオズワルドがこんなに早く帰ってくるなんて、思いもしなかったから。

「夜会に、出席したのではないのですか……」
「ええ、出席ましたよ。それで帰宅して、妻が寝ているかどうか確かめにきたんです。ですが――」

 彼は花唇に咥えられたマティルダの指に視線を向けた。彼女はカッとなって慌てて指を引き抜くも、べっとりと濡れた指先や蜜口、蕾を硬く尖らせた乳房、白い脚が誘惑するように投げ出されている姿はもう隠しようがなかった。

「何をしていたんですか」

 オズワルドの口調は先ほどより丁寧であったが、それゆえ尋問されているような威圧感を与えてきた。

 とりあえずマティルダは起き上がって前だけでも隠そうとしたが、手首を掴まれ、一糸纏わぬ姿を露わにされる。不安になって彼を見上げても、答えるまで許さないと冷たい目をしていた。

「……自分で、慰めていたんです」
「昨日も、あんなにしてあげたのに?」

 そう。オズワルドはマティルダの飢えを満たすように激しく、淫乱だと責めながら抱いてくれた。もちろん彼女はその言葉に興奮して何度も気をやった。でも昨日と今日は違う。先ほど自分が抱かれていたのは――

「寂しかったんです。旦那様に、会えなくて……」

 オズワルドは無言でその言葉を聞いており、手首もまだ離してくれなかった。酷い言葉をぶつけられるより、沈黙を貫かれる方が何を考えているかさっぱりわからず、マティルダは苦手だと思った。

「やってみてください」
「えっ?」

 聞き間違いかと思ってオズワルドの顔を見る。彼はにこりともせず、もう一度同じことを繰り返した。

「私の前で、いきなさい」

 彼女は困惑したが、その口調に逆らうことはせず、空いた右手で慰め始めた。

「んっ、ふぅ……」

 ぐちゅぐちゅと淫靡な音を響かせているのが自分だということに強烈な羞恥を覚える。でもそうするとますます蜜が溢れて咥えている指を意識してしまう。

「声は我慢しないで」
「あっ、はいっ、あっ、あっ、だんなさまぁっ……」

 彼の氷のような冷たい眼差しでじっと見られているかと思うと、自分は何をしているのだろうと我に返りそうになる。逃げるように目を閉じようとするも、開けているよう言われ、顎を掬われた。

(どうしてそんな目で、見るの……)

 てっきり軽蔑した、冷めた表情をしていると思ったのに、今の彼の目はぎらついて、苦しそうだった。仮とはいえ自分の妻がこんなにも淫乱で幻滅するべきなのに、情欲に駆られる自分に苛立っているのかもしれない。

 なんだか笑ってしまいそうな推測であったが、マティルダは次から次へと襲い来る快楽の波に呑み込まれそうになって、どうでもよくなった。

「ふ、ぅ、ぁんっ、ぁ、はぁっ、あっ、ぁ――」

 背中を仰け反らせて、乳房が大きく揺れた。声にならない悲鳴を上げて絶頂する姿をオズワルドに見られていることも忘れてしまい、ただ天にも昇るような心地に酔いしれた。

 恥とか、外聞とか、そういうくだらない矜持がすべてどうでもよくなる。

 オズワルドに押し倒されて、今から殺されるのではないかと思うほど獰猛な目で見下ろされていても、マティルダはちっとも怖くなかった。

「だんなさま……だんなさまのが、ほしいです……熱くて、大きいの、ください……」
「っ……」

 痛いほど手首を掴まれたかと思えば、顔があっという間に迫ってきて、互いの唇が重なった。口づけ、というにはあまりにも荒々しく、歯がガツンとあたり、唇が切れて痛みが走った。ぬるりと舌が捩じ込まれてきて、わけもわからず咥内を滅茶苦茶に犯される。

「んっ、ん、んふっ」

 息が苦しい。鼻で呼吸しても、酸素が足りない。涙で目の前が滲んで、身体を浮かせて押しのけようとしてもびくともしない。ただ相手に蹂躙されている。

(なんで口づけ、するんだろ……)

 結婚式の時も、触れるかどうかぎりぎりだったのに。身体を抱くようになっても、しなかったのに。

「はぁ……はぁ……」

 ようやく解放されて、マティルダは頬を上気させて、ぐったりとしてしまう。オズワルドは手袋と一番上の服だけ脱ぐと前を寛げさせ、昂りを挿入してきた。正常位でやるのは久しぶりだった。

「あっ、あっ、だめっ」
「はぁっ、こんなに締めつけてきて、何がだめだっ」

 違うと腰を反らせながら首を振る。

「う、うしろから、がいい……っ」

 上へ逃げようとするマティルダの腰を容赦なく引き戻すと、オズワルドはそのまま弱いところを容赦なく突いてくる。蜜の絡み合う音と肌がぶつかり合う音に彼女の甘い声が重なる。

「あっ、ぅっ、んっ、はぁっ、んんっ……」

 身を捩って悶えるマティルダを罰するようにオズワルドは手を伸ばし、ふるふると揺れる乳房を乱暴に掴んで揉んできた。今までずっと服越しだったので、直接触られて、彼の手の大きさや掌の熱さを感じ、今自分が生身の男に抱かれていることを意識させられる。

「んっ、んっ、ぁんっ――」

 オズワルドはマティルダのほっそりとした片脚を自分の肩へかけさせると、絶頂の余韻で震える彼女をさらに責め立ててくる。恥骨を押しつけ淫芽も一緒に刺激してくる。

「あっ、それ、やっ、ふかく、きちゃうっ」
「深いのが、いいんだろう、いつも欲しいと言っているじゃないかっ」

 そうだ。でもそれは顔を見なくていいから。声だけ聴くことができるから。

「んっ、おねがい、だんな、さまっ、ぎゅって、ぁっ、してっ……」

 蕩けた顔であなたが欲しいと腕を伸ばせば、オズワルドは顔を歪め、望み通り覆い被さってくる。噛みつくようなキスでマティルダの唇を貪り、首筋へ顔を埋めながら、きつい締め付けに抗いながら抽挿を何度も繰り返す。

「はぁっ、ぁっ、もっと、ぁんっ、だんなさまの大きなもので、いっぱいついてっ……」
「くっ……」

 ばちゅばちゅと狂ったように腰を振るうオズワルドを離さないようにマティルダは手足を絡ませ、ぎゅっと抱きつき、彼の動きに合わせて自らも腰や尻を揺らした。互いの汗ばんだ肌をぶつけあい、荒い息をしながら、高みへ昇っていく瞬間。

 マティルダもオズワルドもおそらくお互いの存在を忘れ、繋がった境界も壊れて一つになった気がした。


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